NEC

ADAD2022.09.26

NECとの「共創空間」で開く未来への扉 地域活性化のカギを握る観光DXの可能性

DXを可能にする先端技術について、頭では理解しつつ、その活用イメージがいまいち浮かばない企業は多いかもしれない。インスピレーションや新規事業の助けになるのはショールームだが、「NEC Future Creation Hub」は単なる展示を超えて、体験と対話の機能を強化。顧客がテクノロジーを体感して、NECとの対話を通して自社の課題とその先の社会課題を解決することを目指している。世界目線の観光コンサルティングを提供するORIGINALの代表取締役伏谷博之氏は、この共創空間を三度利用しているリピーターである。はたして、ここからどのような刺激を受けたのか。ORIGINAL とNECの共創について話を聞いた。制作:東洋経済ブランドスタジオ

ORIGINAL伏谷氏・NEC野口氏

NEC本社ビル1階。凛としたオフィスホールの中に、開放的なムードが漂う一角がある。2019年2月に開設された「NEC Future Creation Hub」だ。この施設は、来場者を迎える「Welcome Zone」、NECのDNAを紹介する「Innovation Gallery」、NECが描く近未来を体験する「Future Society Zone」、先進テクノロジーとその活用例を体験する「Technology Touch Zone」、対話とコラボレーションの場「Collaboration Zone」で構成されている。体験と対話を重視した構成は、かつて品川にあったショールームに見学にきた二組の顧客の声がヒントになっているという。DXイノベータでもあり、DXエバンジェリストである野口圭氏は、経緯を次のように明かす。

「あるお客様は、『おもしろくて頭は回ったけど、胸には残らなかった』と本音を明かされました。これはNECが技術の話ばかりしていて、その技術が社会価値にどのように結びつくのかをお伝えできていなかったからでしょう。また、ある企業の経営者は部下に『NECが言いたいことを言い続けていて、私には何のメリットもなかった』と激怒されていたとか。お客様を失望させてしまったのは、私たちにお客様目線が欠如していたからに他なりません。これらの声から、社会価値の創造にコミットしていることをお伝えし、なおかつお客様が主役となってイマジネーションできる場を作ろうという思いで、NEC Future Creation Hubを立ち上げました」

ユニークなのは場のつくり方だ。

従来ならコンセプトをもとにデザインを固め、その通りに完成したものをお披露目しただろう。しかし、「仮説が浮かんだら、まずプロトタイプをつくってトライアル。そこでお客様からの反応を見て、会話が盛り上がったものを新施設のデザインに反映させていきました」と野口氏。顧客とNECの共創は、場をデザインする段階から始まっていたのだ。

顧客に考えてもらうための「あえての余白」

NEC Future Creation Hubの特長は3つある。

まず一つ目は、お客様目線であること。

そのコンセプトが象徴的に表れているのがWelcome Zoneだ。「以前は入口でNECのCMを流していましたが、それは私たちの都合です。今はお客様にいったん頭をフラットにしてもらえるように緑を配して、まるで避暑地にいるかのようなデザインに。NEC色は一切ありません」

二つ目は、ストーリーで示すこと。

以前は、テーマごとにブースがあってソリューションが断片的に並んでいたが、現在は一つの社会価値を全体のテーマとして掲げ、そこからバックキャストして各スペースの意味や意図がつながる展示に変えた。ディテールよりストーリーを重視することで、顧客の記憶により強く印象づける考えだ。

NEC野口氏

野口 圭

NEC Future Creation Hub
シニアエバンジェリスト

三つ目は、余白をつくること。

「完成した技術ばかりではなく、開発途上で未完成のものも一緒に見せています。大切なのはNECのアピールではなく、お客様ご自身に考えていただくこと。そこであえて余白をつくり、お客様にイマジネーションを膨らませてもらうのです。実際、物流コーナーはお客様から『現場は違う』とよく突っ込まれますが、そこから対話が始まることも多くあります」

観光の選択肢をデジタルの力で増やしていく

先端技術を社会価値に結びつけることを目的の一つにしているNEC Future Creation Hub。ORIGINAL 代表取締役伏谷博之氏は、観光という社会的テーマに取り組むためにこの空間をたびたび訪れている利用者の一人だ。ORIGINAL は自治体や企業に世界目線の観光コンサルティングサービスの提供や、日英バイリンガルのシティガイド「タイムアウト東京」を運営するなど、観光と街づくりの領域で事業を展開中だ。

「少子化の進む日本で、地域を持続可能なものにする有力な手段がインバウンドです。ところがパッケージツアーに象徴されるように、従来の観光はプロダクトアウト型であり、必ずしもお客様目線ではありませんでした。その転換を促す力になり得るのがデジタルです。たとえばある地域に1000の観光資源があっても、従来は人がマネジメントしていたので100の選択肢しか提示できませんでした。しかし、デジタルを活用すれば人の限界を超えて選択肢を示せます」

ORIGINAL伏谷氏

伏谷 博之

ORIGINAL Inc. 代表取締役/
タイムアウト東京 代表

タワーレコード株式会社に入社後、2005年 代表取締役社長に就任。同年ナップスタージャパン株式会社を設立し、代表取締役を兼務。2007年 ORIGINAL Inc.を設立し、代表取締役に就任。2009年にタイムアウト東京を開設し、代表に就任。観光庁、農水省、東京都などの専門委員を務める。

観光DXは旅行者の体験を向上させて、地域を活性化させる可能性を秘めている。

ただ、いまのところスマートシティにおいて観光はone of themに過ぎない。観光のプライオリティをもっと高めるために何ができるのか。実は同社は以前からそうしたテーマでNECと議論を重ねており、NEC Future Creation Hubを訪問することになったのも、その延長線上だったという。

「たとえば顔認証の技術について、話を聞くだけでは見えてこないところがあります。体感したほうが早いだろうと考えて、観光領域のステークホルダーを誘って一緒にうかがいました」

先端技術なのに温もりを感じるワケ

伏谷氏はNEC Future Creation Hubの印象を「手垢がついている」と表現する。

「観光にいって、外側は古民家なのに中はピカピカで失望した経験はありませんか?先日あるシンポジウムでご一緒した大学の先生がおっしゃっていたのですが、それは人が使い込んだ痕跡や、それによって生まれる温度感のようなものがないから。一般的なショールームも同じで、先端技術は当然、手垢がついていないのでつまらないものになりがちです。しかし、ここは先端技術なのに物語をイメージしやすくて、想像力が刺激されます」

見学者の想像力を掻き立てるのは、ストーリーを重視した構成や余白を残した見せ方だけが要因ではない。伏谷氏が注目するのは野口氏の語り口だと言う。

「観光の世界では、情報を説明するだけの“ガイド”より、相手の関心に合わせて紹介の仕方を変える“インタープリター(通訳者)”が活躍しています。野口さんは、まさにお客様目線を持ったインタープリター。開発者が説明するとパッションが強すぎてプロダクトアウトになりがちですが、野口さんは開発者の思いを受け止めて、こちらのニーズや関心を踏まえたうえでうまく伝えてくれる。これまで3回、ステークホルダーをここに連れてきましたが、毎回話す内容が変わっていたのには驚きました。まさにプロフェッショナルです」

対話から生まれる観光のイノベーション

NEC Future Creation Hubは、顧客とNECの共創空間。

体験後は「Collaboration Zone」で対話がスタートする。体験で湧いてきたイマジネーションをディスカッションでさらに拡げたり、デザイン思考で具体的な答えを導く短期集中プログラム「Digital Experience Design Service in 60 Days」に入っていくケースもある。どのようなゴールを設定して共創を進めていくかも顧客のニーズしだいだ。

伏谷氏は、定式的なプログラムで共創プロセスに入るのではなく、その都度ラフな形でディスカッションを重ねているという。実はこの日も二人は取材間の合間にAIをテーマに話が盛り上がっていた。「なぜその予測を導いたのかわからないのがAIの弱点。そこを改善していくのが目下の課題です」(野口氏)、「観光客は正解を求めているわけじゃない。正しくなくても、このAIのレコメンドなら委ねてもいいと思える関係ができたらおもしろい」(伏谷氏)。現段階ではブレーンストーミングのレベルだが、いずれこうした対話の中から日本の観光課題を解決する共創事例が生まれるに違いない。

ORIGINAL伏谷氏・NEC野口氏