ランサムウェアをはじめとして、企業に対する攻撃の起点は、ほとんどが「メール」によるものだ。企業もそれに備え、標的型メールの対策訓練などを実施して、社員に不正なメールの添付ファイルを開いたり怪しいリンクをクリックしたりすることでマルウェアをダウンロードしないよう、教育してきた。
だが昨今、攻撃者から送られてくる不正なメールは、一昔前のものとは比較にならないほど「完成度」が高い。日本語の文法や漢字の間違いはほとんどなく、自然に読めるメールが送られてくる。一般のビジネスパーソンが見ただけで、不正なメールを判断することはほぼ不可能だ。
加えて上原氏は、昨今の攻撃は不正プログラムをダウンロードさせるものだけではないと指摘する。前述したクラウドサービスの急拡大に対応し、ログイン情報を窃取するための「フィッシング」が増えているのである。
フィッシングとは、メールに書かれたURLをクリックして、犯罪者が作った偽のページ(フィッシングサイト)に誘導する攻撃のことである。例えば本物のクラウドサービスに酷似した偽サイトに誘導し、そこに個人情報を入力させ、奪い取る。
これを防ぐには、メールに書かれている怪しいリンクをクリックしないよう徹底するしかない。しかし、クラウドを使った仕事が広がり、メールやチャット内のリンクをクリックして、クラウドストレージからファイルを取得する行為が一般化したことで、逆に仕事の中で「リンクのクリックは当たり前」の状況が生まれ、対策を難しくしている。
立命館大学 情報理工学部 教授
上原 哲太郎 氏
Tetsutaro Uehara
「怪しいファイルはダウンロードしないようにしましょうと言いながら、一方で、日常業務がリンク先のファイルのダウンロードによって成り立っている現実もあります。メールの観点からすると、非常にやっかいな課題が増えた印象です」(上原氏)
攻撃メールの偽装が巧妙になり、人の努力に頼るだけでは限界がある。そのため、新たにセキュリティツールを導入し、不正なサイトへのリンクを無効化するなどの対策も必要になってきている。
「メールが攻撃者の標的になっていることは確かです。経営者の方には、いま一度自社のメールセキュリティがどうなっているか、情報システム部門に確認することをお勧めします。例えば、なりすましメールを防ぐ仕組みはどうなっているか、あるいはフィッシングのリンクを無効にする仕組みはあるのかなどを確認し、共有することが、社員のセキュリティ意識を高める一歩になります。もちろん不足があれば、対策に向けた投資を検討すべきです」(上原氏)