学部・学年を横断した「総合知」を通して、
現代社会で必要とされる実践力を
育成している
武蔵大学の
リベラルアーツ&サイエンス教育。
その授業科目は一般的な教養にとどまらず、
データサイエンスからスポーツに至るまで
幅広い分野の学びを提供し、
社会の変化に柔軟に対応できる
人材の輩出を目指している。
革新的な教育プログラムを通じて得られる
「自分らしい生き方」の基盤とは。
2つの学びの側面から、その真価を探る。
社会学部長
粉川 一郎 教授
リベラルアーツ&サイエンス
教育センター副センター長
森 健一 教授
武蔵大学では、幅広い教養とグローバルな視点を持つ人材の育成を掲げ、全学年対象かつ学部横断の総合的なリベラルアーツ&サイエンス教育の充実を図っており、文理の壁を越えた学びを展開している。
とくに社会的要請が高まるデータ活用に関する科目では、データサイエンスの基礎知識から企業と連携した実践学習まで、幅広い講義をそろえている。データサイエンスについて、社会学部長の粉川一郎(こがわ いちろう)教授は「専門教育ではなく、誰もが等しく持つべき基礎的な教養」だと話す。
「リベラルアーツの本質とは、社会の中で生きていくうえで必要な力を持つことです。現代におけるリベラルアーツには、社会や企業が抱える課題をデータで解釈し、理解する力が求められています。例えば政策立案や効果的な広報・広告戦略においては、過去のデータやシミュレーション結果を基にした根拠ある計画が必要です。データサイエンスの学びはデータを活用し、課題解決や計画立案、合意形成を図る力を得ることに直結します。そういった実社会で使える実践力を身につけるために、リベラルアーツ&サイエンス教育の重要な柱の1つに、データサイエンスを位置づけています」(粉川教授)
データ活用は、企業の戦略策定から公共政策の立案の基盤を作る上で、今や不可欠なものだ。また企業のマーケティングにおいては、消費者の行動やメディア・SNSへの接触など必要なデータを収集し、分析することが当たり前のように行われている。
「多様性が求められる社会の中では、経験則や習慣に基づいた意思決定を行うことはできません。私たちは様々な場面で合意形成をする際に、正しく論理的な根拠を示していく必要があります。文系の学生は社会問題や文化に対する知識を前提として持っていますから、データサイエンスの基礎を習得することで、政府・企業・非営利組織などあらゆる組織においてデータを効果的に活用して課題解決に貢献できます」(粉川教授)
武蔵大学のデータサイエンス教育は、3つの階層で構成されている。1つ目の階層は、全学部生を対象としたデータサイエンスの基礎教育だ。データの種類やその活用方法などの総論的な内容を含んでいる。
2つ目の階層は、統計学やプログラミングの授業を通じて、実社会でのデータ利活用を学ぶことだ。この階層に位置づくデータサイエンス副専攻では、企業との連携プログラムを通して実践的な授業を行っている。
3つ目の階層は、各学部の専門教育に合わせた高度なデータサイエンス教育となる。国際教養学部では、武蔵大学に通いながらロンドン大学の学位取得を目指せるパラレル・ディグリー・プログラムにおいて、ビジネスデータサイエンスに関する専攻を追加予定。経済学部、人文学部、社会学部でも、それぞれの専門分野と結びついた最先端のデータサイエンス教育を構想し、27年からの実施を予定している。
これらの学びを通して、全学部生に対して包括的で実践的なデータサイエンス教育を提供し、現代社会で求められるスキルを養成しているのが、武蔵大学の大きな特徴だ。
リベラルアーツの学びは、机上での学びだけとは限らない。「人が自由に生きるための知を身につける」という前提に立った時、身体を動かしながら学ぶこともまた、人生を豊かにするために必要なものと言えるだろう。その観点から、武蔵大学はリベラルアーツの科目にひも付けて、身体運動科学やスポーツ実践の授業を充実させている。
リベラルアーツ&サイエンス教育センター副センター長の森健一(もり けんいち)教授は、「身体運動科学やスポーツ実践の学びは、体力向上や健康維持だけでなく、各学部の専門分野にも幅広く関連しています」と説明する。
「体力や健康の視点だけでなく、スポーツを通してマネジメントや社会学的な学びを得ることができます。例えば、スポーツ大会の予算管理や運営方法について学ぶことは、経営学やマーケティングの知識習得につながりますし、社会におけるスポーツの文化的影響を探ることで、社会学や人文学の研究を深めることも可能です。このように、スポーツはリベラルアーツの学びそのものであり、さまざまな学問分野と深く結び付いているのです」(森教授)
さらに、スポーツを通して「身体知」を得ることができる。これは、実際にスポーツを行い、体の動きや反応を通じて、理論学習だけでは得られない学びのことを指す。
「身体知、すなわち身体を通して自分自身を理解することは、自己認識や自己管理の能力を高めることにもつながります。例えば、定期的な運動を通じて自分の体調や体力の変化を感じ取ることができ、それに基づいて適切な健康管理を行うことができます。これにより、社会に出てからも日常生活や職場でのストレス管理やパフォーマンス向上にも役立ちます」(森教授)
具体例を挙げると人の心を科学的に解明し、各種の心的障害について論じる授業「こころの科学と健康」では、心の健康とその障害に関する基礎知識や、具体的な対処法を学べる。また、「アダプテッドスポーツ・ワークショップ」では、スポーツを通じて障がい者や高齢者と交流しながら、インクルーシブ社会について深く考えることができる。
これらの授業で重きを置いているのは、健康を維持するための理論や実践を学ぶことだけではなく、スポーツの新しい形態や多様性について探究する点だ。
また少人数制のゼミでは、スポーツや身体運動科学をテーマに、学生がフィールドワークやアンケート調査を通じて実践的な経験を積むことができ、スポーツをテーマにした卒業論文を執筆し論文指導を受けることもできる。
森教授のゼミではコーチング学やトレーニング科学を中心に、健康・体力に関するテーマやスポーツ競技の指導方法に力点を置いて指導しているという。
多彩な授業科目をそろえる、リベラルアーツ&サイエンスの学び。その最大の目的は、学生の教養や実践力を高め、豊かな人生を送るための土台を作ることだ。
「豊かな人生を送るためには、自分自身の生き方に納得でき、楽しいと感じることが大切です。深い教養を身に付けることは、自分の判断に自信を持つことにつながります。また自由な時間の最大化を図ったり、経済的価値を追求するといった多様な生き方を選ぶためには、データサイエンスの知識が大いに役立ちます。これは、思想や経験に加え、実際のデータを基に自分の選択を正当化できるからです」(粉川教授)
「スポーツは健康の維持・増進だけでなく、心理的な満足や社会的なつながりを通じて人生を豊かにする重要な要素です。スポーツを『する』『見る』『支える』ことで、ウェルビーイング(幸福度)の向上が期待できます。
また、スポーツを通じて自分の体にどのような変化が起こるかを観察することで、自己認識が深まります。スポーツはデジタルの世界では代替できない活動であり、豊かな人生を送るために必要な身体的健康の維持、心理的満足の追求、社会的つながりの強化といった多面的な要素を含んでいます」(森教授)
知識の習得にとどまらず、社会で実践できるスキルを身に付けることを目指している武蔵大学のリベラルアーツ&サイエンス教育。その広く深い学びは、個々の学生が多様な視点から物事を考え、自己の成長を実感し、社会に貢献できる人材へと成長することが期待できる。そして、その学びは社会に出てから遭遇するさまざまな壁を乗り越えるための力となり、生涯の財産となるはずだ。武蔵大学は、今後も学生たちが未来に向けて力強く羽ばたけるよう、リベラルアーツ教育の深化と実践的な学びの充実を図っていく。