
生き馬の目を抜くほど目まぐるしい時代である。しかし、どれほどテクノロジーが進化していても、人同士の営みの中からあらゆる物事が生まれてくるという本質は変わらない。古河市兵衛が残した成功の秘訣も、渋沢栄一が主張した経営学も、大切な訓戒として現代社会に息づいている。時代の波を乗りこなすことに没頭するあまり、その背後に漂う大海原の存在を軽んじてしまうのは、実に勿体のない話だ。
温故知新。故きを温ねて新しきを知る。歴史の重みを知ったうえで物事の本質に注目できるような人の腕元には、時計史に名を残す名作モデルの復刻が相応しい。たとえば、このハミルトンの「イントラマティック 68 オートクロノ」は、1968年に発表された「クロノグラフB」を忠実に再現している。黒文字盤に白色のサブダイヤルを横に並べたデザインから逆パンダと呼ばれ、60~70年代に絶大な人気を博したものだ。大きめのリューズやプッシュボタン、ラウンド風防、ポリッシュ仕上げのケース、そしてクラシカルなブランドロゴなど、ヴィンテージなディテールが随所に施され、味わい深い雰囲気を放っている。
時計の伝統が息づいた、名作クロノグラフの後継モデル。それを手にしたユーザーからは、歴史を受け止め、次世代に継承しようという姿勢が読み取れるようだ。