税務の正確さだけでは相続の問題は解けない
税理士法人レガシィ(以下、レガシィ)の歩みは、1964年に現・代表の祖父である天野克己氏が、東京・京橋に事務所を開設したことから始まった。その後、子息の天野隆氏が入所したことを機に、相続・資産税の専門領域へと舵を切る。
2021年には3代目となる天野大輔氏が代表に就任。現在は相続税申告にとどまらず、事業承継、M&A、不動産、デジタルサービスへと支援領域を広げている。
「相続を起点にお客様の課題をたどっていくと、納税資金の確保、非上場株式の承継、不動産売却、後継者不在時の第三者承継など、複数の論点が連鎖して立ち上がります。相続・事業承継の専門性を軸にしながら、実務上の課題に応えるために、支援の幅を広げてきました」
相続や事業承継では、数字だけでは整理しきれない問題が次々と浮かび上がる。財産をどう分けるのか。誰が会社を継ぐのか。先代はどこまで経営に関わり続けるのか。こうした問いは、家族の歴史や経営者のこだわりとも深く結び付いている。
「私たちは『勘定より感情』という言葉を大事にしています。税理士が数字を見るのは当然ですが、相続の現場では人の感情がとても繊細に動きます。そうしたデリケートな局面にどう寄り添うかが問われます」
相続人が複数いる場合、財産分割の場面で過去のきょうだい間の不公平感などの記憶が表面化することもある。第三者にはささいに見える論点でも、当事者にとっては長年の感情が積み重なった重い問題だ。だからこそ、税理士には税務面の観点からの複数の分割シミュレーション案を示すだけでなく、相続に関わる人間の感情面の行き違いを解きほぐしながら、必要に応じてほかの専門家とも連携しつつ、誰に、どの順序で、どう説明するかを見極め、合意形成をあらゆる側面から支援していく工夫も求められる。
「寄り添いながら、選択肢を示し、お客様にとって何がよいのかを一緒に考える。そのバランスに専門家としての知恵が問われます。感情への配慮と同時に、形式的なルールだけにとらわれない実務への姿勢も、われわれの特徴です」
例えば、相続税評価では国税庁の基本通達に沿った処理が一般的だが、その判断には個別事情の検討が欠かせないという。
「法律では相続財産を『時価』で評価するとされています。通達に沿って処理することは基本ですが、個別性が強い場合には、法令の原則に立ち返り、事実関係を丁寧に整理したうえで、適正な評価を検討する必要があります。そこに専門家としての知恵が求められるのです」
事業承継は「引退の準備」ではなく、次代へつながる成長戦略
こうした複雑性の高い案件に対応するため、レガシィでは、富裕層やオーナー経営者の相続・事業承継に20年以上の実務経験を持つ税理士が関与する「プレミアムプラン」も用意している。
資産10億円超の案件では、相続人が海外に居住していたり、地主で納税資金の確保が難しかったりと、論点が複合的に絡み合う。相続人の数が多く、分割協議が難航するケースも珍しくない。また、形式的な処理では済まない場面ほど、専門性の差は明確に表れる。その差は、より長期的なスパンが求められる事業承継においてさらに重要になる。
「事業承継は1年で設計して終わるものではありません。後継者の育成、組織の納得、意思決定ルールの整備には相応の歳月を要します。私自身も3代目として承継を経験しましたが、先代側は10年単位の後継者育成計画を立てていました。日々の業務に追われ、経営課題として承継を後回しにするケースは少なくありませんが、専門家が伴走しながら、何を大切にするのか、会社をどう継続させるのかという根本的な問題を解決することが重要です」
すぐに実行に移さないとしても、現在の株価や後継者候補、家族の意向、そして税制の選択肢をあらかじめ整理しておけば、将来の判断の幅は大きく広がる。
「法人版事業承継税制についても、特例承継計画の提出期限が2027年9月末まで延長されたことで、検討の時間は残されています。ただ、制度を使うかどうかは税負担だけで判断できるものではありません。後継者の意思、株式の移転時期、家族間の公平性、将来の経営方針などを整理したうえで、活用の可否を判断する必要があります」
天野氏は、経営者が孤独に悩まないための環境づくりにも視線を注ぐ。
「承継を考えることは、決して後ろ向きな引退準備ではなく、会社が次の時代で飛躍するための成長条件を整える、極めて前向きな準備です。同じ後継者の立場の人と話すだけでも、『自社でも考えてみよう』というきっかけになります。そうしたコミュニティーや考える機会も増やしていきたいと考えています」

専門家の連携設計が、相続・承継の精度を決める
相続・事業承継の相談先を選ぶ際、経営者は何を基準にすべきか。レガシィが重視しているのは、税務だけでなく、経営、家族、不動産、感情まで含めて全体を俯瞰することである。
そこで重要になるのが、会社の歴史や家族の事情を知り尽くした顧問税理士との関係だ。顧問税理士以外のほかの専門家への依頼を不義理と感じて躊躇する経営者もいるが、レガシィは高度な資産税評価や複雑なスキームを担い、顧問税理士には家族の文脈を補う役割を担ってもらう協働体制を設計している。
「顧問税理士の先生は、お客様の性格や家族関係をよくご存じです。そうした文脈を共有していただくことで、私たちの提案の精度も上がります」
また、会社法や株主間契約、信託、M&Aなど法務上の論点が増える中、グループに参画した弁護士法人レガシィとの連携体制も整えている。
「税務以上に法律的な課題が出ることもあります。ただし、税理士法人と弁護士法人の連携には法律上の境界線があります。それぞれの専門職としての役割と法律上の境界線を守りながら、税務と法務の両面からお客様を支える体制を整えています」
「勘定より感情」とは、数字を軽視するという意味ではない。税務の専門性を最大限に生かすためには、人の感情や関係性を無視してはならないという、レガシィが積み上げた実務から導き出された教訓だ。相続と事業承継を単なる節税策ではなく、経営の継続性を守るための設計課題として捉える視点を持つことが、次世代へ財産をつなぐ確かな第一歩になる。
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