日越関係は「最良の時期」、新たな協力の時代に
「日本とベトナムの協力関係はいま、かつてない最良の時期を迎えています。ベトナムにとって日本は重要なパートナーです。経済協力も目覚ましく強化され、相互補完性が高まっています」
日越関係の現在地について、ファム・クアン・ヒエウ駐日ベトナム大使はそう語る。日越間の貿易総額は2025年に初めて500億ドルを突破した。さらに日本は対ベトナム投資において第3位の投資国であり、そしてODA(政府開発援助)では第1の支援国である。
ASEAN諸国の中で、ベトナムは急速な経済成長が期待されている国だ。ベトナムで事業を行う日本企業は約2000社に達し、約6割が今後1~2年以内に事業を拡大する方針を示しているという※1。日本の伊藤直樹駐ベトナム大使も、近年の日越関係の目覚ましい発展ぶりをこう語る。
ファム・クアン・ヒエウ氏
「2023年に日越外交関係50周年を迎えたタイミングで、両国関係は『アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ』に格上げされました。これにより新しい協力の時代に入ったのです」
日越協力関係の柱とされているのは経済発展の基盤となる科学技術分野、両国の地方自治体同士の連携、そして人材交流だ。
日本国内におけるベトナム人コミュニティーは年々拡大し、出入国在留管理庁によると2025年12月末時点の在留ベトナム人数は約68万人に上る。また、厚生労働省によると2025年10月末時点での日本における外国人労働者数※2は約257万人であり、このうち、ベトナム人労働者は約61万人で実に4分の1弱を占めている。
少子高齢化による人手不足に直面する日本において、ベトナム人材は日本経済や企業活動にとって重要な存在となっている。ヒエウ大使は「ベトナムには若くて豊富な人材があり、日本には優れた科学技術やマネジメントの知見がある。両国はお互いの発展に必要なものを持ち合わせており、高い相互補完関係にあります」と語る。
こうした「人」の動きは、地方自治体の結び付きも強めている。「日本の自治体の間でベトナムへの関心が急速に高まっています。その背景には、ベトナムの人々が働き手として来日し、個々の企業や農業の現場において、目に見える形で大きく貢献されている事実があります」と伊藤大使は説明する。
実際に、両国の自治体間では現在100以上の協定が結ばれているという。「人的交流の深さ、そして地方間の交流の活発さは、日越関係の特別な点です」とヒエウ大使は指摘する。
※2:専門的・技術的分野の在留資格(特定技能を含む)、特定活動、技能実習、資格外活動や身分に基づく在留資格などで雇用される者を含んだ数字
「働く場」としての日本の魅力を高めるには
働き手として来日するベトナム人の意識も、単に収入を得るための出稼ぎではなく自己研鑽や貢献へと大きく変化しているという。
「在日本ベトナム大使館の調査によると、日本で働くベトナム人の90%以上は日本での生活や就業に満足し、さらに貢献していきたいと考えています。日本は科学技術やマネジメントで最先端の国です。日本で働くベトナム人はさまざまな分野で学び、専門的な業務知識を身に付けて、帰国後は母国で活躍したいと思っています」(ヒエウ大使)
ただし、ベトナム人に対する需要は強く、台湾や韓国、欧州も働き先として増加している。近年の円安で日本の給与の魅力が相対的に落ちる一方、ベトナムの経済成長により国内の就職口も増大している。このような状況下で引き続きベトナムの人々を日本に引きつけ、活躍してもらうにはどうすればよいのか。
伊藤 直樹氏
「長期にわたって安心して働ける職場や生活環境の枠組みづくりに政府が中心となって取り組み、同時にベトナムの人材送出機関などと連携しながら、受入企業にも魅力的で安心な働く環境づくりにご尽力いただくことが重要です」(伊藤大使)
受入企業の取り組みとして両大使が注目しているのが、住友不動産グループのホテルブランド「ヴィラフォンテーヌ」で働く、約400人のベトナム人技能実習生・特定技能資格者に対する昇給・昇格制度や報奨金制度、毎年ハノイとホーチミンで従業員の家族や内定者を招き説明会と懇親会を行っている事例だ。
ベトナムは日本以上に家族の結び付きが強いといわれ、特に地方では大都市のホテルで働く姿のイメージがつきにくい。そこで家族向け説明会を開催し、職場環境や日本での生活の様子について周知することで、親も安心して子どもを日本へ送り出せるようになる。
「私も説明会に参加して、直接ご家族の方から『日本で娘が一人で暮らすのは不安だったが、職場で活躍していることがわかり家族として誇らしく思う』との話をうかがいました。こうした取り組みが広がり、日本で働くことの意義や安心感がご家族の間で広まることが大切です」(伊藤大使)
日本で働き、技能を身に付け、帰国後はそれを生かして活躍する――。そんな人材の循環が生まれ、日本で働いたベトナム人労働者が両国の懸け橋となれば、日越のパートナーシップはさらに深化し、お互いの発展にポジティブな影響を与えるだろう。
「長く働き続けられる」技能実習生の受け入れ環境
羽田空港に直結し、約1700室もの客室数を誇る日本最大級のエアポートホテル「ヴィラフォンテーヌ プレミア/グランド羽田空港」。この大型ホテルで客室清掃やベッドメイキングを担当しているのがベトナム人(技能実習・特定技能)だ。
代表取締役社長
小森 智之氏
「当社では受入企業である住友不動産特約店の株式会社コアズと連携して、2019年からベトナム人技能実習生を採用しています。現在働いているのは約400人、累計で756人です。皆さん優秀で、羽田の開業を機に、現在は有明や汐留などのホテルでも働いてもらっており、ホテルを運営するうえで、欠かせない存在となっています」。住友不動産ヴィラフォンテーヌの小森智之社長はそう説明する。
同社が技能実習生を受け入れたきっかけは、羽田と有明に大型ホテルを開業する際、既存の社員スタッフだけでは対応が難しいと判断したからだ。ベトナムは人材の海外就労に積極的で実績人数が多く、かつ日本との関係が良好で、安定した人材確保が期待できた。
住友不動産ヴィラフォンテーヌで多くのベトナム人が活躍しているのは、安心して長く働き続けてもらうための仕組みや環境を同社と受入企業のコアズが整備したことが大きい。
報酬面では技能実習3年修了時に40万円、5年修了時には別途20万円の報奨金を支給するほか、資格試験合格者には手当を支給。さらに経験を積んで特定技能へ移行した者の中から優秀な人材をサブリーダーに登用し、指導役として待遇も上げている。
住環境は管理人が常駐する一棟借りの寮を4つ用意。仲間と一緒に暮らしながら、困り事はすぐ相談できる。寮では七夕祭りの開催や、地域の祭りのみこし担ぎに参加するなど、日本文化に触れる機会も創出している。
「住友不動産スタイル」で日越の懸け橋に
何より取り組みの中で注目に値するのは、ベトナム人従業員の家族や内定者向けにハノイとホーチミンで開催する「家族説明会・懇親会」だ。これまでに計10回開催され、累計1300人以上が参加した。ハノイ、ホーチミン近郊だけでなく地方に住む家族についても交通費や宿泊を要する人には宿泊費を負担して招待。業務内容を丁寧に説明し実際に働く様子を映像や元技能実習生(現特定技能資格者)のサブリーダーが伝え、家族の安心と信頼を得ている。
「外国である日本で長く働いてもらうには、本人だけでなくご家族に安心してもらうことが非常に重要です。説明会はベトナムで採用を継続していくための取り組みでもあって、ここで『安心して働ける会社』と思っていただけるとほかの家族や親戚、近所の方の紹介につながることもあります」(小森社長)
この家族説明会・懇親会についてヒエウ大使と伊藤大使はともに、技能実習生が長く働き続けられる環境整備として「モデルケースとなる先進的な取り組み」と評価している。
2025年6月には東京でベトナム人従業員の懇親会を開催し、永年勤続者の表彰を行った。懇親会に参加し一人ひとりと言葉を交わしたヒエウ大使は「みんなワクワクして働いており、心打たれました」と話す。
「ベトナムの人にヴィラフォンテーヌを好きになってほしい、日本に来てよかったと思ってもらいたいとの思いでさまざまな取り組みを行ってきました。今後、育成就労制度の導入が予定されていますが、引き続きベトナムの方たちを受け入れ、日本とベトナムの懸け橋になれるようにコアズさんと一緒になって取り組んでいきたいです」と小森社長は力を込める。
安定的に外国人材を確保し長期的な活躍を支援するため、本人だけでなく家族との信頼関係を構築する独自の施策を展開する住友不動産グループ。いわば「住友不動産スタイル」とも呼べるこうした取り組みが広がっていくことが、日本が働く場として、ベトナムのみならず他国から「選ばれる」ためのカギとなるはずだ。