同調圧力に屈しない「真のリーダーシップ」とは 孤立を恐れず本質を貫いた男、石橋湛山に学ぶ

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北村氏と石破氏
昭和32年、わずか65日で幕を閉じた短命政権がある。その内閣を率いたのが第55代内閣総理大臣・石橋湛山だ。戦前の熱狂的な軍国主義のただ中で、孤立を恐れず論理と合理性で国家の過ちを指摘し続けた彼の思想は、不確実で同調圧力が強まる現代に何を問いかけるのか。公開講座「石橋湛山を現代に問う」における前内閣総理大臣・石破茂氏、そして学長の北村行伸氏の言葉から、現代のビジネスパーソンや組織のリーダーが持つべき「勇気と論理」の本質をひもといていく。

論理的にして合理的、石橋湛山が残したもの

「湛山先生が病に倒れ、総理を辞任されたのが昭和32年2月25日。私が生まれたのはその直前の2月4日です。石橋内閣という極めて短い政権の最中に、私は生を受けました」

公開講座は、石破茂氏と石橋湛山との不思議な縁の話から始まった。湛山の総理大臣在任期間はわずか65日。戦後3番目に短い短命政権であるが、石破氏は多くの業績を成し遂げた人物だと語る。

石破氏
前内閣総理大臣
衆議院議員
石破 茂

「湛山先生はジャーナリスト・宗教家・教育者・政治家・経営者という5つの顔を持っていましたが、その強みは『熱狂に流されない言論』にあると思います」

戦前、日本が満蒙(満州・モンゴル)へ進出することを正当化した際、当時の政府や世論は「人口問題の解決」「資源の確保」「国防上の必要性」という3つの理由を掲げたが、湛山はこのそれぞれに論理的に異を唱えたと石破氏は紹介した。

「第1に人口問題。『台湾や朝鮮半島を領有しても、日本の人口問題は解決しなかった』。第2に資源。『戦争をしてまで奪わずとも、平和的な貿易でお互いが利益を得る形にすればいい』。そして第3の国防。『国防が成り立たないと言うが、同じ島国のイギリスが、欧州大陸の一部を領有しないと独立できないと言うだろうか?』。と湛山先生は説いたのです」

当時の軍部や世論が威勢のいい拡大路線に熱狂する中で、このように冷静かつ合理的に「小日本主義」を唱えることはまったく世論受けしないどころか、激しい批判を浴びる行為だった。

しかし、「絶対に勝てない戦争をしてはならないという真実を見抜き、周囲が言い出せない中で最後まで自説を曲げなかった。あの時代にこのような議論を展開したことは、最大の業績である」と石破氏は話す。

「勇気と真心で真実を語る」ことの大切さ

この「真実を貫く姿勢」は、現代のあらゆる組織のリーダーにも通底する。石破氏は、石橋湛山が総理就任直後の演説で残したという、ある言葉を紹介した。

「湛山先生は『私は人に気に入られることを言うために総理大臣になったのではない。人に嫌われることも言う。そのために総理大臣になったのだ』とおっしゃいました。真実というものは、往々にして人々の耳に心地よいものではなく、大抵受けが悪いものです」

石破氏自身も、若手議員時代に渡辺美智雄氏から「勇気と真心を持って真実を語るのが政治家の仕事だ」と教えられ、感銘を受けたという。それは例えば国政における消費税の必要性や、安全保障の根幹に関わる「自衛隊と軍隊の本質的な違い」といった、世間が直視したがらない矛盾や課題を指摘する際の難しさにも通じていると語る。

「矛盾を指摘して本質的な議論をしようとすると、大抵みんな嫌な顔をするわけです。しかし真摯に真心を込めて話せば、耳に心地よくなくても『あいつの言うことは聞いてみようかな』と思ってもらえる。それこそが、語る側に求められるものではないでしょうか」

整然と真実を見抜き、それが不都合なことであっても、周囲にどうわかってもらうかに腐心する。嫌な顔をされても、組織や社会のために論理的にどうあるべきかを語り続ける責任と覚悟こそが、石橋湛山から現代のリーダーが受け継ぐべき姿勢であると石破氏は訴えた。

「当事者意識」が持つ本当の意味

そして真実に向き合うべきなのは、トップに立つ者だけではない。石破氏は「国民主権」、ビジネスに置き換えれば組織における「当事者意識」の解釈について問いかける。

「国民主権とは、有権者が『あれもやって、これもやって』とただ要望することではなく、一人ひとりが『もし自分が統治者であったならどう判断するか』を考えて一票を投じることです」

耳触りのいいことばかりを言う者に流されるのではなく、厳しい現実や真実を見極めることができるか。これは、トップの決断を支える組織全体の成熟度を測る試金石ともいえるだろう。

湛山の教えに学ぶ「理想のリーダー」とは

講演の後半で行われた北村行伸学長との対談では、世間の空気にあらがい、真実を貫くことの難しさが話題に上った。北村学長は日本社会特有の性質に触れ、湛山の強さの源泉について問いかける。

北村氏
立正大学
学長
北村 行伸

「日本人はどうしても空気を読み、世の中の流れに同調してしまいがちです。その中で湛山先生が毅然と立ち向かえたのは、彼の中に『世の中の多数派とは違うかもしれないが、ここだけは譲れない』という強い信念があったからではないでしょうか?」

これに対し、石破氏は「評論」と「実践」の違いに触れながら、同調圧力の中で真実を語る厳しさを口にする。

「『これが真実だ』と語るだけならまだ簡単です。しかし組織を動かすリーダーは、それを現実の社会で実行しなければなりません。大抵の場合、耳の痛い真実を主張することは自身の損につながります。自身の保身や利益だけを考えれば、世間に迎合したほうがよほど楽なのです」

ではリスクを引き受けてでも、湛山が真実を語り続けた原動力は何だったのか。

「たとえ激しい逆風にさらされ、自身が不利益を被ろうとも、国家を正すために真実を突きつける勇気。己の損得を捨てて『公(おおやけ)』に尽くし抜くという強烈な使命感こそが、湛山先生を突き動かしていたのだと思います」

対談の最後は、「次世代のリーダー育成」の話題で締めくくられた。北村学長の「湛山先生は立正大学の学長を15年以上務め、若者の育成に熱意を注がれました。どの世界でも世代交代は不可欠ですが、後進をどう育てるべきでしょうか」という問いに対し、石破氏は自らの背中を見せることの重要性を語る。

「湛山先生についていっても、お金が儲かるわけでもポストが得られるわけでもなかったでしょう。それでも『利害得失抜きに石橋湛山が好きだ』というファンがいた。損得を超えて支持される、そういう人間的魅力を持ったリーダーが育つことが、これからの日本には必要かと思います」

過去の歴史を懐古するにとどまらず、現在の不確実な社会を生き抜くための本質を突いた石橋湛山の「言論の力」と「論理的思考」。その輝きは、混迷を極める現代のビジネスシーンにおいてこそ、大きな道標となるはずだ。

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