顧客価値を創出し、企業成長に導くDX・AI戦略 現状改善ではなく、体系的な改革アプローチを
山口 重樹氏
目的はコスト削減ではなく顧客価値の創出
「デジタル化やAI活用と聞くと、業務効率化やコスト削減をイメージする方が多いのではないでしょうか」。そう問いかけるのは、シンクタンク機能とコンサルティングサービスを提供するNTTデータ経営研究所の代表取締役社長、山口重樹氏だ。
欧米に比べると日本はデジタル改革が後れているといわれている。しかしながら業務の効率化では一定の成果も出始めており、課題は売り上げの増加や顧客満足度の向上といった「ビジネスの成長につながる成果」にうまく結び付けられていないことだと山口氏は考える。
「欧米でも既存企業の多くは、ビジネスの成長につながるDXやAX(AIトランスフォーメーション)については苦労しており、ビジネススクールでもDX・AXを成功させる体系的な方法論作りに取り組んでいます。私はそれらの体系的方法論を日本に紹介し、実際の経験や日本企業の事情を加味してひもとき、議論し、学ぶ場として、NTT DATA DX Institute(以下、DXI)を2023年に開始しました」
アメリカのビジネススクールには多くのDX・AXの研究者がおり、山口氏は自身の考えに近い海外の研究者に声をかけながら、さまざまな日本企業のDX・AX責任者にも参加してもらったという。
「DXIでは、顧客視点のデジタル改革、新たな組織の設計、競合に対する戦略など、いくつかのテーマに沿って、実践的な講義やディスカッションを行っています。最近注力しているのは、急速に進化するAIをいかにデジタル改革の中へ取り込んでいくかということです」
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新しい体系的方法論の1つが、山口氏も翻訳に携わった『フュージョンストラテジー』という書籍に書かれている。これまではサービス業などで比較的多く取り組まれていたDX・AXだが、この著書では「もの」が「ソフトウェア化」され「コネクト化」する世界において、製造業にもDX・AXの新たな機会が訪れると予見している。著者の1人であるビジャイ・ゴビンダラジャン教授にはDXIで講義をしてもらい、活発な議論が行われたという。「この本は、ものづくりの高度な技術を持つ日本の企業にとって、成長のヒントがたくさん詰まった一冊だと思います」。
固有データとAIを活用した製造業の新たな顧客価値創出
製造業では、AIによって工場の製造プロセスの自動化・最適化を目指す試みが始まっている。それも重要だが、山口氏は「顧客価値創出の起点」でデジタル技術・AIをどのように活用していくか、を考えなければならないと訴える。
例えば、アメリカのとある農機具メーカーは、顧客にとって真の課題はコスト効果の高い農業機器の購入ではなく、単位当たりの収穫量を上げることだと捉え、機器をリモート操作・自動運転化するだけでなく、センサーとAIを活用して、土壌に合わせた最適な肥料や農薬の散布サービスを提供しているという。 まさに「顧客価値創出の起点」でのAI活用といえよう。
「AIを活用すれば、利用状況や故障のデータだけでなく、設計、生産、修理などのデータに一元的にアクセスできるデータベースとして管理し、故障があればどの工程のどこに原因があったかも把握できるようになります。そのため、これからの製造業は自社固有の設計、生産、保守、利用に関するデータを学習した『自社固有のAI』が重要となってくるでしょう」
顧客価値を起点としたビジネスの型を提供
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山口氏が推すもう一冊が『コネクテッドストラテジー』である。顧客との「つながり」を再設計し、新たな顧客価値を創出するための「体系的方法論(フレームワーク)」について解説した本だ。
「これからの企業経営は、より多くの顧客価値を低いコストで提供することが求められます。これまでは顧客価値を上げようとすると、より多くのコストがかかり、より多く支払ってもらえる顧客に絞って高度なサービスを提供せざるをえませんでした。しかしデジタル技術とAIを活用すれば、コストをあまりかけずにその顧客にパーソナライズされたサービスをほぼ自動で提供できるのです」
とはいえ、顧客との信頼関係は一度失うと回復するのが難しい。重要な判断や対応は人間が行う必要があると山口氏はクギを刺す。「AIと人間の役割分担の設計が、今後ますます重要になってくるでしょう」。
製造業においては今後、「もの」だけでなく、そこに「ソフトウェア」と「デジタルサービス」が一体となって顧客価値を提供する時代になるという。より「製造業のサービス化」が広まっていく中で、高品質な日本企業のものづくりは、体系的な方法論に基づくDX・AXを付け加えれば、世界でも認められる製品・サービスを提供できるようになるだろうと山口氏は見据える。
DX・AXで大事なのは、その技術を使って何を実現するか、どの顧客にどのような価値を、どのようなバリューチェーンで実現していくか、なのだと『コネクテッドストラテジー』は教えてくれる。
「AIが普及しつつある現在、私たちは今後も引き続き、海外の新たな知見をひもとき、紹介し、一緒に議論し学んでいく活動を続けたいと思っています」




