なぜ今、南海電鉄は「NANKAI」へ生まれ変わるのか 社長が語る、「まちづくり企業への転換点は今」

人々のライフスタイルと同時に変化する「移動需要」
人口減少やライフスタイルの変化が進む中で、鉄道業界は今、大きな岐路に立たされている。大阪府南部と和歌山県で鉄道事業を展開する南海電鉄も、例外ではない。
「以前は郊外に戸建ての家を構え、都市に通勤するライフスタイルが主流だったため、沿線で住宅開発を行い、移動需要を創出して収益を上げるのが、鉄道会社共通のビジネスモデルでした。
しかし共働き家庭や都市部のマンションに住む人の増加、もはや既成事実となった人口減少により、移動需要が縮小していることをわれわれも肌で感じています。独占的な移動手段として、ある意味何もしなくても需要があふれていた時代は、過去の話になっています」と語るのは、代表取締役社長 兼 COOの岡嶋信行氏だ。
岡嶋 信行氏
リモートワークの定着やデジタル化の進展により、移動しなくても社会活動が成立する時代が到来した。岡嶋氏も「沿線を取り巻く現実を直視し、新たな成長戦略を描かなければ、沿線に明るい未来をもたらすことはできない」と危機感を募らせている。
とはいえネガティブな要素ばかりではない。関西地域は、大きな経済成長の可能性を秘めている。2025年10月に閉幕した「大阪・関西万博」を追い風に、巨大なインバウンド需要の創出はもちろん、万博会場となった夢洲(ゆめしま)は大阪IR(統合型リゾート)計画が進んでおり、JR大阪駅北側の再開発や開業に向けて工事が進むなにわ筋線など、着々と開発が進んでいる。
「関西がドラスティックに動き出している今こそ、当社グループが地域の将来を見据え、まちづくりをリードしていかなければならないと、強く思っています」
同社は、コロナ禍を乗り越え業績を回復し、2024年度には過去最高の営業収益を記録した。「経営体力のある今がチャンス。次の時代を見据え、未来を切り拓く一手を打つ決断をしました」。
そうして2026年4月、社名を「南海電気鉄道」から「NANKAI」に改め、鉄道事業を分社化するという思い切った変革に打って出た。
「NANKAI」に改称し、鉄道事業を分社化
それにしてもなぜ、創業以来140年の歴史を持つ基幹事業である鉄道事業の分社化に踏み切ったのか。そこには積極的かつ戦略的な狙いがあるという。
「鉄道会社として、もはや『運ぶ役割』だけを果たしていればよい時代ではなく、社会課題を解決して沿線をはじめとする地域の価値そのものを高める存在へと進化することが求められています。言い換えれば、まちづくりをリードする役割です。それを果たすために、目的や事業スピードに即した最適化を図る必要があると考えました。
『NANKAI』は、不動産事業はもちろん、新規事業創出なども通じて、グループ全体の成長を牽引する存在です。経営と近い距離において経営判断・実行のスピードを高め、新しいことに次々挑戦していきます。
加えて、沿線に魅力的なまちを育てていくための『司令塔』の役割や、グループコーポレート機能も担います。一方の鉄道事業は、公共交通サービスの持続的な提供に主眼を置き、長期的なエリア価値向上の視点で事業成長を推し進めていきます」
分社化によって経営体制がスリム化し、意思決定のスピードや経営の機動性は大きく高まる。さらに経営を自立させることで、それぞれのコア事業に投資や施策を集中させることができるというわけだ。
こうした新体制の下、「NANKAIグループ」は、改めて交通インフラを支える事業と暮らしの価値を高める事業のシナジーによって沿線の価値を創造していくことを成長軸に据えている。それに当たり、2050年の企業像として「沿線への誇りを礎に、関西にダイバーシティを築く事業家集団」になることを掲げた。
「ダイバーシティ」には、「多様性(Diversity)」という意味と同時に、「多様性あふれるまち」を意味する造語「Diverse City=DiverCity」の思いも込められている。あえて「交通」や「鉄道」という言葉を使わないところに、固定観念にとらわれず、前向きに変革を進めていこうとする企業姿勢が見て取れる。
「当社は、創業以来140年にわたって地域に根差して鉄道を広げ、沿線の『まちづくり』に力を注ぎ、沿線のステークホルダーの方々と強固な信頼関係を築いてきました。こうした地域の信頼とブランド力が、当社の強みです。これらを土台として、自治体や住民の方々など多様なプレーヤーと『共創』しながら、“選ばれ続ける沿線づくり”に貢献したいと考えています」
出所:南海グループ「統合報告書2025」より東洋経済作成
すでに着手していることもある。その1つが「グレーターなんば構想」だ。なんばターミナルから新今宮・新世界に至る一帯を「グレーターなんば」エリアと位置づけ、官民・地域と連携しながら商業・観光・交通といった都市機能を連動させ、回遊性や魅力向上を図っている。
「なんばCITY」や「なんば広場」の機能強化といったハード面だけでなく、通天閣周辺での体験型コンテンツ開発やイベント開催によるにぎわいの創出など、ソフト面からのまちづくりも、同社の得意とするところだ。また、大阪府南部の泉州・南河内までを一体の都市経済圏として官民・地域と手を携え、点ではなく「面」で発展を目指す取り組みも行う。
「そして不動産事業としては、自社で建設した物件を貸す従来の賃貸業に加え、資産を早期に売却して得た利益を次の投資に回す『回転型ビジネス』など事業スキームの多角化を図り、大幅な収益拡大を狙います」
開業予定の「なにわ筋線」に、沿線の価値向上への期待が高まる
鉄道事業においては、従来の移動手段としての役割にとどまらず、「選ばれ、乗りたくなる鉄道」を目指し、さまざまな手立てを講じている。「GRAN 天空」と名付けた観光列車を運行し、体験価値の向上を図ることもその1つだ。また、ICカードなどのデータを活用し、安全・安心でサステイナブルな運行体制の構築や利便性向上、新たな需要創出も進めている。
加えて、これらのビジョンを実現するには、従業員の満足度向上も欠かせないと話す。
「企業として成長し、より持続的なまちづくりを担ううえで、働く人に選ばれる会社をつくることも不可欠だと認識しています。例えば鉄道事業においては、泊まり勤務などの変則的な働き方を見直しつつあります。社員がワーク・ライフ・バランスを充実させて働ける環境をつくるとともに、いずれはお客様や社会を満足させることにつなげていきたいですね」
さらに同社が大きな期待を寄せるのが、2031年に予定されている「なにわ筋線」の開業だ。
「関西国際空港から南大阪・なんばを越えて梅田・新大阪まで、南北軸が直接結ばれることになります。それまでなんばが最北端のターミナルだった当社にとっては、大きな転換点です。
なんば以北、さらには京都まで交通の便がよくなることで、鉄道需要の拡大が見込めるだけでなく南海沿線全体の価値の向上も期待できるでしょう。なんばのまちづくりも進行しつつ、新たなまちづくりにも挑みます」
最後に「当社グループの特徴は、堅実で地道な仕事も誠実に取り組みつつ、新しいことに大胆に挑む『進取の精神』にあります。これを大切に鉄道と不動産が一体となって、人が集い、滞在し、働き、暮らし続けられる魅力的な沿線、そしてまちをつくっていきたい。南海沿線、関西地域、さらに広い地域の『しあわせなくらし』のために、挑戦を続けていきます」と熱く語った岡嶋氏。
鉄道業界全体が直面する厳しい状況や社会課題に立ち向かう同社は、「中期経営計画2025―2027」では3年間で約3600億円という巨大な投資も予定している。これからのNANKAI、そしてNANKAIグループに、期待が高まる。



