「人と組織」の経営課題にオフィスができること オカムラが磨き上げた実践的ソリューション

オフィスは「コスト」から経営課題解決の「投資」へ
近年、働き方の多様化が進み、固定席、フリーアドレス、ABW*1といったさまざまな選択肢が広がっている。しかし、どの手法が優れているかという単純な話ではない。企業風土や業務特性によって、固定席が適する場合もあれば、柔軟な運用の方が成果を生む場合もある。大切なのはワークスタイルの形式ではなく、自社の経営戦略に照らした最適化である。
オフィスはもはや単なる設備ではなく、組織成果や人材戦略に直結する経営資源へと、その位置づけが大きく変わってきたとオカムラの取締役専務執行役員、河野直木氏は語る。
オカムラ
取締役 専務執行役員
オフィス環境事業本部長
「従来、オフィス環境の整備は企業にとってコストと認識されていました。ところが、ここ数年で急激に経営課題を解決するための投資へとシフトしています。当社のお客様も、移転に伴うオフィス什器の購入に限らず、経営課題への対応を目的とした戦略的なオフィス改装が増えています」
では、どのような経営課題を解決するため、企業はオフィス環境へ投資するのか。オカムラが経営層に対して実施した調査(表1)によれば、最も期待されているのは「従業員の働きがいの向上」、すなわち従業員エンゲージメントに深く関わる経営課題だった。「深刻な人手不足に伴い、定着率を上げるため従業員エンゲージメントを高めたいという要望が増えています。とくに従業員エンゲージメントについては、『働く環境』が大きく影響するので、オフィス空間の見直しが有効だと考えられます」(河野氏)

オフィスへの期待が高まる人材の採用と定着
従業員エンゲージメントだけでなく「従業員の生産性の向上」「部門内外のコミュニケーション」「人材の採用・確保」といった人と組織に関する課題全般についても、オフィスの見直しが効果的と経営者が考えている点も見逃せない。中でも企業の関心が高まっているのが「リクルーティング」であると、働き方コンサルティング本部 本部長の森田舞氏は指摘する。オカムラのワークデザイン研究所では、1980年の設立以来、オフィス環境や働き方の変化などの研究を続けている。
オカムラ
執行役員
働き方コンサルティング本部長
「オフィスの見直しを検討している当社のお客様のニーズも継続的に調査していますが、ここ2年は『リクルーティング』が1位となっています(表2)。また、採用後のリテンション(人材定着)を見据えたご相談も増えています。」実際、新卒学生を確保するには、オフィスの見直しが不可欠だと河野氏は続ける。
「少子化の加速によって、学生を確保するためキャンパスをきれいに整備している大学も少なくありません。そうした環境で学んできた学生に選ばれる場所であることが、オフィスには求められています」

学生をはじめとする若い世代の感覚については、森田氏もこう付け加える。
「『ウェルビーイング』への配慮は普遍的なキーワードになっています。若い世代の多くは、企業に対して『ウェルビーイングは当然確保されている』と考えているからです。オフィスのあり方だけでなく、そうした意識を若い世代が持っていると理解したうえでマネジメントしていくことが、人材の採用・確保および定着率の向上につながっていくと考えています」
「場」だけでは変わらない「運用+デジタル環境」が重要
企業がオフィスに求める価値が多様であることもわかる。「キーワード調査の上位には入っていませんが、『イノベーション』の創出とそれを生み出すための『社外共創』もこれからの企業活動としては必須になるでしょう。これまでオフィスでは、ABWが増える傾向にありましたが、オフィス内でのコミュニケーションが思うように活性化せず、運用に課題を感じているというご相談もあります。そこで私たちはチーム単位で場所を選んで働く『TBW*2』という運用方法もお勧めしています。これは、イノベーションや共創という考え方と親和性が高いと考えています」(森田氏)
こうした多様なニーズに応えるため、オカムラは2009年から「ラボオフィス」を自社拠点に設け、働き方の実証実験を続けてきた。その狙いについて、河野氏は次のように語る。
「オフィスをきれいにするだけでも、そこで働く人の気持ちは高まります。しかし、『場』に加えて、的確な『運用』と、情報・コミュニケーションを支える『デジタル環境』をうまく組み合わせなければ、解決できない経営課題は数多く存在します。とくに、共創やイノベーションは『場』をつくるだけではなかなか生まれません。
そうした『場+運用+デジタル環境』のトライアルをオカムラの従業員自らが経験する場としてラボオフィスを全国に展開し、得られた知見をお客様へのコンサルティングや製品開発に生かしています」
現在、ラボオフィスは全国9カ所に展開。拠点ごとに社内共創、チームビルディング、ウェルビーイングなどテーマを設定し、ワークデザイン研究所と連携して実験・検証している。特筆すべきは、ラボと銘打ちながら、実際のオフィスとして機能していることだ。すなわち、経営課題やニーズに応じた新しい働き方をすばやく取り入れ、業務の中で実践的なソリューションを開発しているのである。

ラボオフィスは見学が可能。つまり顧客は、常時進化を続けるワークプレイスを体感しながらコンサルティングを受けられるというわけだ。
「ウィデンティティ」が新たな価値創造の土台に
ラボオフィスの中で、とりわけ先進的な取り組みをしているのが2025年11月にリニューアルした東京・紀尾井町にあるWe Labo(ウィラボ)だ。多様性を尊重しながら、組織としての成果を生み出すための「場+運用+デジタル環境」のソリューションを実践している。
「リモートワークの併用などにより、従業員の働き方の選択肢は増えています。一方で、先ほども少し触れましたが、会話が生まれにくい、組織としての意思統一が難しいといったお悩みもよく聞くようになりました。個々が自由に働ける環境を整えるだけでは、組織としての成果は生まれません。重要なのは、多様性を尊重しながらも、同じミッションやパーパスに向かってWeとしてつながって働ける状態をつくることです」(河野氏)
オカムラでは、この理想的な状態を「Wedentity(ウィデンティティ)」という独自コンセプトで表現している。従業員が企業のビジョンを共有しながら、それぞれの価値観や強みを生かして主体的に活動できる組織の姿を指す。
「個人の価値観『アイデンティティ』が重要視される現代において、それを生かしながら企業としての"私たち"の価値観『ウィデンティティ』を体現する場として、今後オフィスの価値はさらに高まります」(森田氏)
その「ウィデンティティ」を具現化する仕掛けの1つが、人と人が「まざりつながる」働き方を促すブレンディングファニチュア「YAA(ヤア)」だ。コミュニケーションの活性化をコンセプトに2025年11月にリリースされた。柔らかな曲線かつ高さに変化をつけたYAAを軸にソファやテーブル等を組み合わせることで空間に動きが生まれ、人が自然に集まりやすい流れと居心地の良さを実現する。
「YAAという名前は、日常の『やあ』という挨拶が持つ温かさや人と人のつながりを表したものです。オフィスで自然にコミュニケーションが生まれ、個と個がまざりつながっていく―そんな場をつくるために誕生しました。今後も時代や社会のニーズを先取りしたテーマをラボオフィスに設定し、パーパスである『人が活きる社会の実現』を目指して、1つでも多くの価値創造のお手伝いをしていきます」(河野氏)
オフィスという「場」だけでなく、ICT活用を含めた「運用」を磨くことで、個の自律と組織力の向上を両立した「ウィデンティティ」を実践しているオカムラ。その成果は、新しいカテゴリ「ブレンディングファニチュア」を生み出したことにも表れている。
人材獲得競争が激化するとともに、イノベーション創出が急務となっている今、そうした価値創造につながるオフィス環境への投資が重要になってくる。まずはラボオフィスで「ウィデンティティ」を体感し、自社に適したオフィス像を描くことが、新たな未来を切り開く契機となるはずだ。


