AI導入で「期待する効果」得られる企業の考え方 「企業価値を圧倒的に引き上げる」IBMのAI戦略

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日本IBM  理事 テクノロジー事業本部 AI Lab Officeの竹田 千恵氏(右)と技術理事 コンサルティング事業本部 北山 浩透氏(左)
AIの導入で現場の業務は便利になったが、投資に見合うだけの全社的なROI(投資利益率)や、抜本的な生産性向上にはつながっていない――。そんな悩みを抱える企業は少なくない。AIに対する期待値と現実のギャップを埋めるにはどうすればいいのか。「AIを拡大し、お客様の企業価値を圧倒的に引き上げる」を2026年のAI戦略方針に掲げる日本IBMの竹田千恵氏と北山浩透氏に聞いた。

AIに対するROI向上を妨げる「部分最適」の罠

多くの企業でAIの導入が進んでいるが、期待に見合う成果は出ているのか。日本IBM 理事の竹田千恵氏は、興味深いデータを提示した。

「IBMの調査によれば、2022年までは、AI投資に対して平均で13%程度のROIが得られていました。ところが、2023年から生成AIが普及し、AIエージェントも登場したにもかかわらず、現在は平均で10%を下回っています」

同じくIBMが全世界2000人以上の経営幹部を対象として行った調査では、「2030年までにAIが収益を大きく引き上げる」と79%が期待している一方で、その収益源を見いだせているのは24%しかいないことも明らかとなっている。

期待値と現実のギャップが生じている理由は何か。竹田氏は「AIの効果を全社のビジネスプロセスに波及できず、部分最適にとどまっている」と指摘する。

日本IBM  理事 テクノロジー事業本部 AI Lab Office 竹田 千恵氏
日本IBM
理事 テクノロジー事業本部 AI Lab Office
竹田 千恵

「期待する効果が出ていない企業は、PoCを実施するにしても小規模で、部分的にしか業務が最適化されていません。部門ごとに業務とデータのサイロ化が起こっていることも原因ですが、失敗を恐れる組織カルチャーや、組織内でAIに対するリテラシーのギャップがあることも、全社のビジネスプロセスが最適化できない理由として考えられます」(竹田氏)

どうすれば、この「部分最適の罠」とも呼べる状況を打破できるのか。日本IBM技術理事の北山浩透氏は、AIに対するスタンスを変えるべきだと次のように説く。

「これまでは、既存業務に後付けでAIを追加する『プラスAI』が基本的なスタンスでした。しかしそれでは、部分最適から脱却できず、局所的な効率化にとどまってしまいます。

全体最適を図るには、これまでの『AIが業務や人を支援する』から、『AIができないことを人が補完する』に考え方を転換し、業務の設計段階からAIを前提として位置づける『AIファースト』の考え方に変えていく必要があります」

そのためには、AIを便利なツールとしてではなく、経営資源の1つとして捉える必要があると北山氏は続ける。

「AIは、領域によっては人と同等以上のことができるようになってきています。IBMではAIをデジタルワーカーと呼んでいますが、経営の資源を従来の『ヒト・モノ・カネ』から『ヒト+AI・モノ・カネ』として捉え直し、経営目標を達成するためそれらをいかに適切に活用するかを考えるべきフェーズになってきたと思います」

約7000億円の削減効果を生んだIBMのAI変革

この「AIファースト」の有効性を、IBMは身をもって証明してきた。竹田氏は次のように話す。

「IBMは、自身を『ゼロ番目の顧客』と位置づけて最新のテクノロジーやソリューションを導入・活用する『クライアント・ゼロ』の取り組みを実践しています。AIの導入・活用では、2025年において約45億米ドル相当(約7000億円=1ドル155円換算)の生産性向上を達成しました」

そこまで巨額の効果をどうやって生み出せたのか。北山氏は「新たなサービスや従業員体験の創出などさまざまな取り組みがありますが、変革のあり方が最もわかりやすいのは購買プロセスです」と説明する。

日本IBM 技術理事 コンサルティング事業本部 北山 浩透氏
日本IBM
技術理事 コンサルティング事業本部
北山 浩透

「従来、購買には煩雑な承認プロセスがありました。不正を防止し、リスクを適切に管理するためには必要ですが、どうしてもリソースやコストがかかります。

そこで、AIが購買業務でどんな役割を果たせるかを精査して業務全体を再設計しました。買い方がいつもと違うなど、おかしいところがあればAIがチェックして通知するようにしたことで、発注だけすれば購入できるようにしたのです」(北山氏)

同様に、営業からの問い合わせ対応に生成AIを活用して営業活動支援を効率化したほか、人事業務でも40%以上のコスト削減を実現するなど、全体的にビジネスプロセスをスリム化させることに成功している。結果、時間もコストもより戦略的な業務に費やすことが可能になるというわけだ。

経営目標達成にコミットする「AIパートナーシップ」

IBMでは、こうした経験をフルに生かし、顧客企業のAIファーストを推進して競争力強化を図る「AIパートナーシップ」に力を注いでいる。これは、個別のプロジェクトで部分最適にとどめるのではなく、測定可能な成果を共創して「お客様の永続的な企業価値向上を実現する取り組み」だと北山氏は話す。

「個別のプロジェクトで目標を達成しても、全体のROIの目標達成にはなかなかつながりません。そのため、まずはクライアント・ゼロの経験を伝えるとともに、お客様が解決すべき経営課題を洗い出し、それに対するROIを設定し、その達成のための包括的な支援を行います」(北山氏)

AIパートナーシップでの合意内容
AIパートナーシップでは、上記7つのポイントにコミットしながら顧客企業の競争力強化、測定可能な成果の共創を目指す

注目したいのは、顧客企業が“自分事”として取り組める仕掛けをいくつも用意している点だ。

「まず、AIによる変革効果を試算できるツールを開発しています。これを活用し、お客様のどの業務領域でどの程度のAI効果が期待できるかをまずご提示します。バックオフィス業務、営業支援、サプライチェーンなどの領域別に効果が可視化されるので、取り組むべき優先順位がわかります」(北山氏)

加えて、AIファーストをスピーディーに推進できるフレームワークも用意。例えば購買の業務プロセスを見直す場合、承認フローの1つひとつを棚卸しする必要があるが、IBMはそのテンプレートをそろえている。

「そのため、1つひとつ棚卸しをすることなくすぐに現状を把握できます。さらに、AIファーストでのあるべき業務プロセスをデザインするツールもあるため、約2週間でプロトタイプを作成することが可能です」(北山氏)

AIパートナーシップでの推進領域
AIパートナーシップでの推進領域。戦略・企画から広報・対外活動に至るまで共創型で包括的に支援する

すでに取り組みの効果が出始めている。例えば、ユーティリティー業界のある企業とは、「持続的な経営基盤強化と地域との価値共創を推進する」という同社のビジョンを達成するため、AIパートナーシップを締結。AI推進組織の立ち上げとAI人材の育成を行うため、AI CoE(AI推進に特化した専門組織)を設立し、AIガバナンスの整備も進めている。

また、金融業界のある企業とは、主要業務を支える複数基幹システムの開発生産性改革に取り組んでいる。「IBMの生成AI技術『watsonx(ワトソンエックス)』を設計から開発、テストに至る全工程に組み込み、従来の人手中心の開発スタイルを根本から見直しています。それによって、約20%の開発効率化に成功しました」(北山氏)。

なお、IT開発の領域で特筆すべきは、AIファーストを推進するための開発支援ツールとして、2026年3月から「IBM Bob」の提供を開始することだ。その特徴について、竹田氏はこう説明する。

「IBM Bobは、システム開発のあり方を根本的に変えるAIエージェント駆動のエンタープライズ向け開発支援パートナーです。従来のシステム開発は、仕様書を作成して膨大な量のコーディングを行い、その検証を行う必要がありました。

しかしIBM Bobは、それら一連のタスクを自律的に行うため、数カ月かかっていた開発や保守作業が数日で完了します。デバッグ(エラーやバグの修正)の際も、1カ所修正すれば関連するものを自動的に見つけて対応するので、大幅な工数とコストの削減につながります」

活用できるエンジニアが減っているCOBOLやPL/Iといったプログラミング言語に強いのも見逃せない。世代交代に伴う技術者不足の課題にも対応できるため、IBM Bobはレガシーシステムのモダナイゼーションを円滑に進めるのにも役立つといえるだろう。

デジタル主権確立にも取り組む「IBM AI Lab Japan」

こうしたAIファーストを推進するAIパートナーシップの取り組みを通じ「日本発AIイノベーション」を共創する拠点が、東京・虎ノ門の日本IBM本社に設置した「IBM AI Lab Japan」である。同所を統括する竹田氏は、その提供価値について次のように説明する。

IBM AI Lab Japanが掲げる3つのコンセプト
「IBM AI Lab Japan」は3つのコンセプトを掲げ、AI製品開発を推進する

「IBMはAIをフルスタックで提供できますので、ソフトウェアからハードウェアまで、日本市場特有のニーズに即したAI製品やAIソリューションの開発、実装を支援できます。

そして、AI開発の松尾研究所やSIGNATEなど先端領域のエキスパートと連携し、オープンな共創ができるのも特徴です。それによってAIを起点としたイノベーションエコシステムをつくり上げ、お客様に還元したいと考えています」

1社では困難なスピードと質を両立する共創拠点。そのメリットを生かすことで、経済安全保障の観点から重要性が高まっているデジタル主権を確立した「ソブリンAI」の開発も加速させていくと竹田氏は続ける。

「自社のデータを特定のサービス事業者に握られないためのデジタル主権の確保が企業にとって急務となっています。有事の際にAIモデルやデータの運用を自社で制御できなければ、経営の持続可能性や競争優位性の確保は困難です。

IBMでは、2026年半ばからデジタル主権を支えるソブリン・ソフトウェア『IBM Sovereign Core』を一般提供する予定で、その開発もIBM AI Lab Japanで共創しています。これからの企業の基盤に欠かせないソブリンAIをいち早くお届けできるのも、IBM AI Lab Japanの提供できる価値だと考えています」

IBM AI Lab Japanの共創の場である「IBM AI Makers Studio」は2026年2月にオープンしたばかりだが、参加した経営幹部やリーダー層からは、「AIの世界観が大きく変わることが実感できた」「多くのAIワークショップに参加したが最も楽しめた」といった声が寄せられているという。

特に、IBMの経営幹部も受けたという「役員向けAIワークショップ」は、「AIに対する向き合い方が変わった」との声もあるなど、リーダー層のAIリテラシー向上に役立っており、カルチャーをAI時代にアップデートさせたい組織にうってつけだ。

役員向けAIワークショップ
役員向けAIワークショップは、グローバルのIBM経営幹部を対象に実施していたAIワークショップを顧客企業役員向けにアレンジして提供する

「IBMは、経営目標の達成を目指し、イノベーション創出に取り組む変革のリーダーを一気通貫でご支援します。そのための道筋をご一緒に探し、企業価値向上を加速させていく場所として、ぜひ『IBM AI Lab Japan』をご活用いただきたいと思っています」と両氏は語る。

AIを部分最適にとどまる「便利ツール」で終わらせず、AIファーストの全体最適によって“圧倒的な”企業価値の向上につなげたいならば、まずはどのような取り組みをしているのかAIワークショップなどで体験するのも一手だろう。

不確実な時代、日本企業には荒波を生き抜く処方箋を手に入れるだけでなく、それを持続的な成長エンジンへと昇華させることが求められている。成果にコミットするIBMのAIパートナーシップは、その強力な推進力となるはずだ。

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