「採用」だけで解決しない人材不足、どう対応? 総合職が採れない前提での「組み合わせ」の戦略

※1内閣府「令和7年版高齢社会白書」
人材戦略の前提を崩す、構造的な人材不足の現実
「2030年までに、生産年齢人口は年間50万人弱ずつ減少するペースで推移しています。いま起きているのは一時的な採用難ではなく、人口構造の変化によって確実に進む不可逆の事態です。企業はこの現実に真正面から向き合わなければなりません」
平本 早苗氏
そう語るのは、大手企業からベンチャーまで幅広い人材ニーズを扱う、執行役員の平本早苗氏だ。人材確保を急ぐ企業は多いが、現場の実情はさらに厳しい。特別法人第5営業ユニット ユニット長の吉村侑子氏は、労働市場の変化をこう指摘する。
「当グループの最新調査(※2)によると、採用活動をした企業のうち約6割が必要なポジションに人材を充足できていません。1つの求人に対する応募者数は年々減り、採用決定までの期間も長期化しています。大手企業ですら採用が困難なフェーズに入っています」
採用難に加えて、DXやAI活用を進める過程そのものが現場を圧迫しているケースも少なくない。平本氏は、企業の現場で頻発している構造を次のように説明する。
「各社は自動化を急いでいますが、実態として業務がむしろ複雑化・細分化しているケースも少なくありません。ツールを導入しただけで自動的に効率化されるわけではなく、本格導入の前に、ワークフローの見直しやデータ整備、運用ルールの調整、社内教育など膨大な準備業務が発生します。こうした負荷は社員、特に総合職が担うことが多く、かえって現場を圧迫しているという声も聞きます」
日本企業においては担い手が定義されない業務は「誰かがやる」になり、結果として総合職に積み上がるケースが多く、DX準備業務はその構造をさらに強める。そして最終的に削られるのは、総合職が本来担うべきコア業務の時間だ。
「総合職の時間が分散すると、判断に使える時間が削られます。判断が遅れれば機会を逃す。それらを解消できなければ、その差はそのまま企業の売り上げ差になるおそれがあります」(平本氏)
※2 リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2024年度上半期実績、2025年度見通し 正規社員)」
解は「採用強化」ではなく、業務の可視化と担い手の組み替え
この状況を突破するカギとして平本氏が強調するのが、総合職の業務を「事実」で捉えることだ。
「まず総合職の1週間の業務を書き出し、可視化することです。感覚ではなく事実で見るためです。『意思決定』と『付帯実務』で分けると、多くの企業で想像以上に『付帯実務』の割合が高いはずです。そのうえで、自社の社員が担い続けるべき『意思決定』はどれかを見極め、担い手を見直すべき『付帯実務』はどれかを決める。そこが最初の一歩です」
さらに、平本氏は人材の活用モデルを「雇う」から「組み合わせる」へ転換することも提唱する。
「特定の領域における人手不足を、単なる『人材確保』で解決するのは不可能に近く、合理的でもありません。これからは人材の活用モデルを『雇う』から『組み合わせる』へ、考えを変えていかなければなりません」
例えば、定型業務が多いならBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)。専門性は高いが、総合職が担い続けるべきではない実務はハイスキルな外部人材へ。業務の性質ごとに担い手を捉え直し、ポートフォリオとして再設計することが合理的だという。
「人材を確保する」ではなく「組み合わせる」発想が、組織の機動力をつくる
変革は、経営・人事・現場リーダーが同じ方向を向いて進める必要がある。吉村氏は、これから増えていく組織像を次のように語る。
吉村 侑子氏
「従来の『自前主義』に固執せず、その時々に求められる業務を踏まえて人材を柔軟に組み替える組織が今後増えていくと思います。特に最近は、生成AIやDXツールを導入しても自社で使いこなせる人材が不足していて、データ集計や経営への活用といった運用段階で立ち止まり、生産性向上まで至らない企業も少なくありません」
さらに、グローバルに展開する企業では、日本語・英語での資料作成や用途に応じた調整、海外拠点とのコミュニケーションなども増えやすい。
「この状態を解決するには、今いる人材だけでなく、外部人材も活用する必要があるでしょう」(吉村氏)
こうした状況を受けて、リクルートスタッフィングが強化しているのが「ハイスキル派遣」だ。吉村氏は、その特徴をこう説明する。
「ハイスキル派遣は、総合職が担ってきた『高度な実務』の一部を派遣スタッフが必要なときに必要な期間担います。単なる事務補助ではなく、業務のプロセスを丸ごと切り出して任せられるのがポイントです。
AIやDX対応、グローバル化などによって実務の複雑性が高まる中、各社固有のデータを扱い、要望に沿った分析・アウトプットまで担えるエキスパートや、多言語対応での資料作成や海外拠点との調整、法改正に伴う社内整備も担える人材とのマッチングなど、ピンポイントで企業の実務を支えます」
従来の派遣が「運用の安定」を支える存在だとすれば、ハイスキル派遣は「変革の実装」を担う存在だ。総合職の負担を軽減し、専門人材に業務の一部を委ねるこの仕組みは、適材適所を突き詰めた分業モデルといえる。
ハイスキル派遣で進める、柔軟な人材活用の実装
一方で、平本氏はハイスキル派遣を「人材を探すこと」から入らないでほしいと強調する。
「出発点は、人材を探すことではなく業務の可視化と切り分けです。そしてその主体はあくまで企業です。企業自身が総合職の本来業務をどう設定するかを考える。次に、業務を可視化して企業が『総合職のやるべき本来業務』を決定し、それ以外の担い手を決める。この順番が再設計の出発点になります。
加えてハイスキル派遣の真価は、労働力の提供にとどまらず、企業の担い手構造の再設計も支援できる点です。どの業務を誰が担うべきか、企業が模索しつつ決定するフェーズにおいては、この点が重要です」
さらに、不確実性が増す時代のリスクにもこう触れる。
「特定のスキルを持つ従業員を固定費として抱え続けるリスクは、年々高まっています。必要な期間だけ必要な人材を業務に組み込むことで、環境変化に即応できる組織の機動力と、内製知見も同時に確保できることは重要です」(平本氏)
ハイスキル派遣の広がりを支えているのは、企業側のニーズだけではない。働き手側にも変化が起きている。
「『自分のスキルを生かし、この仕事を、この条件でやりたい』という軸で仕事を探した結果、雇用形態が派遣だったというケースが増えています。ハイスキル派遣をローンチして1年半ほどでわかったことは、成約率と就業後の継続率を維持できているということです。これは、働く方々が仕事にやりがいを感じ、納得して働くことができている証左ではないでしょうか」(吉村氏)
組織の競争力のカギは「担い手の設計力」
とはいえ、企業が長年築いた組織のやり方を変えるのは容易ではない。多くの企業がつまずくのは、必要性を理解した「その次」の段階だ。どこまでを外部に任せ、どう現場運用に落とし込むのか。迷うのは当然である。平本氏は、リクルートスタッフィングが持つ経験値がここで生きると語る。
「当社はどの業務であれば外部人材が担えるのかを提案できるプロとして、ヒアリングを実施し、業務の切り出しから始めます。本来業務以外で社員が担い続けるべきではない業務については、外部に依頼できるものを一緒に見立て、現場で機能する形まで実装を支援します。
それに加え、今後は当社に登録しているスタッフに対して、近年ニーズが高まっている各種ツールの研修を実施するなど、スキル装着の支援にも注力していく方針です。企業側の業務設計と人材の提供を同時に進めることで、より複雑なニーズに応えられるよう、サービスを拡張していきます」

最後に平本氏は、日本企業の生産性と成長を重ねてこう語った。
「日本企業が生産性を高く保ち、成長を続けるためには、ハイスキルな外部人材の活用が重要です。時代によって、社員が担うべき本来業務は変わるでしょう。私たちは、その変化を捉えながら、企業の担い手構造を再設計するパートナーであり続けたいと考えています。
慣れ親しんだやり方を見直し、社員が判断業務や意思決定業務に従事するためにも、外部のプロと『組み合わせる』勇気を持つこと。その一歩が、2030年に向けて現場に新しい余裕を生み、事業の成長を切り開く力になるはずです」
採用難やテクノロジーの進化の中で、組織を最適化し続けられるかどうかは競争力に直結する。人材戦略は「人材確保」ではなく「担い手の設計」へ。いま企業に問われているのは、その転換をやりきる意思と実行力である。
人財を組み合わせ、変革スピードを上げる
日立製作所のデジタル関連事業を担うデジタルシステム&サービスセクターでは、人事部門でのBIツール開発・ユーザー管理(数十万件規模のデータ分析)と、研修部門でのPMO業務(計画の取りまとめ、進捗管理、海外部門との調整)においてハイスキル派遣を活用中だ。前者はBIツールの分析経験を持つ人財を、後者はPMO経験に加えて高い英語実務力を重視。いずれも業務を分解後、必要な専門性を見極めたうえでリクルートスタッフィングへ相談し、同社が派遣市場を鑑みた勤務条件や要件を調整、現場に合う形でアサインする。高度な実務をハイスキル派遣に委ねることで、社員の負荷を下げてコア業務に集中させ、組織全体の変革スピードと生産性向上を同時に進めている。



