京王新型「2000系・5000系」に見る新時代の交通 顧客ニーズに応える鉄道の付加価値創造とは?

新宿駅大規模再開発から始まる、大規模投資
京王電鉄では、6年間にわたる中期経営計画「HIRAKU2030」の下、京王グループが掲げる長期的に将来ありたい姿「国内で最も活気とポテンシャルがあるエリア」「日本一安全でサービスの良い持続可能な交通」の実現に向け、大規模投資を本格化しつつある。すでに新宿駅西南口地区の大規模再開発に着手しているほか、沿線エリアに応じた開発など、駅を中心とした沿線の魅力向上によって、街と併せて同社も持続可能な成長を実現させようとしている。
そのフィールドは、ターミナル駅である新宿・渋谷を起点に、高尾山・多摩ニュータウンエリアまで都心から郊外へと延びており、沿線人口は約330万人、沿線事業所数は約17万9000社に上り、沿線の人口流入数は、いまなお増え続けているそうだ(京王電鉄調べ)。
そのような中にあって、今、変革を急ぐ理由とは何か。同社 計画管理部 企画管理担当課長補佐の市原雅也氏が次のように語る。
市原 雅也氏
「その背景としては、コロナ禍をきっかけにテレワークが定着するなど、これまでの鉄道会社のビジネスモデルを根幹から揺るがす事業環境の変化があります。そこで、さらなる街の魅力向上と、鉄道を中心とした交通サービスの向上により、人流を創出して活気のある沿線づくりをしていきたいと考えています」
期待の新型通勤車両「2000系」その魅力は?
そうした施策の1つとして注目されるのが、2026年1月から運行を開始している新型通勤車両「2000系」だ。デザインにおけるAI活用や、同社初となる、大型フリースペース(愛称投票により、「ひだまりスペース」に決定)の設置など、次世代の移動体験を創造しようとしている。同社 車両電気部 車両企画担当課長の佐々木昌氏がこう説明する。
佐々木 昌氏
「AI活用では、人の感性を分析できるAIサービスを用い、複数のデザイン案をAIで分析、最もコンセプトに合致するデザインを定量的に評価したうえでデザイン選定を行いました。コロナ禍を経て、お客様が戻らない中でも、今まで鉄道利用が少なかった方や、ベビーカーを使ったお子様連れ、また車いす利用の方などに乗ってみたいと感じてもらえるよう、ひだまりスペースを設置するなど車内をより魅力的にすることで乗車機会を増やし、世代に関係なく広くお客様にご利用いただけるようになればと思っています」
また、こうした「2000系」誕生までの軌跡は、京王電鉄公式チャンネルでも見ることができ、好評なのだという。
もちろん車両によるDX技術を活用した安全性・安定性の向上、オペレーションのさらなる強化にも抜かりはない。佐々木氏が続ける。
「『2000系』には車両状態監視システムを搭載しており、既存車両の『5000系』についても順次、改造により同機能を付加していく予定です。まだまだ編成数は少ないのですが、将来的には故障の予兆を捉え、万が一故障が起きた場合でも車両基地より故障状況が把握でき、支障時間の短縮にも寄与できると考えております」
「5000系」車両を活用、戦略的な価値創造と収益最大化
それだけではない。座席指定列車の京王ライナーで使用される「5000系」でも戦略的な価値創造と収益力の強化を進めている。
京王ライナーに乗車するための座席指定料金にもさまざまな施策を取り入れ、需要に応じたレベニューマネジメントを行い、収益最大化を果たそうとしているのだ。市原氏が言う。
「これまでも平日のオフピークの時間帯や、土・休日など、ラッシュ時間帯以外の列車を対象に、通常410円の座席指定料金を300円にする、期間限定の割引を実施しました。これらはお試し的な形で、まずは京王ライナーにご乗車いただき、快適性を感じてもらうことで、その後も継続してご利用いただくことを目的としています」
逆に単価は高くなるものの、 期間限定で発売した月間シート形式の 「Premium Pass」も好評だったという。
「『Premium Pass』は、 ラッシュ時間帯に走行し、非常に人気のある一部の京王ライナーを対象に同列車・同座席を1カ月間確保する座席指定券として、通常より高い料金で発売しました。こちらは頻繁にご利用されるお客様向けに、購入手続きの簡略化や予約座席の固定化による快適性を提供することを目的に実施したものになります」(市原氏)
実際、施策中の乗車率は上昇し、施策期間終了後も乗車率の上昇効果が継続するなど、狙いどおり、顧客の裾野を広げることに成功しているそうだ。
「今後も、『5000系』を活用してさまざまな施策を打ち、“能動的な需要創造”に挑む」という市原氏。
「京王ライナーに対する多様なニーズに対応すべく、“移動の快適性向上”に加えて、外部企業との共創により、“移動そのものの価値向上”にも取り組み、能動的に収益力強化を図っていきます」(市原氏)
移動の快適性向上では、「こどもといっしょ割」や「個室プラン」など、顧客から寄せられる貴重な意見を参考にしながら、同じ状況や用途で利用したい人に専用車両を設定しエリアを分ける取り組みなど、より良いサービスに向け継続して取り組んでいるそうだ。
「“移動そのものの価値向上”でいうと、『味の素スタジアム』や『京王アリーナTOKYO』『TOKYO GIANTS TOWN』などのスポーツ施設が沿線にあることから、サッカーやラグビー、野球などスポーツチームとコラボした列車を運行しています。そこでは選手による車内アナウンスや、OB選手との交流会など目的地に向かう時間をただの移動とするのではなく、それ自体に価値を提供することで、エンターテインメントの側面からもサービス強化を図っています」(市原氏)
「5000系」車両を活用した施策を通して、実際に多くの顧客から反響を得ており、それらを車両運用やサービス開発に反映させることで、人流創出に貢献していきたいという。
2030年、新たな時代に向けた「交通」の再定義
人口減少が続く国内において、多くの鉄道会社でも変革の時期を迎えている。その中で生き残っていくには、新たな時代へ向けた「交通」の再定義が必要だ。同社でも大規模投資が本格化する2030年代に向け、鉄道という基盤をいかに「付加価値の高いサービス」「新しい交通」へと進化させていくのか」について熟慮を重ねている。
「新型通勤車両の導入によって、お客様がどんな反応を示すのか、非常に注目しています。その意見を今後の車両設計にも生かしていきたい。その意味では、今回の取り組みは1つの試金石になると考えています」(佐々木氏)
「付加価値の高いサービスを実現するには、これまでのように、多くの人を一度に目的地に運ぶ『マスを相手にした』サービス提供の視点より、『個々のニーズに対応した』マーケットインによる視点が重要になると考えています。そのためには、ビッグデータを活用することによって、多様かつ変化の激しいお客様のニーズを素早く把握し、有効な打ち手を早期に実行するなど、PDCAを速いサイクルで回すことが不可欠だと感じています」(市原氏)
人々のライフスタイルが大きく変化した今、「リアル」に対する考え方はよりシビアになっていると同時に、むしろ「リアル」の価値自体は高まっているように見える。オンライン上で差し支えないと判断すれば、わざわざ「移動」しない一方で、あらゆるものがオンラインで完結する中、あえて「リアル」を体験したいというニーズは必ずあるはずだ、と市原氏は次のように考える。
「交通サービスを向上させることで、より快適な移動を実現させつつ、その先に『リアル』な体験をしたくなる仕掛けを積極的に用意することで、今後も活気ある沿線づくりをしていきたいと考えています」




