現場の満足度を高める、「攻めのBPO」戦略とは? 従業員が生き生き働ける職場づくりへの投資

基調講演
前例なき未来へ:企業変革の新たな視点
―前例、バイアス打破の「10年変革シナリオ」の必要性
新たな戦略を打ち出すための組織改革
ボストン・コンサルティング・グループ
シニア・アドバイザー
杉田 浩章 氏
「これからの企業にとって、過去の延長線上に未来はありません」
早稲田大学ビジネススクール教授の杉田浩章氏は、VUCAと呼ばれる予測不可能な時代の今、抜本的な変革が企業に迫られているとした。そして3年サイクルをゴールとした中期経営計画を立て、過去の成功パターンに基づきそれを回し続けて3年ごとの業績の最大化を目指すのではなく、10年という長期的な視点で変革のシナリオを描く必要があると述べた。
「もはや、市場シェアを高めて基盤を固めれば将来が安泰だという世界ではなくなっています。キャッシュを生み出しながら、次の成長領域に事業ドメインをシフトするための投資と組織変革を同時に行わなければなりません」
しかし、一見相反する「持続的なキャッシュ創出」と「新たな事業ドメインへのシフト」をセットで行うにはどうすればいいのか。杉田氏は「コア事業を徹底的に固めること」「次のキャッシュを生み出す事業領域の構築」「潜在的な成長市場の探索と創造(先行投資)」の3つの動きを、10年超の時間軸で実施し続けていくことが重要と話す。
「そのためには、自社の強みを基に事業ドメインを再定義し、再現性のある勝ちパターンを構築しつつ、それらを実現できる組織文化の変革を同時に行う必要があります」
また、これらの変革は、トップダウンのみでは実現しないとも杉田氏は言及する。ミドル層や若手社員が現場の「小さな兆し」を把握して経営層に伝え、それを踏まえて再現性のある仕組みに落とし込むというサイクルを、高速で回せる組織に変わることが必要だとした。
「変革を実現するには、ただ優れた戦略を立てるだけでなく、実行する組織能力を高めることも欠かせません。そのためには、コア業務とノンコア業務を見極め、ノンコア業務は他力を活用することも必要となってきます。ポートフォリオの転換、3ウェーブの長期視点、組織能力進化の3つに加え、例えばBPOといった他力活用の視点を持つことが、これからの企業経営において非常に重要になるでしょう」
事例講演
「次代のデリカ事業」を創るための経営判断
―事業価値を最大化する「攻めのBPO」戦略
BPO導入前に現状の業務を分解する必要性
営業第一グループ グループマネージャー
安松 秀一郎 氏
三菱食品 デリカ本部 営業第一グループ グループマネージャーの安松秀一郎氏は、ある危機感を抱きながら、組織変革に取り組んだ。
「スーパーマーケットなどに、弁当や温総菜といった食材を提供するデリカ本部では、その商品の特性上365日稼働する必要があり、その結果『仕事と私生活のバランスが取りにくい』『人員不足により、1人当たりの業務が過多になっている』といった課題が慢性化していました。その場しのぎで解決しようとしても対症療法にとどまるため、根本原因を突き止めて対策を講じることにしました」
その結果、従来セールス担当がすべて担っていたノンコア領域の定型業務を外部化することで、よりコア業務に集中できる労働環境を構築できるという考えに至り、外部パートナー選定を開始した。選定の基準は、事業内容や目指す方向性をしっかりと理解しているかどうかだったという。
「私たちの事業に寄り添ってくれる伴走者が欲しいと感じていました。契約ベースでしっかりと業務を委託でき、かつ詳細な業務調査が実施できることが決め手となり、リクルートスタッフィングと共に取り組もうと思いました」
そこでリクルートスタッフィングが着手したのが、業務分解だ。コア業務とノンコア業務の大きく2つに分け、それをさらに定型業務と非定型業務に分類した。
「スーパーマーケットやメーカーと商談し、採用が決まれば発注や在庫管理、受注対応、代金回収などを行うのが基本業務です。業務を分解していただいたことで、商談以降の発注から代金回収までの業務はすべて営業管轄から外し、商談のみに集中できる環境をつくるべきだということが明確になりました」
そして半年間でそれぞれの業務の詳細を調べたところ、取引先ごとに対応内容が異なることや、管理ツールの運用がセールス担当によって異なることが判明。運用ルールを整理し、統一化する契機にもなった。
「外部化するノンコア業務を洗い出す際には、トップダウンで決めず、業務に精通した現場社員と共に検討しました。各業務にかかっていた工数を可視化することで、複数部署の業務を一括でBPOチームに切り出すことができました」
これらの取り組みは本社グループで開始し、段階的に全国へ展開。BPOチームへの依頼ルールも定め、社内のセールス向けにBPOの活用に向けた広報も実施した。
「当社のBPOの取り組みは、『次代のために何を残すのか』という問いが原点です。単にコスト削減や業務効率化の手段ではなく、『デリカ本部で働いてよかった』と思ってもらえる職場環境づくりを目的としています。だからこそ、外部パートナーに丸投げするのではなく、社内のリーダーが外部化できる業務をしっかりと見極めて働きやすい職場環境に至る道筋を考え、BPOチームと共に業務プロセスの変革に取り組むことが求められるのではないでしょうか」
パネルディスカッション
持続的成長を支える業務プロセス進化論
―杉田浩章氏と考える経営層が描くべき未来像とは
戦略的なBPOを成功に導くポイント
執行役員 ビジネスソリューション営業統括部長
宮本 秀真 氏
杉田氏、安松氏に加え、リクルートスタッフィングの宮本秀真氏が参加したパネルディスカッション。モデレーターの酒井真弓氏が提示した「戦略的BPOを成功に導く要諦」というテーマに対し、安松氏はBPOの導入で苦労した点について語った。
「BPOの導入に当たっては、デリカ本部全体でその導入がどのような位置づけになるかを設計し、承認を得る必要がありました。そのため、時には執行役員や他グループの社員にBPOの意義を説明することもあり、難しさを感じる場面が数多くありました。熱意だけでは通じませんので、業務分解の結果や働きやすい職場環境に至る道筋を提示し、関心を持ってくれる仲間を増やしていきました」(安松氏)
この話を受けて、宮本氏は「リーダーのコミットメントとメンバーの腹落ち」がBPOの戦略的活用を成功させるうえで欠かせないと述べ、さらに「安松さんのように、目指す未来やそれによるメリットをメンバーと共有し、納得感を醸成することが非常に重要です。リーダーがコミットメントできる未来を描くためには、現状の業務プロセスが抱える課題を可視化する必要があります。そのため、組織内では見えにくい部分について、当社のような外部パートナーを活用するのも有効だと思います」と語った。
杉田氏は、戦略的BPOだけでなく組織変革をするうえでも、このようなリーダーシップが重要だと続ける。
「過去の成功パターンが通用しない時代を迎えた今、経営トップのリーダーシップだけで変革を進めるのは難しくなりました。最もマーケットに近く、テクノロジーへの感度も高いミドル層が中心となって、トップダウンとボトムアップの両方を行う『ミドルアップダウン』の重要性が増しています。ミドル層の『現状をこう変えたい』という内発的なモチベーションを引き出して、適切に後押しすることが経営変革のカギになるでしょう」(杉田氏)
BPOを戦略的に活用することは、企業価値向上につながるコア業務へ今まで以上に集中できることを意味する。それによって創出された時間を、どのように生かしていくべきなのか。
杉田氏は「既存事業、新規事業を問わず新たな価値を創造するアイデアを生み出すには、現場やマーケットを見て、どうやったら価値提供ができるか考える必要があるでしょう。時間を創出できれば、アイデアを考えるための時間を増やせます」と話す。加えて、「そういった時間を、従業員が楽しいと感じられるのは大きい」と指摘し、こう続けた。
「楽しいと感じられないと、『現時点でこんなに忙しいのに、なぜそこまで要求するのか』と思うメンバーも出てきます。楽しいと感じるといろいろな提案が出てきますし、できることの幅を広げたいというモチベーションも高まるでしょう」(杉田氏)
安松氏も、「自社の強みに焦点を当て、デリカ本部の業務の付加価値を高めることについて考える時間を増やすことが、成功につながっているのではないでしょうか」と続けた。
酒井 真弓 氏(左端)
変革の契機になりうるBPO
BPOは、コスト削減の手段と捉えられがちだ。しかし、三菱食品の取り組み事例から明らかになったように、その本質は業務プロセスの最適化にある。そのため、BPO導入は「ありたい未来像」から逆算し、業務プロセスを根本的に見直す変革の契機だと考えられる。また、コア業務とノンコア業務を切り分け、適切に他力を活用することで社員の業務負荷を低減し、楽しみながら働ける環境も構築できる。モチベーションを高め、注力すべき業務に集中することで一人ひとりのポテンシャルをさらに引き出すことにもつながる。戦略的BPOへの取り組みは、その好循環を生み出すエンジンとなるのではないか。



