青学大「統計データサイエンス学環」設置の狙い 「データ駆動型社会」の未来を開く人材育成とは

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左/青山学院大学 学長補佐  経営学部 経営学科 教授 荒木 万寿夫氏 右/株式会社ウェザーニューズ 代表取締役 会長 草開 千仁氏
変化の激しい、予測が困難な時代。データから得られる新たな知見や洞察は、将来を予測して合理的な意思決定をするための重要なツールとなっている。青山学院大学は、データの収集・分析を行い、データの背後に隠された「有用な法則や関連性」を見つけ出し、課題を解決する科学、データサイエンスの学びを軸にした「統計データサイエンス学環」を2027年4月設置構想中だ。既存5学部※1と連係する学環は、複数の学問領域を横断的に学ぶことができる新たな教育プログラムを構築している。社会が求める専門性と実践知を培うデータサイエンス教育について、同大理工学部卒業生で気象情報会社の株式会社ウェザーニューズ(以下ウェザーニューズ)代表取締役会長の草開千仁氏と青山学院大学学長補佐でデータサイエンス教育の責任者であり、統計データサイエンス学環の開設準備室室長である同大経営学部教授の荒木万寿夫氏が語り合った。

必要なのは「生成AI活用の一歩先」の力

草開千仁氏(以下、草開) ウェザーニューズにとって、データ活用は中核そのものです。私たちの強みは「世界最大規模の気象データベース※2」と「日本における予報精度ナンバーワンの気象予測※3」、そして「各マーケットとのコミュニティー」の3つです。気象予測においては観測データが最も重要です。日本のアメダスのように各国の気象庁から受信できるものに加え、レーダーや衛星などの気象センサー、観測情報が少ない場所では自ら観測機を整備し、気象データを収集します。

そのうえで、大量のデータをリアルタイムで分析し気象予測をするわけですが、現在は複数の予測モデルの中から、天候パターンに合わせどれをメインモデルとするかを決める、アンサンブル予報というやり方で、長年蓄積されたデータから分析したうえで決定しています。すなわち気象予測はデータ活用がベースとなっているのです。また、気象予測の歴史は統計モデルから始まり、現在の主流は物理モデルです。そのため気象予測におけるAIの活用はある意味古くて新しいアプローチといえます。

昨シーズンでは、AIを活用した台風の進路予測に関して従来の気象予測モデルと比較し、精度の高い結果が出始めており、今後も気象予測においてはますますAIを通じてデータが活用されていくことになるでしょう。

株式会社ウェザーニューズ 代表取締役 会長 草開 千仁氏
データ活用は、当社の中核そのものです
株式会社ウェザーニューズ 代表取締役 会長
草開 千仁
1965年生まれ。大学では量子物理学の研究を進める。87年青山学院大学理工学部物理学科を卒業後、創業間もない株式会社ウェザーニューズに入社。営業本部CSS(カスタマー・サービス・サポート)事業部長、防災・航空事業本部長、常務取締役、代表取締役副社長を経て、2006年に代表取締役社長、24年代表取締役会長に就任

当社の3つ目の強みであるコミュニティー形成にもデータ活用は重要な意味を持ちます。私たちのサービスは単に気象予測のみを提供しているわけではなく、気象予測に各マーケットのビジネスデータを掛け合わせ、各業務への対応策に深化させたコンテンツを提供しています。そうすることで、各業務における費用対効果や安全性を担保し、各マーケットとの信頼関係を構築し、コミュニティー形成へとつなげているのです。

現在では、コンピューターリソースの発達や、民間気象会社の台頭、甚大な災害発生等に伴うデータ解析により、気象予測の精度は大きく高まっています。しかし一方で、「データ活用ができる人材」はまだまだ不足している状況にあります。データ解析能力やAI活用能力、ビジュアライゼーション能力を備えた人材が求められており、当社の新卒採用も、現在では気象予測専門の人材に加えて、データを活用できるIT人材が中心となっています。大量のデータを見て、面白そうだと感じられる感覚は重要ですね。

荒木万寿夫氏(以下、荒木) 従来もデータを活用できるIT人材は社会で求められていましたが、2022年の生成AIの登場で、AI活用が一部の専門領域から社会全体へと拡張したことは転換点だったと感じます。生成AIは聞けば何でもわかる、まるで人間がかなわない無敵の存在かのように思われていますが、学生には生成AIに頼るだけではなく、その先へと歩みを進めてほしいのです。

大学としても、時代の要請にどうコミットし、教育していくべきなのかを考える必要があります。

あくまで生成AIは過去に蓄積されたデータを学習したシステムであり、主としてその学習内容に基づいて答えを生成するものです。確かに生成AIでも将来の予測らしいものはできますが、将来の意思決定をするには、そこから一歩踏み込んで、現在を捉えた質のよい数量的なデータを集め、そのデータに基づいて分析し正しい解釈をして、次の打ち手を見つけられる能力が必要になってきます。データサイエンスの学びとしてフォーカスしたいのはこの点です。

本学が設置構想中の「統計データサイエンス学環」に「統計」とあえて名付けたのにも理由があるのです。データに見られるような規則性に基づいた学習を行う生成AIは、厳密な意味での因果推論が苦手ですが、統計学ではそれも重要なテーマの1つであり、どのようなメカニズムで何が起こっているのか、モデル化して考えます。その意味で統計学の強みを生かし、統計学を軸にしたデータサイエンス教育を展開していきたいと考えているのです。

青山学院大学 学長補佐  経営学部 経営学科 教授 荒木 万寿夫氏
統計学を軸にしたデータサイエンス教育を展開していきたい
青山学院大学 学長補佐 経営学部経営学科 教授 新学環開設準備室室長
荒木 万寿夫
1966年生まれ。青山学院大学大学院 経済学研究科経済学専攻 博士後期課程標準年限満了退学。修士(経済学)(青山学院大学)。99年青山学院大学 経営学部経営学科 専任講師に着任し、2010年同教授。20年経営学部教務主任を経て、21年青山学院大学学長補佐(データサイエンス担当)に就任し、現在に至る

気象予測にとどまらないあらゆる領域での「データ活用」

草開 私たちのデータ活用に基づくサービスジャンルは多岐にわたっています。例えば船会社に対しては、彼らの船舶のパフォーマンスデータと海象予測を分析し、その船の航海に対して最も危険が少なく、積み荷に合わせた適切なルートとエンジン回転数のデータ提供を行います。航海気象サービスは現在、全世界の外航海運約3万隻のうち約1万隻に活用していただいております※2。また、天候に左右されやすい流通小売業に対しては、小売店のPOSデータと私たちが蓄積した気象の実況や予測データを分析することで、どの商品の仕入れを増減させるかなど、全国のコンビニやスーパーに向けた発注支援も行っています。

自動車メーカーとのコネクティッドカーのワイパーデータを活用した共同研究にも参加しており、ワイパーの動きによって雨の強さを分析したり、フォグランプやブレーキのデータから路面の状況について気象の実況値を導き出したりしています。これらのデータは、特にトラックが山間部を走行するときに役立つことが期待されています。当社の「ウェザーニュース」ユーザーによるウェザーリポートもたいへん有効なデータの1つであり、気象データと合わせて解析することで、従来では困難とされてきた降雪予測などの精度向上に大きく寄与しているのです。

荒木 データ活用がカバーできる領域は、本当に幅が広いですね。「統計データサイエンス学環」においても、データサイエンスの大きな役割の1つは「予測」だと考えています。正確な予測をすることは科学の大きな使命です。一方で、今起きている現象をビジネスに生かすことも必要ですし、因果性を探究していくことも大きな役割だといえます。自分で必要なデータを確保して分析し、エビデンスを見いだしていけるような知識とスキルを身に付けて、社会で活躍できる学生を育成したいですね。

また、本学環は青山キャンパスで初の理系学士課程となります。青山キャンパスには人文・社会科学系の7学部を設置していますが、データサイエンスの技術や知見は、どの分野においても必要なため、他学部とも知の交流を進めていきたいと考えています。1学年60名という少人数制で統計やデータサイエンスを専門に学びますが、「学部」ではなく、「生成AIと教育・メディア」や「AIの法と倫理」など既存5学部※1との連係・協力の下で学問領域を横断的に学べる新しい教育プログラムが特長です。さらに医学部に大学付属の病院があるように、身に付けた知識や技能を実践に移す「統計データサイエンス研究教育センター」も設置予定です。

草開 私は理工学部出身ですが、もし当時この学環があったら、こちらでも学んでみたかったと思います。私たちのようにデータ解析が重要な会社にとって、とても魅力的な学問領域に見えます。「学環」という形で、幅広い領域と連携し、データサイエンスが果たしている役割や可能性について、大学の授業でしっかりと学べるのは非常に大きい。学環で学ぶことで多様な知識や思考法を身に付けてほしいと思っています。

荒木 はい。青山キャンパスはBIT VALLEY渋谷・青山に近接する立地でもあり、ITのリーディングカンパニーも多く、地の利があります。実際にいくつかの企業からもすでに、共同研究のお声がけをいただいています。他学部の学生や教員だけではなく地域や企業とも交流を進めることで、ロールモデルを見つけ触発されたり、研究力の向上や、学びの動機づけをしやすい環境にあることは、本学環の大きな特長になると考えています。

「サーバント・リーダー」としてのデータサイエンス人材

草開 ウェザーニューズは1970年、15名の尊い命が失われた福島県小名浜の海難事故を受けて、創業者の石橋博良が「船乗りの命を守りたい」とつくった会社であり、今でも「いざというとき、人の役に立ちたい」という思いは全社員に受け継がれています。

青山学院大学は社会の「サーバント・リーダー」を育成することを使命としていますね。サーバント・リーダーとは、「自由で自立した存在として、他者に仕えるとともに、互いの価値を見出し、それを他の価値とつなぐことによって新しい時代を創造する者」と定義されていますが、気象の世界も同じです。気象予測は、世界各国で異なり、私たちが日本で培った技術やノウハウがそのまま生かせるわけではありませんが、互いの価値を見いだし、その他の価値とつないで、自分たちのノウハウや技術を提供することができる。気象予測をグローバルに展開することは、サーバント・リーダーに求められることそのものなのです。

荒木 まさに、情報に関してどれだけ価値を見いだし、そこから次にどう行動すべきなのか、どう考えられるかが重要になっています。そのために統計学やデータサイエンスを学ぶことは、有効な選択肢になります。「統計データサイエンス学環」では、専門性と実践力を兼ね備えた社会を開くデータサイエンス人材を育成しますので、ご期待ください。

青山学院大学「統計データサイエンス学環」について詳しく知る

* 2027年4月設置構想中
※1 教育人間科学部、経済学部、法学部、経営学部、理工学部
※2 ウェザーニューズ調べ 
※3  出所:東京商工リサーチ調べ(2025年5月時点)