小規模事業者の稼ぐ力を高める新支援制度とは? 「デフレマインド」の脱却が成長のカギを握る

【政務官が語る】1兆円超の補正予算で、厳しい環境下でも変化に挑む企業や人を支援
越智 俊之氏
物価高や人手不足など、小規模事業者が置かれている環境は非常に厳しいものとなっています。社会経済環境が大きく変化する中で、政府は生産性向上支援や事業承継、M&Aの環境整備、さらなる価格転嫁対策などを通じて、小規模事業者の皆様の「稼ぐ力の向上」と「設備投資」、そして「賃上げ」 を強力に後押しします。
2025年11月に政府の「総合経済対策」を策定し、同年12月に「令和7年度補正予算」が成立するとともに「令和8年度当初予算案」を閣議決定しました。特に「令和7年度補正予算」 では、中堅・中小企業関連予算として前年度から約3000億円の増額となる、コロナ禍以降最大規模の1兆円超を計上いたしました。
さらに小規模企業振興政策においては、2025年3月に「小規模企業振興基本計画(第Ⅲ期)」を閣議決定し、同年11月にはその計画推進のための改正法令が施行され、商工会・商工会議所の支援力向上をサポートする「広域経営指導員」を新たに設置できるようになりました。全国の商工会・商工会議所の皆様におかれても、ぜひその積極的な活用をご検討ください。
これらの措置によって実現する地方公共団体や各支援機関のプッシュ型の伴走支援などの各種取り組みを基に、変化に挑む企業や人が報われるよう、引き続きしっかりとした政策を打ち出してまいります。
【長官インタビュー】成長型経済のカギは、デフレマインドからの脱却
山下 隆一氏
原材料・エネルギー価格の高騰や最低賃金の引き上げなど、小規模事業者の経営環境は非常に厳しい。しかし、日本経済全体を見れば、このインフレ局面は30年以上続いたデフレスパイラルから脱却する好機でもある。「デフレ経済から成長型経済へ移行する三十数年ぶりのチャンス」と語る中小企業庁の山下隆一長官は、次のように話す。
「このチャンスを生かして成長型経済に変えないと、日本は衰退していきかねません。成長軌道に乗せるためには、日本経済を支える中小企業や小規模事業者が生産性を上げて『稼ぐ力』を高め、賃上げ原資を獲得することで『賃上げと投資の好循環』を生み出すことが重要です」
一方、約30年間続いてきたデフレは、「新たな挑戦をせず、価格や賃金を据え置き我慢し続ける」といったデフレマインドを生んだ。山下長官はそれに加え、「目まぐるしく変化する国際情勢などにより、これまでの自由主義経済の常識が覆されている。成長志向の小規模事業者から地域の持続的発展を担う小規模事業者まで、 厳しい経営が強いられるため、より一層経営力が求められる時代になってきている」と指摘する。
「関税の問題など、さまざまな要素を踏まえたうえで経営の意思決定をすることが求められる時代になってきました。デフレに対して過剰に適応しているままでは、この変化に対応できません」
今の考えから脱却し、新たなマインドに切り替えて経営を行う必要がある。だからこそ、小規模事業者に寄せる期待は大きいという。
「大きな組織では、経営者のみがいかに深く理解をしても、全体はすぐには変わりません。しかし、小規模事業者は経営者のガバナンスが非常に利きやすいため、変化に強い。日本の事業者数の8割以上を小規模事業者が占めていますので、この方々がデフレマインドを脱却して『稼ぐ力』を高めることで、日本経済全体が変わっていくと考えています」
小規模事業者に伴走する国の支援策とは?
小規模事業者が「稼ぐ力」を高めるために、国はどのような支援をしていくのか。小規模事業者をめぐる情勢の変化を踏まえたおおむね5年に1度の見直しにより、2025年3月に閣議決定された「小規模企業振興基本計画(第Ⅲ期)」に重要なポイントが盛り込まれていると、山下長官は説明する。
「小規模企業振興基本計画(第Ⅲ期)では、『稼ぐ力』を高めるために時代の変化に応じて経営力を向上させ、地域課題解決を含め『新たな需要が喚起される分野』に積極的に取り組むことが重要だとしています。
成長型経済へ移行して正常な経済に戻れば金利が上昇するため、これまでと同じことをやっていては立ち行かなくなります。すなわち、果敢に新たなチャレンジをして収益力を上げる必要がありますので、そのための支援体制を強化していくことが盛り込まれています」
小規模事業者のウィークポイントは、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源の乏しさにある。経営環境の変化を踏まえつつ、販路開拓やマーケティング、人手不足、資金繰りといった経営課題に単独で対応し、事業拡大や事業維持に対峙していくのは困難だとされる。そこで、「攻め」の支援を重視し、商工会や商工会議所などの支援機関が連携して地域特性を踏まえた手厚い伴走支援を展開していく方針だ。
「経営に必要なリテラシーを向上させ、経営力の向上につなげていくことも小規模企業振興基本計画(第Ⅲ期)に盛り込みました。経営とは、決まった業務をミスなく回すだけでなく、どうすれば高付加価値を生むことができるかを考えて実行すること。そのためには経営戦略や会計、原価計算、労務管理、知的財産といった経営リテラシーが重要となります」
支援の質を高める「広域経営指導員」の存在
これらの計画の実効性を高めるため、2025年11月には小規模事業者支援法に基づく政省令等が改正された。この改正によって新たに盛り込まれたのが、「広域経営指導員の創設」と「経営者のリテラシー向上」だ。とりわけ前者に対し、山下長官は「小規模事業者の支援体制を強化するキーパーソンとなる」と期待を寄せる。
「広域経営指導員は、商工会や商工会議所などに配置している経営指導員の上位となる職位です。中小企業診断士の資格や豊富な実務経験など高いスキルを持ち、複数の地区をまたいで広域的な支援を行います。商工会や商工会議所の枠を超えた企業間連携やビジネスモデルの変革を伴走支援しますので、新規事業展開や複雑化する経営課題の解決が期待できます。
例えば、鹿児島県ではブドウ農家の方が、広域的なネットワークを持った経験値の高い優秀な経営指導員の伴走支援により、新たなチャレンジとしてブドウの栽培だけでなくワイン生産・販売のビジネスを開始することができました。このような成功事例もたくさんありますので、まずは事例を知るところからでも始めていただきたいですね」
また、広域経営指導員は対事業者だけでなく、従来の経営指導員への指導・助言を行う役割も担う。背景には経営課題が複雑化・高度化したことによって、経営指導員に求められる業務の質・量が急激に高まっている現状がある。
「結果的に、支援機関でも人手や専門性、ノウハウが不足していました。加えて、地域や経営指導員によって、持っているスキルや携わってきた内容はまったく異なります。高度な専門性と豊富な経験を持つ広域経営指導員が指導・助言を行うことで、全体の支援パフォーマンス向上につながると考えています」

プッシュ型の伴走支援で「稼ぐ力」を後押し
加えて、従来は相談に訪れた事業者に対応する「プル型」の支援にとどまることも多かったが、支援側から積極的にアプローチする「プッシュ型」の支援の充実を図っている。
「令和7年度補正予算で措置された中小企業庁予算に加え重点支援地方交付金なども活用し、商工会・商工会議所やよろず支援拠点などによるプッシュ型の伴走支援体制の強化と、全国津々浦々の支援体制の整備を進めています。
ぜひ都道府県や各市町村、商工会・商工会議所などの支援機関には、これらの予算措置や広域経営指導員の設置を含めて積極的に活用し、小規模事業者の『稼ぐ力』を高めるための支援を充実させていただきたいですね」
多様な事業を展開している小規模事業者について、「地域の経済成長や雇用を支える重要な存在」と話した山下長官。最後に、経営環境の激しい変化に対応できるようにし、事業の持続可能性を高めていくことが、日本経済の成長に直結すると力を込めた。
「日本経済の再成長には、とにかくデフレマインドからの脱却が不可欠です。小規模事業者の皆様だけでなく、支援機関および経営指導員の皆様も同様にデフレマインドから脱却し、国の成長はまさに自分たちがつくっていると思って、新たなチャレンジに取り組んでいただきたいです。
中小企業庁も皆様と一緒に、物価上昇に負けない大幅な賃上げの原資を確保するため、価格転嫁・取引適正化の推進に全力で取り組み、『稼ぐ力』の向上による事業拡大を目指したり、地域を支え飲食や小売をはじめとするエッセンシャルサービスの提供を担っていたりと日々励まれる小規模事業者の皆様を全力で応援してまいります」



