JTBがサステナビリティを事業の核に据える理由 地域とともに「つなぐ・つくる・つなげる」価値

戦略的な事業構想に不可欠な「未来への時間軸」
サステナビリティを企業としてどう位置づけているのか。この問いにCSuOの玉垣知子氏は「JTBの企業活動そのものです」と答えた。
玉垣 知子氏
「JTBの事業は、地域および事業パートナー、観光資源の持続可能性がなければ成り立ちません。だからこそ、『地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する。』という経営理念を掲げてきました。創業以来、取り組んできた多様な事業のなかに、サステナビリティの観点は数多く含まれています」。ただ、これまでは経営理念に基づいた活動をすることで結果的に、サステナビリティに資する事業が多かったという。しかし、気候変動が深刻化し、社会課題が複雑多様化している今、そうした偶発的な取り組みでは、持続可能性の確保は難しい。「事業構想の際、戦略的にサステナビリティの概念を取り入れることで、必然の取り組みとしていかなければなりません」と玉垣氏は語る。
では、どうサステナビリティと事業を結びつけるのか。玉垣氏は「未来への時間軸を加える」を構想のポイントとして挙げる。
「課題に向き合い、解決策を探るときに、それが未来において持続可能なのかを考えることで、取り組みの解像度が上がり、関わるステークホルダーが一気に広がり、姿が明確に見えてきます。そうやって取り組みの全容をしっかり描くことで、JTBが長年培ってきた価値創造の手法である『つなぐ・つくる・つなげる』を生かして、サステナビリティに資する事業としての価値を磨き上げることができると考えています」
そのためのマテリアリティとして「心豊かなくらし」「人々をとりまく環境」「パートナーシップ」を選定。ツーリズムの拡大から環境保全、次世代育成、自然・文化遺産の継承、地域コミュニティの発展まで幅広い取り組みを進めている。
本気が活路を開いた「クセモノズ」事例
JTBならではのサステナビリティの取り組みの1つが、香川県高松市の高松市中央卸売市場で生まれたJTB地域交創プロジェクト※「クセモノズ」だ。市場で流通されづらい未利用魚や規格外野菜を活用し、フードロス削減と地域資源の価値向上を目指している。
なかでも注目したいのが、小学生と取り組んだレトルトカレープロジェクトだ。香川大学教育学部附属高松小学校(以下、附属高松小)および高松市と産官学連携で共同開発し、発売1カ月で3000食以上を売り上げるヒット商品となった。何より、次代を担う小学生とともに漁獲量の減少や流通されにくい食材の存在といった地域課題に向き合い、その解決に取り組んだことは、まさにサステナビリティに資するものといえる。

しかし、当初から産官学の枠組みが出来上がっていたわけではない。JTB高松支店 観光開発プロデューサーの山田裕木氏は次のように話す。
山田 裕木氏
「高松市中央卸売市場は、近い将来、観光交流拠点として再整備する計画が進んでいます。でも、いろいろな人たちと話すなかで、海水温の上昇による魚種の変化などで未利用魚が増え、漁師さんが苦労しているなど、地域で生活する方々が苦しんでいることがわかったのです。観光開発をする前に、今から地域の持続可能性を高める必要があると思い、2024年5月に高松市と協働で高松市中央卸売市場に『SICSサステナブルラウンジ』を開設しました」
このラウンジの1階に、流通されづらい食材を活用する飲食店「クセモノズ」を併設。そこに附属高松小が社会科見学で訪れたことが、レトルトカレープロジェクトの発端となった。
「SICSサステナブルラウンジを開設したのは、同じように地域課題に向き合い、解決を目指す人たちが集まる場をつくりたかったからです。附属高松小の先生も、『地域課題は、子どもたちが大人になったときに直面するものなので、真っ先に学ぶ機会をつくりたい』との思いを抱いていました」。地域の持続可能性を高めたい。ひとまず場づくりはしたものの、具体的に何をすればいいかわからない。そんなもやもやした思いを抱えていた山田氏は、同志に出会ったことで一気に世界が広がった感覚を覚えるとともに、「地域が良くなっていく」ことへの手応えを感じたという。「やはり本気で地域に向き合うことが大切だと感じます。そうじゃないと見透かされてしまい、協力は得られません」。地域の事業者だけでなく、子どもたちとのプロジェクトでもその姿勢を貫き、出てきたアイデアにも真剣勝負で向き合ったという。
「概要だけ見たら教育プロジェクトですが、私としては新規事業の立ち上げであり、子どもたちはともに目標達成に取り組むメンバーです。徐々に子どもたちの発言にも『地域課題解決』という言葉が増えていったことが印象に残っています」
共同開発したレトルトカレー(左下)はヒット商品にもなった
新たな交流の創造が持続可能性を高める
地域の人たちとの対話を重ねて人と人、人と資源をつなぎ、新たな価値をつくって次世代につなげた「クセモノズ」の取り組みは、まさに玉垣氏が言及したJTBの価値創造の手法を体現している。人口減少が進み地域の産業や経済が厳しくなるなかで、新たな交流を創造し持続可能性を高めるロールモデルともなりうるだろう。実際、多数の自治体や企業から問い合わせが寄せられているという。
「地域の回遊性を高めない限り、持続可能な観光は実現しません。観光資源の掘り起こしとともに適切な人流の設計を行うことも、私たちJTBにできることだと思っています」と山田氏。玉垣氏は「そうやって連続的に価値を創造するソリューションを生み出し、心豊かな感動の機会を拡大していくことがJTBの使命です。その好循環を促していくことが、サステナビリティの実現につながっていくと確信しています」と続ける。地域や多様なステークホルダーをつなぐハブとして、サステナブルな発想で交流創造の価値を共創し、持続可能な未来をともに切り拓いていく。
2026年3月13日(金)15時40分~。
【東洋経済「みらい経済会議」】にて




