「顧客視点の事業開発」住友重機械工業が挑む変革 NECの伴走で臨む新事業創出、その舞台裏に迫る

「私たちの目的は何か」を徹底的に言語化
国内トップクラスのシェアを誇る減速機、産業機械、建設機械、環境プラントなどを展開する総合機械メーカーの住友重機械工業では、NECとともにこれまで課題だった新事業開発の強化に取り組んでいる。その一環としてスタートしたのが、研究所員から事業化へのアイデアを社内公募する「SHI Growth Explorers Program/IDEA Pitch Contest 」だ。2023年に発足した新事業探索室主管(取材当時)の松木信雄氏は次のように語る。
新事業探索室 主管(取材当時)
松木 信雄氏
「これまでの社内風土を変え、会社の未来を切り開く新事業の創造に、皆がチャレンジできる仕組みをつくりたいと考えていましたが、実際に事業化していくにはどのように支援すればいいのかが課題でした。
NECは同じメーカーであり、新規事業創出はもちろん企業文化の変革を実践した経験もある。自ら苦労した経験から蓄積した知見やノウハウをベースとした、包括的かつ専門的な支援を期待したのです」
実際、NECは住友重機械工業とともにどのようなことに取り組んだのか。新事業探索室主任技師(取材当時)の今井直子氏はこう話す。
「まず私たちの目的は何なのか。NECはその言語化を徹底してくれました。自分たちのやりたいことを明確化し、新事業開発のプロセスや評価クライテリアの設計・標準化に取り組み、技術の実現性、顧客価値、市場性などを公平に判断できる基準を整備していったのです」
ほかにもNECは知見を生かし、コンテストの運営全般を効率的に行い、書類審査を通過した参加者に対して、メンタリングも含めた伴走支援を実施。顧客インタビュー、仮説検証、事業構想整理、プレゼンの磨き込みを行い、参加者が実践的なスキルを習得できるようにしていった。
コンサルティングサービス事業部門
Future Creation Designグループ
ディレクター
松平 恵美氏
「研究所の所員は技術開発への意識が高く、お客様視点に欠けている場合が少なくないのです。顧客ニーズがあり、事業化の価値があるアイデアなのか。その見極めについてもNECと協働で進めました」(今井氏)
NEC コンサルティングサービス事業部門ディレクターの松平恵美氏は、プログラムの設計について重視した点についてこう解説する。
「参加者の伴走支援を通じて、技術偏重、机上の空論にならないようにすることを意識しました。本当に顧客ニーズがあるのかを確かめる『顧客発掘』のためにステークホルダーや専門家へのインタビューも実施しました」
社内に吹いた「新しい風」自社らしい新事業開発の推進
今回の「IDEA Pitch Contest」については、「アイデアコンテストは初めて。プレゼンを聞くこともワクワクした」と、全体的に前向きな様子の参加者が多かったという。
新事業探索室 兼 技術本部技術研究所
環境エネルギー技術部 主任技師(取材当時)
今井 直子氏
「発表会はいつも学会風なのですが、社員のテンションが上がるよう新しく演出していただき、新しい風が吹いて社内が変わる雰囲気を醸成してもらいました。会社の文化や意識を変える大きな一歩になったと思います」(松木氏)
とくにNECの支援については「プロセスやクライテリアについて、私自身のメンタリングもたくさんしていただき、皆をどうすれば納得させられるのか。共に一生懸命考えてくれた」(今井氏)ことが最も印象に残っているという。
今後はどの段階で受賞アイデアを手離れさせていくかが新事業探索室の目標になる。NECがリリースする、AIを活用し一連の事業プロセスのスピードや質を高めるコンサルティングサービス「Human AI Collaboration」の活用など、事業化へのスピードを加速させている中、松木氏は今後の展望についてこう語る。
「当社では、今後も新事業開発に継続的に取り組んでいきます。これまでは研究所をメインに活動してきましたが、今後は対象を全社として活動していきます。今回NECから学んだ事業化へのプロセスを基に、これからも当社らしい新事業開発に努めていきたいと考えています」

「次世代へつなぐ環境負荷低減を」事業化への思い
一方、IDEA Pitch Contestでグランプリを受賞し、事業化へ一歩踏み出した受賞者は、NECとの伴走をどう感じているのだろうか。受賞者である技術本部(取材当時)の北村成氏は、サーキュラーエコノミーの実現を目指し材料技術を開発するエンジニアだ。IDEA Pitch Contestに参加した理由についてこう語る。
技術本部 技術研究所 材料技術部
材料設計グループ(取材当時)
北村 成(まさみ)氏
「素直に面白そうだと思いました。私自身、構想段階から事業化まで一貫して業務を推進した経験がなく、今のアイデアを事業化するうえでどういった観点が足りないのか。フィードバックを得たかったのです」
グランプリの受賞アイデアは「次世代へ豊かな自然をつなぐ機械部品のリマニュファクチャリング・リユース」と銘打たれたもの。北村氏は「品質や安定稼働を重視する中で再利用が想定されていなかった機械部品のリユースを可能とすることで、コストや環境負荷を減らすことができる製造ライン向けの部品をつくり出すアイデアです」と語る。
事業化へ向けて動き出した中、NECコンサルティングサービス事業部シニアコンサルタントの豊嶋宏太氏は、伴走するに当たってどのような点を重視したのだろうか。
「ハードとソフトの両面で新事業開発の経験がない中で、実際に事業化を始めてみると当初の想定とは異なることも出てきます。わからないことや不確実な要素が増える中でも、着実に前進していくことを意識しながら、ご支援させていただきました」
アイデアを「ビジネス」へ昇華させたNECとの対話
北村氏は実際に、事業化を進める中、どんな悩みや困り事があったのだろうか。
「自分のアイデアの価値とは何か。そこにとても悩みました。価値はあるにせよ、どの会社の誰に刺さる技術なのか。そこまで具体化して考えなければならない。そのブラッシュアップをNECにサポートしていただきました」
コンサルティングサービス事業部
戦略・デザインコンサルティング統括部
Future Creation Designグループ
シニアコンサルタント
豊嶋 宏太氏
事業化に詳しいNECコンサルティングサービス事業部門ディレクターの町田正史氏は、次のように指摘する。
「技術ドリブンの考え方が強い場合、そもそも価値とは何かについてあまり突き詰めていないことが少なくありません。ビジネスモデルを策定するには、顧客が受け取る価値とは何か、対価として適切なお金を払ってくれるのか、誰のどんな困り事に価値を提供できるのか。その点を突き詰めることが重要です」
一方、北村氏は、NECの支援について、印象に残っている点をこう述べる。
「私も新規事業の経験が初めてという中で、それを体系的に学ばせていただいたことが、とても役立ったと思います。また、壁打ち的な存在として寄り添ってくれたのも大きかったですね。価値起点の研究開発を相談できる相手は、残念ながらまだ多くはない中で、常に対話ができたのは非常にありがたいことでした」
会社全体を動かす「アウトカムとカルチャー変容」
社内に事業化へ向け努力している人がいて、どんな試行錯誤をして、どこで悩んでいるのかを見れば、周囲も関心を持つ。事業化に向けた挑戦をさまざまな社員が意識する環境の構築は、住友重機械工業にとっても大きな刺激となったようだ。町田氏もこう説明する。
コンサルティングサービス事業部門
Future Creation Designグループ
グループ長 ディレクター
町田 正史氏
「大企業の新事業化は実際には、非常に難しいものです。既存のリソースを適用しながら、新しい価値を生んでいく。それには会社全体を動かせるようなアウトカムが必要なのです」
アイデアの事業化へ向けて、試行錯誤を繰り返している北村氏。現在は、どのような取り組みを進めているのか。
「NECと共に進めたことで事業計画は具体的なものができたと考えています。その反面、技術的な面については、もっと詰めなければならないと思っています」
コンテストの成功は、あくまで変革の始まりにすぎない。新事業を継続的に生み出し、成功へと導くためには、それを支える人材の育成や、挑戦を称えるカルチャーへの変容が不可欠だ。企業として、イノベーションを創出する「仕組み」と「土壌」をいかに耕していけるか。NECは単なるアドバイザーにとどまらず、その変革の道のりを共に歩むパートナーとして、これからも住友重機械工業の挑戦を支え続けていく。
両社の深い共創が、次なる社会価値を生み出す日はそう遠くないはずだ。









