米国にカプセルトイ専門店を出店、戦略の中身
5期連続で増収増益、2025年3月期には過去最高益を達成し、市場からの評価も高まっているハピネット。玩具の中間流通最大手として、シェアは約30%を誇る(同社調べ)。同社は25年3月期の決算と同時に第10次中期経営計画を発表し、「グローバル展開とバリューチェーン変革」を掲げた。具体的にどのような戦略を描いているのか。6月に新たに代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)に就任した水谷敏之氏に聞いた。

玩具市場のターゲットは大人にまで広がっている
――玩具市場の中間流通最大手であるハピネット。改めて、その成り立ちについて教えてください。
当社の起源は、河合洋氏が1969年に設立した玩具卸の有限会社トウショウです。トウショウは91年に、当時バンダイの代理店だったダイリン、セイコーと合併し、社名をハピネットに変更。これにより全国規模の流通網を獲得しました。現在は「玩具事業」「映像音楽事業」「ビデオゲーム事業」「アミューズメント事業」の4事業を展開しています。
その後、20社以上のM&Aによって事業を拡大するとともに、強固な収益基盤を築いてきました。近年は「エンタテインメントの川上から川下まで」を合言葉に、中間流通業以外の事業も成長させています。

代表取締役社長 兼 最高執行責任者 水谷 敏之 氏
――玩具卸業界全体の情勢はどうですか。
2024年の国内出生数は70万人を下回り※1、少子高齢化が急速に進んでいます。子ども向け商品だけでは成長の道筋が見えないといわれる一方で、国内玩具市場は成長を続け、24年に1兆円を超えました※2。
その背景には、子どもだけでなく大人の方の購入も増加していることが挙げられます。最近では、キッズとアダルトを掛け合わせた「キダルト」という造語も生まれています。子どもの頃に夢中になった玩具に、大人になってから改めて興味を持つ。そんなニーズが増えたことで、玩具のターゲット層がぐっと広がりました。"推し活"需要や、インバウンド需要も要因の1つでしょう。

当社は19年に模型玩具の総合卸売を手がけるイリサワ(現ハピネット・ホビーマーケティング)をグループ化し、主に大人をターゲットとしたプラモデルやフィギュアにも力を入れてきました。
また、市場が拡大するカプセルトイ市場において、カプセルトイ専門店の出店も19年から続けています。このように多様化するニーズと広がったターゲット層に対応し、新たな小売業態や販売チャネルへの展開を進めた結果、着実に成長を遂げてきました。
3年後の海外売上高を150億円に
米国にカプセルトイ専門店を出店
――25年5月には、第10次中期経営計画(中期ビジョン)を公開しました。
当社の基幹事業である中間流通の強みを生かして、テーマである「グローバル展開とバリューチェーン変革による意欲的成長」を目指します。その基本戦略の1つ目として、「全事業でのグローバル展開の加速」を掲げ、3年後の海外売り上げ目標を150億円としています。
中でも、グローバル展開の最重点戦略に位置づけているのが、アミューズメント事業におけるカプセルトイ専門店の米国展開です。24年に「Happinet America Inc.」を設立し、テキサス州でバンダイのオリジナルカプセルトイブランド『ガシャポン®』※3の専門店「GASHAPON BANDAI Official Shop」の店舗運営を開始しました。
日本国内と異なり、米国のカプセルトイ市場はまだ十分に形成されていません。だからこそ、当社が市場の拡大をリードしていける大きなチャンスと捉えています。とくにテキサス州を中心とした米国中南部はカプセルトイの店舗がほぼない空白地域なので、そこにドミナント出店(特定の地域に集中して出店する戦略)をしていきます。

現在はダラス・フォートワース都市圏を中心に出店計画を進めていますが、テキサス州にはヒューストン都市圏、オースティン都市圏、サンアントニオ都市圏といった魅力的なエリアが多数あります。第10次中期経営計画では、これらのエリアへの「GASHAPON BANDAI Official Shop」出店を拡大し、3年後には60店舗の展開を目指します。
川上・川下領域の拡大により事業ポートフォリオを再編
2つ目の基本戦略には「バリューチェーン変革への資源配分で事業ポートフォリオの再編を実現」を掲げました。中間流通を伸ばしつつ、川上・川下領域の拡大を狙い、3年後には経常利益の川上・川下比率を30%まで高めていく計画です。
川上では、23年にIP(知的財産)を保有する「ブロッコリー」をグループ化したことで、自社IPの展開が可能になり、クリエイティブ機能を拡充することができました。ブロッコリーとは新規IPの創出を目指し、これからも取り組みを進めていきます。
また、映像音楽事業では、ハリウッドのメジャーメーカー5社とビデオグラム包括ライセンス契約を結び、パッケージ制作事業を拡大させました。
各事業において、版権元様と協働して、プロモーションの手法や中身、消費者への届け方を工夫するのも当社の役割と考えています。

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川下領域では、当社が運営するカプセルトイ専門店「gashacoco(ガシャココ)」に注力します。国内137店舗(25年3月末時点)から、中期経営計画期間においても出店を加速させます。日本のカプセルトイ市場は今、インバウンド需要も取り込んで広く注目されています。競合企業の増加も見込まれるため、差別化を図っていきます。
また、ビデオゲーム事業では毎年イベントを開催しています。25年3月の開催時には、約1万2000名の来場者にゲームを体験していただくなど、消費者様とのタッチポイントを増やしています。
こうした基本戦略を通し、28年3月期の売上高4400億円、経常利益140億円を必達していく考えです。中期経営計画達成のためには、会社の中長期ビジョンの浸透が重要です。計画初年度の今年は、1100名を超える社員全員と直接対話し、社員一人ひとりの主体的な行動につながるような機会をつくります。社員全員で、中長期ビジョンおよび中期経営計画を達成する所存です。
「雑草のごとく」チャレンジを続ける

「ハピネットゲームフェス!~2025 春の陣~」の様子
――PBR(株価純資産倍率)の向上に向けた取り組みや、配当性向の目標値などについてはどのようにお考えでしょうか。
PBRの向上に向けて、事業を拡大して利益を増やすことはもちろん、適正な株主還元を実施していくのがその一歩だと考えています。配当については、連結配当性向40%を目標として、株主還元を実施します。
当社はIR活動に積極的に取り組んできましたが、今後はさらに内容を充実させていきます。今期は個人投資家向けの説明会も開催する予定です。投資家の方々と対話し、当社に対する評価を正しく把握したいと考えています。
――普段働く中で、大切にしている言葉を教えてください。
当社の行動指針である『常に「何が大切か、何が正しいか」を考え、行動します。』です。これは、グループビジョンや経営姿勢と並んで、私だけではなく社員全員が意識しているものです。
私個人としては、小学生の時に教師からもらった「雑草のごとく」という言葉を今でも大切にしています。「これから先、多くの挫折があるかもしれないけれど、雑草のように負けずに立ち上がれよ」というメッセージだと理解しています。
実際に私はこれまで多くの失敗を経験し、周囲に迷惑もかけましたが、それが今の自分の糧になっています。社員たちにも、失敗を恐れず前向きなチャレンジをたくさんしてもらいたいと思っています。そのためにも、社員が何度でもチャレンジしていけるような環境をつくっていくつもりです。そして、今いる社員や今後入社してくる方々に「ハピネットで働いてよかった」と感じてもらえる会社にしたい。そう強く思っています。社員たちが輝いて働ける会社をつくるのが、新社長としての私のいちばん大きな仕事です。
※1 出所:厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
※2 出所:一般社団法人 日本玩具協会「2024年度国内玩具市場規模」
※3 「ガシャポン」は株式会社バンダイの登録商標です
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