韓国新大統領を待ち構える内憂外患、国内では刑事裁判を抱え外交では日本に対し失言発し不安感も

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過去の左派政権は主に米中を念頭に、「バランス外交」を標榜してきたが、原則的にはそれに近い考えを強調している。

ただ、過去の左派政権がそのバランス外交をうまく実践できたかというと、結果として大きな成果を上げたとは言い難く、こちら立てればあちら立たずという難しさを経験してきた。

中台に「謝謝」、日本に「カムサハムゥニダ」

そのような中、元外交官らを含む李氏周辺が、再び外交分野での不安を増幅させた出来事は、大統領選が始まった直後に起きた。

李氏は2025年5月13日、保守の本拠地ともいえる南東部の大邱で遊説した際、「中国にも謝謝(シェシェ)、台湾にも謝謝と言って仲良くすればいい。中国と台湾が争っていようがいまいが、われわれには関係ない」と述べた。

また、日本に関しては、「(駐韓)日本大使にも謝謝と言おうとしたが、通じないだろうと思い、カムサハムゥニダと言った」とも付け加えた。

この発言を聞いた外交安保ブレーンの一人は頭を抱えた。ただでさえ、在韓アメリカ軍の役割が朝鮮半島にとどまるかどうかをめぐって敏感になる中、中台問題は韓国に無関係と言い切った新指導者候補の言に戸惑いを隠せなかった。

また、日本関連で李氏がわざわざ「カムサハムぅニダ」と、「う」の音を強調したのも、日本から来た人々が慣れない韓国語を使う際の特徴を、ことさら揶揄(やゆ)するかのような表現で、看過することはできない失言だった。

ブレーンの一人は「悪意はなく、たんにウケを狙ったのだろうが、経験不足と認識の浅さを露呈してしまった」と悔やむ。

他方、李氏周辺ではこれらの問題に関連し、日本の中谷元・防衛相が日米防衛相会談などで語った「ワンシアター(1つの戦域)」という表現に強く反応し、発言の真意を確認しようとしている。

中谷氏は「日米豪、フィリピン、韓国などを1つのシアターととらえ、連携を深めていきたい」と述べた。シアターとは、戦時に「1つの作戦を決行する地域」という軍事用語だという。

韓国側の反応の背景に関し、西野純也・慶応大教授は、韓国の与り知らないところで日本とアメリカの高官が朝鮮半島問題を協議したことへの不快感と、中台や南シナ海問題などにまで韓国が巻き込まれるのではないかという警戒感の2つがあるのではないか、と指摘する。

尹氏の弾劾・罷免を受け、李氏は通常なら2カ月与えられる政権引き継ぎ委員会を経ず、当選を決めてすぐに大統領に就任した。

その直後に連続して大きな国際会議が開かれるため、そのいずれか、あるいは両方に参加して、外交デビューを果たすとみられる。国内では組閣をはじめ待ったなしの仕事が山積みで、自身の刑事裁判もくすぶる。

剛腕でならす李氏の、試練の日々が当面は続きそうだ。

箱田 哲也 朝日新聞記者

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はこだ てつや / Tetsuya Hakoda

1988年4月、朝日新聞社入社。初任地の鹿児島支局や旧産炭地の筑豊支局(福岡県)などを経て、1997年から沖縄・那覇支局で在日米軍問題を取材。朝鮮半島関係では、1994年にソウルの延世大学語学堂で韓国語研修。1999年からと2008年からの2度にわたり、ソウルで特派員生活を送った。

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