熱中症患者は氷山の一角、「熱あたり」の実態とは ダイキンが全国調査、あの症状も「熱あたり」?

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ダイキンが2025年3月に実施した「夏場の熱による体調不良に関する全国調査」によれば、おおよそ3人に2人が熱中症および熱中症手前の症状も含めた「熱あたり」を24年の夏場に経験していることがわかった。年々深刻化する暑さにどう対応していけばいいのか。「みんなで熱あたりしない夏プロジェクト」の立ち上げメンバーで熱中症の専門家である谷口英喜医師と、空調専業メーカー・ダイキン広報グループの重政周之(しげまさ・ちかし)氏に話を聞いた。

健康に自信がある若い世代や、働き盛りの世代も「熱あたり」には要注意

「熱あたり」とは聞き慣れない言葉だが、どのような意味なのか。熱中症・脱水症対策に詳しい済生会横浜市東部病院の谷口英喜医師は、その概念を説明する。

「『熱あたり』のあたりは漢字だと『中り』と書き、体に害となるという意味です。『食あたり』が食ベものによって害を受けた状態を言うように、『熱あたり』は熱によって害を受けた状態のことで、症状の範囲はかなり広いです。ちょっとした疲労感や食欲低下、眠れないといった、熱が体にたまることでおこる熱中症手前の状態まで含まれます」

社会福祉法人 恩賜財団 済生会支部
神奈川県済生会横浜市東部病院 患者支援センター長 栄養部担当部長 医師支援室室長 医学博士 麻酔科専門医
谷口 英喜(たにぐち・ひでき) 
1991年、福島県立医科大学医学部卒。神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授を経て現職。熱中症・脱水症に関する報道でメディア出演多数。著書に『いのちを守る水分補給 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』『熱中症からいのちを守る』(ともに評言社)など

こう聞くと、多くの人は「熱あたり」を経験した心当たりがあるのではないだろうか?

さらに谷口医師は続ける。「熱中症は、熱で体がダメージを受けたことによる症状として病院で診断される病気です。『熱あたり』は、熱中症だけでなく、熱中症と診断される手前の初期症状までを含めた総称です。よくいわれる『夏バテ』も、『熱あたり』が長期間続いた結果といえるでしょう」。

つまり、少し体調が悪くても日常生活ができ、平熱だったとしても「熱あたり」である可能性は十分にあるということだ。

「近年、暑さが深刻化したことで、『熱あたり』を経験している人がかなりの割合を占めていることがわかってきました」と谷口医師は話す。

実際、谷口医師の監修の下、ダイキンが2025年3月に全国の20歳以上の男女1万4100人を対象に実施した「全国調査」によれば、24年の夏に暑さによる不調を感じた人は全体の64.6%に上る※1

※1 出所:ダイキン「夏場の熱による体調不良に関する全国調査」(2025年3月)

「今回の調査で明らかになってきたことは大きく3つあります。1つ目は、20歳以上のおおよそ3人に2人(64.6%)が『熱あたり』を経験していたことです。医療従事者の間では、病院で熱中症と診断される方以外に、病院にかからない『潜在的な熱中症患者』はかなりたくさんいるだろうといわれていましたが、実態として、これほど多くの人が経験していたことは驚きです。熱中症患者はまさに氷山の一角だといえるでしょう。

そして、2つ目は、『熱あたり』症状の経験者に世代差がなかった点です※2。つまり、どの世代も『熱あたり』のリスクがあるということになります。これにも、驚きました。高齢者だけでなく、健康に自信がある若い世代や働き盛りの世代も『熱あたり』には注意が必要でしょう」(谷口医師)

※2 出所:ダイキン「夏場の熱による体調不良に関する全国調査」(2025年3月)

「熱あたり」は直ちに病気とはいえないものの、全世代が意識すべき状況であるということが明らかになった。加えて見逃せないのが、「暑さによる不調によってあなたの日常のパフォーマンスはどのくらい低下したと感じますか?」との設問に対し、「低下しなかった」がわずか5.8%という結果だ※3。谷口医師は、「3つ目は、『熱あたり』が体の不調にとどまらず、日常のさまざまな場面でのパフォーマンス低下にもつながっていることです」と続ける。

※3 出所:ダイキン「夏場の熱による体調不良に関する全国調査」(2025年3月)

「仕事や勉強の場面では、集中力が低下したり効率が下がったりすることで、小さなミスが増えている可能性があります。スポーツの場面では、記録が落ちてしまうということなども考えられます。個人の体調やパフォーマンスを超えて、社会全体で考えれば、大きな経済的損失につながっている可能性もあります」(谷口医師)

谷口医師は「今回の全国調査で、今まで明らかになっていなかった『熱あたり』症状の経験者を初めて可視化できた」と指摘。「今後ますます厳しくなると予想される暑熱環境に対し、社会全体で、そして生活者一人ひとりがどう適応していくか、真剣に考える機会となることを期待します」と語る。

なぜ、ダイキンが「熱あたり問題」に取り組むのか

これらの実態を受け、ダイキン広報グループの重政周之氏は次のように話す。

「今、地球の気温は上昇を続け、猛暑や酷暑の日が増加しています。この異常なほどの暑さは、地球沸騰化と表現されることもあります。ダイキンはこれまで、熱をコントロールする技術を追求しながら、エアコンなどの開発や普及に取り組み、世界中の人々の快適で健康的な暮らしに貢献してきました。暑さ問題が喫緊の課題となっている中、空調専業メーカーとして培ってきた知見を活用し、有識者の方々とも協創しながら皆さんに役立つ情報をお届けするために立ち上げたのが『みんなで熱あたりしない夏プロジェクト』です。空気の可能性とつねに向き合ってきたダイキンだからこそ、自ら先頭に立って進めるべきだという信念の下にさまざまな事前調査を進め、実現に至りました。このプロジェクトを通して、多くの人に『熱』に関心を持ってもらい、『熱あたり』対策を広く普及させたいと思っています」

ダイキン工業
コーポレートコミュニケーション室 広報グループ
重政 周之(しげまさ・ちかし) 氏

また「熱あたり」対策について、谷口医師は具体的なアドバイスをする。

「“疲れがとれない”“食欲がわかない”“寝た気がしない”などが『熱あたり』の初期症状です。熱中症や夏バテと違って1日、2日で起こり、休めば回復します。体の中の熱を外に出すために人間の体は血管を広げたり、汗をかいたりして熱を逃がそうとしますが、部屋の温度・湿度が高いと、それが難しくなります。対策としては、エアコンや除湿機などを上手に使うことが大切です。また、温度や湿度を下げることに加えて、扇風機の使用や汗の蒸発を促す服への着替えなどを組み合わせると、より効果的です」

さらに谷口医師は「熱疲労からの回復のために最も重要なのが『質のよい睡眠』です」と語る。「睡眠時、エアコンを『切タイマー』にして寝られる方もまだ多くいますが、昨今の猛暑からくる熱帯夜では、エアコンは朝までつけたままで寝ることをお勧めします。もし夜中に暑い、あるいは寒いと感じて途中で目が覚める場合は、質のよい睡眠がとれませんので、衣類や寝具で調整して自分に適した睡眠環境にして寝てください」。

さまざまな専門家が「熱あたり」問題に一緒に取り組む意義

暑さによってどうしても起こりうる「熱あたり」からしっかり回復できるような対策をとることが、健康で安全な生活を守り、社会・経済活動を維持することにつながるだろう。

谷口医師はプロジェクトに参画した理由をこう述べる。「この『みんなで熱あたりしない夏プロジェクト』に参画したのは、夏場の医療提供体制を維持したいという医療従事者としての思いと、より有効な『熱あたり』対策を生み出したいという思いからです。気温が高くなると『熱あたり』による体調不良や熱中症で受診される方が急増しますが、医療現場のリソースは一定のため、夏は大変忙しくなります。『熱あたり』や熱中症にならないように気をつけることが、自分の健康を守るだけでなく、医療現場を守る手助けにもなるのです。また、ダイキンさんの発起によって、医療関係者だけでなく生理学、物理学、社会環境学といった幅広い領域の専門家が手を携えるのは、意義深いことだと思っています」。

「みんなで熱あたりしない夏プロジェクト」に取り組む谷口医師(写真左)とダイキン重政氏(写真右)

「私たちの身の回りの熱を上手にコントロールする技術を追求してきた空調専業メーカー・ダイキンとして、『熱とうまく付き合うこと』の重要性を広く発信することで、快適で健康的な暮らしの実現を支えていきたい」と重政氏は話す。

「夏は健康的な暮らしの妨げになることもある『熱』ですが、体温を維持したり、冬の寒い室内を暖めたりと、熱は人の暮らしに欠かせないものでもあります。このような『熱』と上手に付き合っていただくためのお役立ち情報の発信も、『空気で答えを出す会社』であるダイキンの重要な使命だと考えています。今回立ち上げた『みんなで熱あたりしない夏プロジェクト』では、谷口先生をはじめとする専門家の方々と共に、気温の上昇が続く夏場に知っておきたい『熱あたり』の仕組みや対策方法をわかりやすく紹介しています。皆さんが快適で健康的に暮らせる一助になればと願っています」(重政氏)