「再生プラは結局、お得」なのに、なぜ広がらない? リサイクルの「2つのお得」と「3つのポイント」

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プラごみ(廃プラスチック、廃プラ)のうち、リサイクルされているものは1割弱にすぎず、約7割は焼却処理されている(画像:Getty Images)
リサイクルは「限りある資源を大切にする」「地球環境を守る」ためのものと思っている人は多いだろう。だが、それだけではない。リサイクルによって、大きな経済的便益が得られるのだ──そう訴える三菱総合研究所(MRI)のレポートが発表された。その中から私たちに身近な「プラスチック」のリサイクルにスポットを当て、再生プラスチックの利用がもたらす経済的メリットの大きさと、普及を妨げる課題、それを乗り越えるための3つの重要なポイントを紹介する。

とある企業にて。

「プラごみはリサイクルしたほうがいいとは思うけれど、処理費用が高いんだよね……」

そうつぶやきながら、総務課長はパソコン画面に映る資料を見つめた。そこには、自社から出るプラスチックごみをリサイクル処理する場合の見積額が記されている。現状の焼却処理と比べてかなりのコストアップになるようだ。

「これじゃあ厳しいな……。今期もリサイクルは見送りだな」

「プラごみの処理費」だけでなく「プラの循環利用」全体のコストを考える

この「とある企業」と同じく、多くの企業は「リサイクルはコスト増」と判断しているだろう。確かに、プラごみの焼却処理とリサイクル処理とを比べれば、前者が安く済むのが一般的だ。しかし、プラごみをリサイクルして再生プラスチックとして利用すれば、トータルでは経済的なメリットを得られる可能性がある。カギとなるのは「サーキュラーエコノミー(Circular Economy:以下、CE)」という考え方だ。

「『サーキュラー』という単語が示すとおり、CEはモノや資源を循環利用しながら経済も回していこうという概念です。従来の『3R』、つまりリデュース、リユース、リサイクルが主に『ごみ』の削減に焦点を当てていたのに対し、CEは資源から原材料、製品、廃棄物、そして再生材原料といった全体を俯瞰して、経済や社会の仕組みを循環型に変えていこうとするものです」(MRI研究員)

プラごみ処理だけを見るのではなく、プラスチック資源の循環利用全体で捉えれば、リサイクルには十分な経済的メリットが見込めるというわけだ。

CE実現の経済的メリット①:原油の輸入を減らして貿易収支を改善する

MRIのレポートでは、CEの実現がもたらす経済的メリットを2つ挙げている。1つは「貿易収支の改善」だ。

プラスチックリサイクルの現状を見てみると、プラごみ(廃プラスチック、廃プラ)のうち、リサイクルされているものは1割弱にすぎず、約7割は焼却処理されている(図1)。長期間の使用による劣化や、多種のプラスチックやその他の素材が混合する製品が多いことが、低いリサイクル率の主な要因となっている。

図1 プラスチックのリサイクル・廃棄の状況

焼却処理や埋立処理されている廃プラをリサイクルし、再生プラとして利用すれば、バージンプラスチック(新品の原料のみで製造)の生産量を削減できる。結果として、原燃料であるナフサや原油の輸入が抑制可能だ。MRIの試算では、その経済効果は年間約5500億円に上る(図2)。これは日本の近年の貿易赤字額(約1.4兆円)の3分の1強に相当し、リサイクルの持つ巨大なポテンシャルを示している。

「価格の変動幅が大きい原油の輸入を減らせることは、経済安全保障の観点でも大きなメリットといえるでしょう」(同)

図2 リサイクルに伴う輸入額の減少効果
CE実現の経済的メリット②:低コストでCO2削減を実施できる

MRIがもう1つ挙げるCEの経済的メリットは、「CO2削減の費用対効果」だ。

廃プラを焼却すれば多くのCO2が発生するので、これをリサイクル処理に替えることで脱炭素化に貢献できる。現在発電焼却(廃プラを焼却した熱を発電に利用)されているプラスチックのうち、事業系容器包装プラスチック(企業から排出される、プラスチック製の容器や包装などのごみ)を再生プラにマテリアルリサイクルする前提でMRIが行った試算で、CO2排出量を約110万トン削減できることがわかった。

一方、焼却処理をリサイクル処理に替えると、費用は増大するように思える。だが、実はそうではないのだ。

「リサイクル処理をすれば、再生プラが製造されます。そこで私たちは、廃プラの処理費用だけでなく、新たなプラスチックの調達費用を含めて『リサイクル処理+再生プラ調達』と『焼却処理+バージンプラ調達』のコスト比較を行いました。結果は、前者が低コストでした」(同)

事業系容器包装プラをマテリアルリサイクルするこのケースでは、CO2を1トン削減する費用は、焼却処理よりも約2万円安くなる。リサイクルは環境に優しいうえに、大きなコストダウンにもつながるのだ。

リサイクル材の需要喚起をどのように行うか

プラスチックのリサイクルは「トータルで見れば」十分な経済的メリットがある。だが現状、プラスチックのリサイクル率は1割にも届いていない。

「各企業は、自社の費用を最小化したいと考えるため、どうしてもプラスチックの循環利用によるトータルの経済的メリットではなく自社が関わる部分だけを見ることになります。こうした『個別最適な選択』が、リサイクル促進の大きな壁となっているのです」(同)

現状を打破し、リサイクルを促進させていくために、MRIは3つのポイントを挙げる。①リサイクル材の需要喚起、②リサイクル材の品質向上と多様な製品種類への対応拡大、コストの低下、③リサイクル材の回収拡大だ(図3)。

図3 サプライチェーン上のリサイクル促進の論点(プラスチックを例にしたもの)

「最新の施策動向を整理すると、①については、資源有効利用促進法の改正により、事業者に対し特定製品におけるリサイクル材利用に関する取り組み計画の報告義務が課される予定です。国等公的機関に対しリサイクル材を含む製品の購入を義務づけるとともに、事業者等にはその努力義務を課しているグリーン購入法などもあります。その他、②については再資源化高度化法などの法規制、③についてはリサイクル関連の技術開発への補助など、義務的な規制措置や支援措置がすでに実施されています」(同)

今後のリサイクル促進に向けて、3つのうちでもとくに重要とされるのが①だ。「リサイクル材の需要喚起をさらに強化し、施策を有効に機能させていくには、リサイクル材の定義やリサイクル材の利用・購入に関する定量的な目標設定、その取り組みの評価手法を明確化していく必要があります」(同)

そのため、CE取り組みの進捗度合やその効果を測る「CE指標」の開発に向けた検討が、国内外で進んでいる。とくに注目すべきは、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が主導して開発を進めている「グローバル循環プロトコル(GCP)」だ。民間企業のCEの取り組み状況などを開示するための共通の枠組みであり、気候変動について確立されているような国際的ルールとなることが期待されている。日本も環境省からWBCSDへ資金を拠出しながら、2025年末までの初版発行に向けて開発に協力し、さらに日本企業の参加を促進している。

リサイクル材の品質向上や回収拡大をどう図るか

CE促進のためのポイント②は、リサイクル材の品質向上を図り、多様な製品の原材料にリサイクル材を使えるようにするとともに、低コストで供給できるようにすることだ。

プラスチックに関する取り組み例としては、2024年11月に発足した自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアムがある。「自動車部品に使われるプラスチックには、高品質のものを十分な量確保する必要があるので、これまで再生プラの利用はあまり進んでいませんでした。しかし欧州では、新車の生産に一定割合の再生プラの利用を義務づけた規則案がすでに発表されており、欧州に展開している日本の自動車メーカーも今後対応が求められることを背景に、業界を挙げて国と連携した取り組みが始まったのです」(同)

そしてポイント③は、再生プラの原料となるプラごみ(廃プラ)を、焼却処理ではなくリサイクルルートに回収することだ。これに関してMRIは、2021年度から再生プラの需要と供給のマッチングを促すツールを検討し、簡易実証を実施してきた。2023年度からは、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期課題「サーキュラーエコノミーシステムの構築」の研究機関の1つに採択され、本格的な実証事業を行っている。

「再生プラを作る『リサイクル事業者』と、それを利用する『プラ製品の製造・加工メーカー』とのマッチング検討を進める中で、プラ製品の製造・加工メーカーが求める高品質な再生材を十分な量確保するためには、再生材原料であるプラごみの供給網を拡充することのほうがより重要な課題と捉えました。今後は、プラごみを排出している『メーカー工場など』と、それを利用する『リサイクル事業者』とのマッチング検討を進めようとしています」(同)

リサイクルやCEの促進には、多数のステークホルダーが関わるため、課題の克服には時間と労力を要する。それでも、CN(カーボンニュートラル)、経済成長、経済安全保障という3つの重要課題を同時に達成するには、リサイクルの推進が不可欠だ。しかも、トータルで見ればリサイクルは「結局、お得」である。企業はこれをビジネスチャンスと捉え、主体的に取り組むべきであり、政府には企業を後押しする支援措置や規制措置のさらなる強化が求められる。

※:貿易収支1.4兆円の赤字は、2021年以前の過去5年間の貿易赤字の平均値。2022年はグローバルなインフレの影響が強く、対象から除いた。
齋藤 有美(さいとう・ゆみ) 三菱総合研究所 政策・経済センター
齋藤 有美(さいとう・ゆみ)
三菱総合研究所 政策・経済センター
主に資源循環分野において、官公庁・民間企業に対する国内外の政策動向調査・研究、制度設計等の支援を行う。
高木 航平(たかぎ・こうへい) 三菱総合研究所 政策・経済センター
高木 航平(たかぎ・こうへい)
三菱総合研究所 政策・経済センター
エネルギー需給分析、GX政策に関する分析を通じて、企業・日本社会の発展に貢献する提言・コンサルティングを目指す。
古木 二郎(ふるき・じろう) 三菱総合研究所 政策・経済センター
古木 二郎(ふるき・じろう)
三菱総合研究所 政策・経済センター
三菱総合研究所入社後、主に廃棄物管理・資源循環・バイオマス活用に係る調査・コンサルティング業務に従事。現在、主に同分野の社会課題解決に向けた研究提言に取り組んでいる。

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