半導体装置大手が構造改革で「1兆円企業」に挑む 情報をつぶさに見る環境でタイムリーな決断を

タイムリーな意思決定が、経営の舵取りに不可欠
内村 SCREENホールディングスは、2023年4月策定の「経営大綱」で、10年後の2033年3月期における売上高を1兆円以上、営業利益率を20%以上とする目標を掲げています。半導体市場も今後10年間、伸び続けることが予測されていますが、それ以上の成長を目指していることに、企業価値向上に向けた強い意欲を感じています。
他方で、半導体業界の市場変化は激しさを増しています。生成AI(人工知能)や5G(第5世代高速通信規格)、EV(電気自動車)などの普及によって、データセンターや通信インフラ向けの需要が急増し、需要予測が困難になってきました。地政学リスクの高まりもある中で、経営の舵取りをどのように進めていこうとお考えでしょうか。アクセルとブレーキのバランスという観点から、お聞かせください。
後藤 まず申し上げておきたいのは、半導体だけで売り上げ1兆円以上を目指しているわけではないということです。現在は、洗浄装置をはじめとする半導体製造装置事業に軸足を置いていますが、グラフィックアーツ機器事業やディスプレー製造装置および成膜装置事業、プリント基板関連機器事業といった既存事業や新規事業も含め、SCREENグループ全体として1兆円企業を目指しています。そのためにも、事業ポートフォリオマネジメントにしっかり取り組んでいきます。
また、おっしゃるとおりアクセルとブレーキのバランスは重要です。どちらかといえば、当社はブレーキを意識しながらアクセルを踏んできました。ともするとアクセルがワンテンポ遅かったこともあったのではないかと思っていますので、タイムリーにアクセルを踏むことを意識して経営の舵取りをしたいと考えています。

SCREENホールディングス
専務執行役員 特命担当
内村 重要なキーワードは「タイムリー」だと感じます。グローバルという広大なフィールドで、適切な意思決定をするために何を重視しようと考えていますか。
後藤 当社は企業体としてそれなりのサイズがありますので、経営の舵取りはいわばタンカーを動かすようなものだと思っています。右に行こうとしても、出力が出て方向が定まり、実際に動き出すまで、どうしてもタイムラグが生じます。
しかし、そうではなく、高い機動力を持って経営の舵取りをしていかなくてはなりません。そのためには、どれだけ事前に準備をしておけるのかがキーポイントとなります。グローバルでの情報収集を欠かさず、「次の一手」となるオプションをつねに用意していきます。
グローバルIT基盤の整備がガバナンスの強化も実現
内村 事業ポートフォリオマネジメントはどのように取り組んでいくのでしょうか。
後藤 当社はこれまで、「表面処理」「直接描画」「画像処理」のコア技術を応用し、さまざまな技術、製品やサービスを生み出してきました。現在の主力である半導体製造装置事業も、かつては新規事業でした。既存事業と周辺領域をストレッチして伸ばしつつ、新たな事業領域へ踏み出すため、それこそさまざまな情報を収集して準備をしていきたいと考えています。
内村 情報収集には、当然ながら市場をいかに読むかも重要になります。例えば、中国経済の成長を今後どのように見込むのか、米国の政策変更によって、世界経済はどちらに、どの程度のスピードで進んでいくのか、といった点も分析する必要があるでしょう。目まぐるしく変化する市場をどうみていらっしゃいますか。

PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
後藤 市場がこの先どうなっていくかを読むのはたいへん困難です。ただ言えるのは、どうなっても対応できるフレキシビリティーを持たせておかないといけないということです。繰り返しになりますが、いかにタイムリーな意思決定をするかが重要だと考えています。
坂口 タイムリーな意思決定を行うには、必要な情報がつぶさに見える環境づくりが欠かせません。とりわけグローバルに事業展開する企業は、海外拠点とのスムーズなデータ連携も必要です。PwCコンサルティングは、SCREENグループのグローバルIT基盤の整備を支援する機会をいただきましたが、この取り組みについてはどのように捉えていらっしゃいますか。
後藤 企業を経営するうえで、事業状況をきちんと把握することは欠かせません。データドリブン経営の重要性が叫ばれて久しいですが、どの情報をどのタイミングで見るのかがやはり重要です。
しかし、IT基盤が統一されていなければ、必要なときにデータを把握することができません。以前は、事業セグメントごとに特徴を生かしたものづくりを実施していましたが、IT環境が異なっていたので、データの集約に時間がかかり、タイムリーにデータが見られませんでした。製品やカテゴリーといった細かい単位で収益性を見ていくことができないことも課題だと思っていましたので、統一したインフラによるグローバルIT基盤を構築したことによって、ホールディングスとして経営の舵取りができるようになったことは、ガバナンスの強化にもつながっています。
坂口 一般的な傾向として、事業セグメントごとの取り組みだと、その領域の市場動向に左右されやすく、ホールディングス全体の統制が難しくなるおそれがあります。その点、SCREENホールディングスの場合、全体の基盤を整えたことで、投資判断や事業運営が最適化しやすくなったのではないかと感じています。
一方で、実際に経営の舵取りをしていくうえでは、業務フローなど細かい見直しも必要になってくるかと思います。筋肉質な強い組織にしていくために、どのような取り組みをお考えでしょうか。

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
後藤 よい意味で、当社のものづくりはまだまだ改善の余地がたくさんあると考えています。いくら半導体製造装置事業が主力でも、ほかの事業もそのやり方に合わせるのが最適解とは限りません。トータルでどうするのが最も効率的なのか、イノベーションを生み出すにはどうすればいいのかを考え続ける必要がありますし、そのマインドセットを社員に持ってもらうことが大切です。
当社は、ソリューションクリエーターとして、さまざまな課題にイノベーションの力で立ち向かい、解決へ導いてより豊かな社会を築くことを使命としています。イノベーションは、単なる改善ではなく痛みも伴うものです。次の高みを目指すには、痛みを恐れずに思い切った変革を実践していく必要があります。そうすることで、競争力を向上させ、SCREENグループとしての企業価値を高められると考えています。
グローバルの知見を基に顧客提供価値の創出も支援
内村 半導体の製造プロセスは、シリコンウェハーへの回路形成を行う「前工程」と、完成したチップをパッケージに封入する「後工程」に大別されてきました。それぞれ専門性の高い工程として分業化されていますが、近年では境界線が曖昧になりつつあるという指摘もあります。そこに新たなチャレンジの機会も生まれてくると考えられますが、ジョイントベンチャーを含む他社との戦略的な連携も視野に入れていらっしゃるのでしょうか。
後藤 それは事業展開のオプションの1つとして想定しています。半導体業界に限らず、単独のプロセスだけで評価される時代は終焉を迎えました。前後のプロセスを含め、トータルでいかにパフォーマンスを発揮するかが問われる時代ですので、個々の会社の取り組みももちろん大切ですが、状況に応じてパートナーを探すことも求められます。事業状況を把握し、情報収集を欠かさないことと同様に、つねにあらゆる可能性を見据えていきます。
内村 成長市場に適応しながら、グローバル規模で事業ポートフォリオマネジメントを進められていることがよくわかります。私たちとしても、「グローバルIT基盤の統合・強化」によるデータの一元管理と経営の可視化、「グローバルガバナンスの高度化」による意思決定プロセスの最適化、そしてAIやシミュレーションを駆使したリアルタイムの経営判断支援による「データドリブン経営の推進」といった領域において、PwCのさまざまなリソースを活用しつつ、ワンチームで伴走していきたいと考えています。
坂口 グローバルのネットワークを通じ、多数の企業を支援してきたノウハウを積み重ねているのがPwCコンサルティングの強みです。教科書的なフレームワークをご提示するのではなく、さまざまなユースケースを基に議論を重ねてきました。時には激しく意見をぶつけ合い、今もまさにSCREENホールディングスのバリューポジションを共に生み出そうとしているところです。同じ帽子をかぶり、同じ背番号をつけてSCREENホールディングスのグローバル経営の成功にコミットしていきます。
後藤 PwCコンサルティングには、そうしたグローバルの知見を基に、新たな視点の助言をいただくことを期待しています。
イノベーションはそう簡単に起きるものではありませんが、どこにきっかけが落ちているかもわかりません。つねに感度を高め、日々目に入るもの、耳に聞こえるものを自分事として取り入れる姿勢が大切です。そうしたきっかけを埋もれさせないためには、グローバルでIT基盤の統合を進め、フル活用することが必要ですので、PwCコンサルティングには引き続きの支援をお願いしたいと思っています。