現実とデジタルの世界を融合、3D技術のすごみ 北米で浸透、技術をビジネスにどう生かせるか

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デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー 稲葉 貴久氏、MESON(メザン)代表取締役社長 小林 佑樹氏
現実空間とデジタル上の仮想空間を融合させる技術「空間コンピューティング」。ARやVRの名称で体験したことがある人も多いだろう。今、北米を皮切りに、空間コンピューティングによってビジネスの現場が変わりつつあるという。空間コンピューティングで描く将来像について、デロイト トーマツ コンサルティングの稲葉 貴久氏と、空間コンピューティングカンパニーのMESON(メザン)代表取締役社長である小林 佑樹氏が語り合った。

生活者の「まなざしを拡げる」ことで変化をもたらす

――「空間コンピューティング」とはいったいどのようなものですか。

デロイト トーマツ 稲葉 いろいろな概念が提示されていますが、一般的には現実に存在する物理的な空間とバーチャル空間をシームレスに融合させる技術です。

具体的にはユーザーがゴーグル型のデバイス(ヘッドマウントディスプレー)を装着して、目の前にバーチャル画面を浮かべたり、情報を空間上に表示したりします。あるいは現実世界の情報をバーチャル画面上に再現し、機械や設備の遠隔操作、大型施設の再現などを行うことができます。

よく聞かれるのは、メタバースとの違いです。メタバースは、人々がアバターを通して、現実世界で行うようなコミュニケーションを仮想空間の中で行うイメージです。空間コンピューティングは、まったく新しい表現方法や活動の仕方を実現する点が特徴です。

デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー 稲葉 貴久氏
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー
稲葉 貴久

MESON 小林 私が空間コンピューティングに出合ったのは、2017年に行われた、開発者向けの世界的なカンファレンスでした。当時は「AR」と呼ばれていましたが、デモ映像を見たとき、今までパソコンの画面の中に収まっていた世界が目の前に飛び出してきてとても感動したんです。

私はもともとエンジニアです。空間コンピューティングを使えば、自分が作ったものがディスプレーの枠を超えて多くの人に、すばらしい体験とともに届けられるようになるのではないか。そう考え、空間コンピューティングの会社を立ち上げようと決意しました。そして17年に創業したのが、MESONです。

MESON(メザン)代表取締役社長 小林 佑樹氏
MESON(メザン)代表取締役社長
小林 佑樹

小林 これまでも、テクノロジーが人に新しい体験をもたらし、物事の捉え方を変えたことは何度もありました。空間コンピューティング技術を活用して没入感にあふれた体験を提供すれば、より直接的に人々の考え方や価値観、ひいては生き方まで変えうるのではないか。この発想から、MESONのパーパスを「まなざしを拡げる」としました。

メイン事業は「プロダクト共創事業」です。クライアント企業のパートナーとして、既存の商品・サービスや達成したい未来像に沿って、空間コンピューティングを使った体験をつくり、生活者や企業に届けています。

北米を中心に、ビジネス利用が進んでいる

――空間コンピューティングのビジネス活用は、今どのくらい進んでいるのでしょうか。

稲葉 北米が先行しています。例えば工場で機械の調子が悪くなれば、従来は機械メーカーに修理を依頼し、エンジニアに対応してもらう必要がありました。しかし空間コンピューティングを使えば、現場の人間がヘッドマウントディスプレーを頭に着け、空間上に表示される指示どおりに動けば修理ができます。このように、機械のオペレーションやメンテナンスの領域でニーズが高く、盛んに活用されています。

また、工場やショッピングセンターなどの大型施設を造るとき、予想される完成形と同じものを空間コンピューティングで再現することができます。実際のサイズ感や雰囲気、設備の配置などを早い段階で試すことができ、より精緻なシミュレーションが可能になりました。教育分野でも使われ始めているそうです。MESONの事例にはどんなものがありますか?

海の上に浮かぶ洋上風力発電機の3Dモデル

小林 例えば、2024年に開かれた次世代エネルギーの可能性を探るイベント内で、空間コンピューティングを使った体験アプリを展示しました。デバイスを装着すると、海の上に浮かぶ洋上風力発電機の3Dモデルが表示されるというものです。ボタンを操作して視点を切り替えると、3Dモデルの中にぐっと自分が飛び込んで、臨場感を持って風力発電機の前に立つ体験ができます。

洋上風力発電機の実物は巨大ですから、イベント会場に持ち込むことはできません。また写真や動画の展示では、没入感のある体験はできません。空間コンピューティングを使ったアプリなら、誰でも簡単に直感的に理解ができます。

空間コンピューティングがスマホ並みに身近になる未来

MESON(メザン)代表取締役社長 小林 佑樹氏

――MESONとデロイト トーマツは、MOU(Memorandum of understanding、基本合意書)を結んだそうですね。その内容について教えてください。

稲葉 コンテンツもデバイスも大きく進化しており、ユーザーにより面白い体験や気づきを提供できるようになりました。これまでよりも、さらに多くの課題解決や意義深い活用が可能です。

感度の高いビジネスパーソンに空間コンピューティングを体験してもらうと、毎回「このすばらしい技術を、ビジネスにどう生かせるか?」という議論に発展します。そこで当社とMESONがタッグを組み、一緒に日本企業のデジタル戦略を構想しながら、最初の一歩となる体験をつくりたいと考えました。現在、すでに複数の案件で協業のお話をしています。

小林 どれだけ高性能で新しいデバイスを持って「これを使ってみませんか?」と言っても、企業はなかなか導入に踏み切れません。提案する側が、クライアント企業のどこにどんな課題があり、空間コンピューティングをどうワークフローに組み込んでいけばいいか理解している必要があります。

そこで、デロイト トーマツのビジネス力を生かせば、日本企業が抱えている課題を明らかにできると考えました。当社は、空間コンピューティングが持つ可能性を発掘し、よりよい技術を開発し、そのノウハウを共有することで、企業が現実の業務で使えるソリューションをご提案したい。両者の強みを最大限に生かして、ビジネスの役に立つことを目指しています。

MESONの天気体感アプリ「SunnyTune」と、NianticのARペット「Peridot」
MESONの天気体感アプリ「SunnyTune」と、NianticのARペット「Peridot」がコラボレーション。 「SunnyTune内の天候に合わせてPeridotがリアクションをします」(小林氏)

――日本企業が空間コンピューティングを導入する際の課題にはどんなものがありますか。

稲葉 長期的な視点では、ハードウェアの小型化と低価格化が課題です。デバイスはすでに相当高性能なものになっており、歪みやずれのない自然なデジタル表現を実現しています。まだ生活者が日常的に使用するフェーズには至っていませんが、価格やサイズは今後ブラッシュアップされるでしょう。

日本企業の多くは、深刻な人手不足に悩まされています。今後も少子高齢化は止まらず、人手は年々足りなくなっていくと考えられます。北米のように、空間コンピューティングを活用して機械や設備を操作したり、ロボットを動かしたりといった取り組みが必要になると思います。

今や誰もが持っているスマートフォンのように、空間コンピューティングを手軽に使える未来がくるでしょう。その後に着手しても、手遅れになってしまう。それまでにユースケースを蓄えておけるよう、どんどん挑戦したいと考えています。

そのためにも、中短期では直近での技術活用のユースケースや、将来の事業変革に向けた計画や戦略の策定、実証が重要です。当社では空間コンピューティングに限らず先端技術に関する深い知見を持ったプロフェッショナルがそろっていますので、各社の状況や課題、ビジョンに沿ったユースケース選定や事業策定、技術実証のご支援を実施しています。

小林 人間が扱うメディアは文字から画像、そして動画へと発展してきました。次は、空間コンピューティングという3Dのメディアが席巻すると思います。空間コンピューティングはメディアの進化、つまり人間が情報を伝えられる範囲の拡大といえます。インターネット上のコンテンツも、テキストに画像や動画が加わることでより伝わりやすくなりました。それと同様に、3Dへの進化が進めばさらに理解が深まると思います。

新しいメディアやデバイスが出現する瞬間は、ビジネスの大改革が起きやすいタイミングでもあります。人々が見る情報の入り口が、スマホやタブレットから空間コンピューティングに入れ替わる日がくるでしょう。その中で、このデバイスに最適化した体験やサービスを提供できる体制を整えておく必要があります。

見方を変えれば、海外に取られていたビジネスのイニシアチブを日本に取り戻すチャンスでもあります。企業の経営者やマネジャーの方にはアンテナを高く張っていただき、ぜひ空間コンピューティングを体験する機会を持ってほしいです。

>「Tech Trends 2024 日本版」はこちら

>「新しい場所のインターフェース:空間コンピューティングと産業メタバース」PDFはこちら