世界の人流と物流のハブとなる「新しい成田空港」 滑走路新設やワンターミナルで新時代のニーズに対応

※2『新しい成田空港』構想:2022年10月から学識経験者、国、県、地元市町で構成される『新しい成田空港』構想検討会(事務局:成田国際空港(株))により、旅客ターミナルの再構築、航空物流機能の高度化、空港アクセスの改善、地域との一体的な発展等の成田空港の将来像に関して、議論されてきたものであり、昨年7月に国へ報告されている。
変わる「人」「物」の流れに対応し世界を受け入れる、新しい成田空港へ
入山 私はおそらく30年以上、成田国際空港を使っています。以前はちょっと古くて都内からは遠いイメージがありましたが、今は都心からのアクセスもよく、より身近な空港になってきたと思います。最近はとてもきれいで、使い勝手もいいです。ただ、これまではどちらかというと「日本から海外へ出る」ための空港という印象でした。そして今回、現在進めている既存滑走路の延伸や3本目の滑走路新設、構想にある3棟ある旅客ターミナルのワンターミナル化の実現は、成田空港が日本経済成長を世界から取り込む起爆剤になるだろうと、想像が膨らみました。

日本の国際交流や産業、
観光の国際競争力強化に貢献する
成田国際空港
代表取締役社長
田村 明比古 氏
1980年東京大学法学部卒業後、運輸省入省。2000年同運輸政策局観光部旅行振興課長、08年国土交通省大臣官房審議官、11年同鉄道局次長、12年同航空局長を経て15年同観光庁長官に就任。19年三井住友銀行顧問などを歴任し同年6月より現職
田村 成田空港ができたときは利用者の日本人と外国人の比率はおよそ3:1でした。日本人を見送る人が大勢来ていたので、出発前のエリアが広く取られ、土産物店や飲食店が配置される一方、保安検査後エリアは狭いんです。現在は日本人と外国人の比率は逆転し、1:3になっています。一時、航空旅客数は、コロナ禍で前年同期比98%減となりましたが、昨年はコロナ禍前の9割程度に回復しています。
入山 成田空港は人流と物流のハブになることが重要になってきました。海外の新しい空港をみると、搭乗手続きはオンライン化されて広大なチェックインカウンターは必要なくなり、早く出国手続きをしてその国での最後の買い物や食事を楽しめるよう保安検査後エリアが広く取られています。
田村 近隣のアジア諸国が行ってきたような海外の成長を取り込むためのハブ機能を強化する空港のあり方を目指したのが、今回の構想の肝です。
グローバルサプライチェーンを取り込む物流ハブとしての「成田国際空港」戦略

第二の新しい成田空港として
日本経済に好影響を与えると期待しています
早稲田大学大学院経営管理研究科
早稲田大学ビジネススクール教授
入山 章栄 氏
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 19年から現職。専門は経営戦略論、国際経営論。19年『両利きの経営』(東洋経済新報社)監訳
入山 空港は国家の武器であり、国力の象徴であり、経済戦略の要です。人だけでなく、物流の観点でも2国間の取引だけではない、経由地などの用途も含めたグローバルサプライチェーンのハブとしての役割が求められるようになってきています。それだけに、成田の強化は日本経済にとって重要な意味を持つと思います。
田村 航空貨物は、成田空港が日本の国際航空貨物の金額にして約68%、重量で約56%を取り扱っています。これだけシェアが高いのは、成田の周辺に航空貨物を取り扱える機能が集積しているからです。重量より金額のシェアが高いのは、半導体製造装置や医薬品など、かさばらないが価値が高いものの取り扱いが多いためです。
ただし、現在の貨物施設は最近新設されたものを除き、開港から時間が経っているので老朽化しています。人材確保の問題もあり、これから海外の空港と戦っていくには自動化を進め、作業効率を上げていく取り組みが必要です。更に航空貨物の集荷は、実は航空会社ではなくフォワーダー(荷主に代わって輸送手段の手配や通関手続き、配送調整などを行う業者)がやっているので、航空会社の上屋とフォワーダーの施設を近接させることで、成田空港の周辺を毎日何千台も走っているトラック輸送を劇的に削減しようと考えています。一方で、航空貨物は貨物便だけではなく旅客便のベリー(旅客便の床下貨物スペース)で運ばれる量も非常に多いので、貨物のハブになるには旅客ネットワークもしっかり維持する必要があります。
地域と連携し、成田にエアポートシティを構築
入山 空港の国際競争力を考えるうえで最大のポイントはスケールです。簡単に言えば空港は人流と物流のプラットフォームであり、そこではネットワーク効果が重要です。なぜ我々が同じSNSアプリを使うかといえば「みんなが使うから」です。みんなが使うことで価値が高まることをネットワーク効果といい、各分野のプラットフォーマーが独占するのはこのためです。だから私の視点から見ると、おそらく成田空港がまずやるべきことは規模の追求です。もちろん現在でもサイズは大きいですが、更に規模を追求することでもっといろいろな人や物が集まるようになり、いろんなことが効率的になるでしょう。
利便性と同時に、空港は出会いと別れの場でもあるので「エモさ」の有無が大切です。以前訪れたイタリアの空港では、雰囲気のよい飲食店があり、そこでビール片手に本場のピザを食べるひとときは旅情にあふれていて、思わずゼミ生たちに写真を撮って送ってしまいました。そんな情緒的価値はとても重要なので、成田もエモさをもっと高めてほしい。
そしてこれからは、世界から来た人が成田を経て東京に行くだけではなく、成田の周辺に滞留してもらい、そこで新しい経済圏ができてくるような取り組みも必要です。

主要な4つの柱を武器に『新しい成田空港』第二の開港へ
田村 『新しい成田空港』構想検討会は2024年7月に『新しい成田空港』構想を取りまとめ、国に報告しました。その概要は日本人のためだけではなく世界のお客様のための空港とコンセプトを変え、老朽化した施設を作り変えるにあたり利便性を高め、サービスを提供する側も効率的に業務を行えるようにし、かつ脱炭素の要請に応えることで、報告では4つの柱を打ち立てています。

まず、前述した集約型ワンターミナルを軸とする、旅客ターミナルの再構築です。
入山 これは変革が急速に進む予感がします。なぜかというと、変革には全体を変えることが重要だからです。例えば日本企業が何か一部分だけ変えようとしても変わらず、なかなかDXが進まないことがよくありますよね。それは過去の経緯や歴史によって決められた仕組みに制約される「経路依存性」があるからです。成田空港が新しい時代のニーズに合わせて既存の施設を新しい施設に建て替えることは、従来の経路依存性を破壊することを意味します。
田村 2つ目は新貨物地区の整備による航空物流機能の集約です。徹底的に自動化、省力化を進めた新しい貨物ターミナルを圏央道の隣接地に整備し、圏央道を介して物流の速達性向上も図ります。更に圏央道を挟んだ反対側に巨大物流地区の整備計画があり、そのエリアと新しい貨物地区を一体的に活用し、できれば自由貿易特区のようなインセンティブを与えて貨物機能を強化したい。
入山 日本は人手不足がとくに進んでいるので、デジタル技術や自動化を人々の職を奪わずに導入できるいい環境ともいえます。AIなどのデジタル技術や自動化によって業務を効率化し、人は「おもてなし」などの感情労働に重きをおけると素敵ですね。
田村 3つ目は空港への最適アクセスの実現、4つ目が地域と空港との相互連携による一体的・持続的発展です。周辺を用途ごとにきちんとゾーニングして、エアポートシティを千葉県及び周辺自治体と一緒につくっていきます。
入山 視野を広げれば、銚子の屏風ヶ浦や九十九里浜の景色はワールドクラスで、佐原や佐倉には江戸情緒のある街並みもありますね。
田村 成田空港の周辺は住むにも観光するにもとてもよい所なんです。そして、日本は四方を海に囲まれて隣の国に行くにも飛行機に乗る必要があり、空港インフラの強化は国家的な観点で非常に重要です。これから成田空港が何をしようとしているのか、どんな方向に進もうとしているのか、多くの方にご理解いただけるよう努力していきたいと思います。
入山 お話を伺っていて、めちゃくちゃ面白い構想だと思いました。これからの50年、100年を見据えた成田空港が第二の空港として開港し、世界を捉えることで日本経済に好影響を与えると期待しています。
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