「信託」の力で
社会課題を解決する
(8309・東P)
三井住友トラスト・グループは2024年4月に100周年を迎える。商業銀行と異なる起源を持つ同社の歴史を振り返り、そこからどのような戦略で持続的に成長を図っていくのか。中期経営計画において、さまざまな領域の信託関連ビジネスを展開することで「資金・資産・資本の好循環」の実現を目指している中、その重点戦略について聞いた。
100年の歴史の中、信託の力で社会課題を解決
三井住友トラスト・ホールディングスは、三井住友信託銀行、三井住友トラスト・アセットマネジメント、 日興アセットマネジメントなどを傘下に持つ持株会社だ。
日本の信託市場は約100年前、近代化に向けた産業資金調達のニーズや第1次世界大戦による好景気を背景にスタートした。信託協会によれば、1921年には信託会社を名乗る企業は488社も存在したといわれるが、中には資力や信用力が不十分な企業も少なくはなく、こうした混乱を是正するため22年に信託法、信託業法が制定された※1。
三井住友トラスト・ホールディングスは信託業法に基づき設立された「信託会社」を起源としており、2024年4月にグループ創業100周年を迎える。商業銀行を起源とするメガバンクとは異なり、同社は現在も信託ビジネスを中軸とした成長を続けている。三井住友トラスト・ホールディングス取締役執行役社長の高倉透氏は次のように語る。
「戦後復興期には、重厚長大産業が設備投資をするために必要な長期資金を個人のお客様から貸付信託で集めて融資を行ったり、私鉄の沿線拡大の際に車両の調達スキームとして、車両信託を提供したりしてきました。
1960年代からは企業年金の制度設計・資産運用・資産管理を提供する『年金信託』を開始し、現在も引き続き国内の年金の運用・管理を行っています。このように、信託にはその時々の社会課題解決に貢献してきた歴史があります」
最近では、カーボンニュートラルや「人生100年時代」に関する社会課題に取り組んでいる。
「例えば、エネルギー、環境、化学などを専門とする博士号を持つ研究者らを採用し、テクノロジー・ベースド・ファイナンスチームを組成しました。技術的な知見を活用して革新的技術の社会実装を促進し、社会課題の解決に貢献することを目指しています。 また、人生100年時代では、長寿命への備えも日本社会における大きな課題になっています。そのため、三井住友信託銀行では『おひとりさま信託』※2や『人生100年応援信託』※3を開発し、人生100年が当たり前となった時代に増加する相続や資産管理などの課題の解決に貢献する取り組みを進めています」
時代ごとに変化する社会の課題やニーズに合わせ、柔軟に商品・サービスを開発・提供できる「信託の力」こそ、同社のユニークな特徴かつ強みである。
資金・資産・資本の好循環を促す
社会インフラを目指して
今ホットなテーマとしては、政府が掲げる「資産運用立国」の実現に向けた動きに注目している。とくに、約3000兆円(金融資産2000兆円、不動産1000兆円、同社調べ)以上といわれる個人資産の活用に向け、「貯蓄から投資へ」を促す施策として2024年1月に開始した新NISAにグループを挙げて取り組んでいる。
「三井住友信託銀行では、スマートライフデザイナー※4というアプリを活用した、コンサルティングチャネルの多様化を進め、三井住友トラスト・アセットマネジメント、日興アセットマネジメントでは、NISAでの運用に適した商品開発を加速させ、運用残高のさらなる増加を目指します。
資本市場のインフラ機能も発揮し、三井住友信託銀行や日本カストディ銀行での資産管理残高の増加など、インベストメントチェーンのさまざまな領域で収益拡大を図ります」
同社は「信託」を軸に銀行機能を併せ持ち、高い専門性に裏打ちされた顧客向けコンサルティングを提供。さらに、資産運用、資産管理等の信託業務を通じて顧客の資産を守り育てることで、資金・資産・資本の好循環を促す社会インフラとなることを目指している。
このようにインベストメントチェーンの広範囲をカバーしていることから、貯蓄から投資への流れの中で日本市場が成長することが同社の成長機会にもなっている。 同社の資産運用残高は125兆円、資産管理残高は273兆円(23年9月末時点)と国内トップクラスだ。
企業年金、住宅ローン、退職金運用などで幅広い顧客との接点を持つ同社は新領域にも挑戦している。例えば次世代に焦点を当てた金融教育にも力を入れている。確定拠出年金導入企業の新入社員向け教育や、22年以降に義務化された、高校生の金融教育に対応した出張授業、教員向けの講演会開催など、その活動も多岐にわたる。
また、非上場株式等のプライベートアセット市場の拡大にも取り組んでいる。現状、日本のプライベートアセット市場はグローバルシェア3%程度だが、プライベートアセットへの投資はインフレへの備えとしても有効であることから、投資分散の選択肢として、今後の拡大余地があると同社は見込んでいる。そのような中、自らも投資の先導役として、30年度までに脱炭素領域など社会に貢献するビジネスを創出する5000億円の投資を行うことに加え、今般新たに5000億円の資産運用戦略投資枠も設定し、市場の拡大を図る方針を掲げている※5。
「国内プライベートアセット市場の拡大とともに、個人投資家への展開も進めていく方針です。個人投資家にとっては1口当たりの投資金額が大きいことが参入障壁となることもあります。信託の機能を活かして 、プライベートアセットを小口化することでこの問題を解消し、プライベートアセットの『民主化』を実現したいと考えています」
ROE10%以上の早期達成へ
同社では、2030年度までにROE10%以上の達成を目標としている。
「『資産運用立国』構想も追い風として、中期経営計画で掲げる成長戦略の取り組みを加速させ、ROE目標を前倒しで達成したいと考えています」
また、連結配当性向40%という目標は22年度に達成しているが、今後も持続的な成長を通じて安定的な増配を目指す姿勢だ。23年に株主還元方針を変更し、1株当たり配当金を累進的としつつ利益成長を通じた増加を目指している。このように同社は、成長の果実を株主にも中長期にわたり安定的に還元していく考えを明確にしている。
次の100年に向けて
グループ創業100周年を迎えるに当たり、今般同社ではブランドスローガン「託された未来をひらく」を策定した。
同社の起源である三井信託は「奉仕開拓」、住友信託は「信義誠実」を設立趣意書に掲げ、顧客からの信頼を基に、信託の力で社会課題の解決に挑戦してきたが、この創業の精神は100年経った今も受け継がれている。
ブランドスローガンは、 顧客や社会から「信じて託される」ことに誇りを持ち、「未来への願い」に応える存在であり続けたいという強い意志を表すものになる。
「次の100年においても、社会課題に立ち向かい、新たな価値の創出に果敢に挑戦していきたいと考えています。例えば、グリーン社会の実現に向けた取り組みとして、岡山県で受託している『森林信託』があります。林業従事者の高齢化や減少、所有者不明林の発生などを信託の力で解決し、長期的な取り組みを通じて林業再生や地域活性化といった効果を期待しています。掲げている目標は、いずれも大きな挑戦と言えますが、100年という長い時間をかけて信頼を積み重ねてきた私たちだからこそ、『時間とお金が必要な社会課題』への取り組みにおいて、強みを発揮できると確信しています」
株式分割で投資しやすい環境を整備
同社は新NISA開始に合わせて、24年1月1日付で株式分割(2分割)を実施した。同社株式の投資単位当たりの金額を引き下げ、個人投資家がより投資しやすい環境を整備している。
「創業から100年にわたり続いてきた私たちの理念は次の100年も変わりません。今後も持続的な成長に期待いただければと思います」
⇒三井住友トラスト・ホールディングスの詳細を見る
※2 おひとりさま信託https://www.smtb.jp/personal/entrustment/after
※3 人生100年応援信託 https://www.smtb.jp/personal/ entrustment/passport
※4 スマートライフデザイナーhttps://www.smtb.jp/personal/app?waad=wUpuEFvb
※5 同社のグループ資産運用ビジネス高度化の取り組みについてhttps://www.smth.jp/-/media/th/news/2023/231222-2.pdf