日本の成長戦略の柱に期待される医療分野でも、先端技術研究や医療イノベーションの先進的取り組みが進む地域だ。
今、日系の医療機器企業の進出先として注目されているNRW州の魅力を探った。
数多くの日系企業が進出する
ドイツ最大の産業州NRW
NRW州はオランダ、ベルギーと接し、欧州の真ん中に位置するヨーロッパ大陸最大のビジネス拠点だ。ドイツの州の中では最大の人口とFDIを誇る。ドイツ企業売上高上位50社のうち19社が同州に拠点を構え、州のGDPはEU内ではオランダ一国に比肩する圧倒的な規模だ。加えて、イノベーティブかつ競争的な中小・中堅企業が活躍するのも魅力だ。
代表取締役社長
ゲオルグ・ロエル
NRW州は日本との関係が深い。これまで日系企業約530社が進出。それに伴い、R&Dセンターの開設や大学との連携などイノベーションを後押しする活動も続々と推進されつつある。日本人が暮らすためのインフラも整っており、欧州市場における日系企業のビジネスハブの役割を果たしている。
そのNRW州が今、日本の医療機器関連企業の誘致に積極的に乗り出している。州経済振興公社日本法人「エヌ・アール・ダブリュー(NRW)ジャパン」(東京・千代田区)は今年10月に医療産業をテーマにしたシンポジウム「ドイツ・NRW州の医療技術ソリューションとホスピタル・エンジニアリング─ドイツにおける日本企業のビジネスチャンスとジョイントR&D」を開催。日系医療機器関連企業の進出を呼びかけた。
大都市地域NRW州 ドイツ経済の中心地
・州都デュッセルドルフを中心とした半径500㎞内に1億5000万人の消費者
・国内総生産(GDP)のEUランキングでは7位
・年間ビジター600万人を記録する世界最大の見本市拠点
・学生数は59万300人、そのうち6万6400人は外国留学生
・外国医療機器企業のドイツ進出先として堂々の1位
・全独の20%の大規模病院が集中

医療産業強化に必要な優れた海外拠点
日本にとって、医療産業はアベノミクスによる経済成長戦略の重要な柱だ。しかし、日本の医療は、健康保険制度の枠内という市場の制約などもあり、技術進歩や社会のニーズへの即応が難しい面も指摘される。高度医療機器領域の新製品では、安全審査申請の約8割が海外製品というのが実情で、日本企業はその技術力を活かしきれていないのだ。
医療産業強化のためには、海外に出て、実用化に向けた技術を鍛えることも重要だ。NRWジャパンの支援で同州に進出した筑波大学発のベンチャー企業、サイバーダインは、開発したロボットスーツによるリハビリ臨床試験を現地で進め、一部の労災保険の適用も受けている。
ヘルスケア担当パートナー
Dr. アクセル・バウアー
マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社ヘルスケア担当パートナー、アクセル・バウアー氏も「国内市場の制約がある日本の医療産業はグローバルビジネスとして成功する必要があります。そのためには、ヘルスケアへの需要が高く、重要なプレーヤーが多く、イノベーションも速い欧州市場を避けて通ることはできません」と訴える。ドイツ出身のバウアー氏は、中でもNRW州の優れた事業環境に注目。約900社の医療技術関連企業に約2万5000人が従事、全独の20%の大規模病院が集中するNRW州のポテンシャルの高さを指摘した。
イノベーションを生むNRW州の優れた環境
心臓生体組織工学チームリーダー Prof . 医学博士
シュテファン・ヨッケンヘーフェル
海外でイノベーションを進めるには、現地の高度な技術が欠かせない。NRW州の大学や研究機関が持つ先端技術は、日系企業が進出する際の決め手ともなる。卓越した研究業績を上げるアーヘン工科大学で、応用医療工学研究所心臓生体組織工学チームリーダーを務めるシュテファン・ヨッケンヘーフェル教授は、医学と工学の連携による最先端の再生医療に取り組んでいる。
「人は“繊維”でできている」と言うヨッケンヘーフェル教授のグループは繊維工学、生体組織工学、医学の技術を融合させ、繊維状に細胞を培養する革新的なスキャフォールド(培養の型枠、足場)を使い、高い強度の繊維状内部構造を持った心臓弁、心臓血管などの生体医用材料を作る技術を開発。特許を取得して、他の血管や、気管、食道などを拡張するため、狭窄部の内側に留置するステントへの応用も進める。ヨッケンヘーフェル教授は「ブレンドが最高のものを生み出す」と、日本企業との協力関係にも期待した。
医療分野の課題に挑む先進的な取り組み
ドイツは、医療分野で日本と同様の課題を抱えている。少子高齢化、医療費の上昇、限られた医療リソース……。その中で最良の成果を上げるためにNRW州では、病院を一つのシステムとして捉え、新たなITや医療技術の導入がどのような影響を及ぼすのか、ユーザーに受け入れられるのか、を事前に分析して、病院の経営改善に役立てる「ホスピタル・エンジニアリング・イニシアティブ」の取り組みも行われている。
ホスピタル・エンジニアリング・チームリーダー
ゼバスチャン・マイネッケ
企業や医師、看護師、大学や研究機関、州政府やEU、さらにコンピュータサイエンスや流通の専門家ら80以上のメンバーが参加。コーディネーター役を担うフラウンホーファー・ソフトウェア・システム工学研究所のゼバスチャン・マイネッケ氏は「関係者全員が集まって病院の課題を特定し、新たなソリューション開発に向けた議論を行うネットワークです」と説明する。議論の場となる同研究所インハウスセンターには、病院を再現したラボが設置され、新たなソリューションが院内の医療スタッフ、患者、職員らに与える影響をシミュレーションできる。マイネッケ氏は「イニシアティブ参加はオープンで、病院のソリューション作りをしたいという日本企業の参加も歓迎します」と話す。
既にNRW州では、X線画像診断装置の島津製作所や医用高解像度モニターのEIZO、CT、MRIの東芝や日立、メディカルシステムのオリンパスなどの日系医療機器メーカーも事業展開している。成長分野としての医療産業の未来を見据えた時、ドイツNRW州は有力な進出先候補となるだろう。