このCMが作られた1970年代から今に至るまで、「育毛剤」の代名詞と称されることもある「カロヤン」。多くの育毛剤が新たに誕生する中で、40年近く愛されているカロヤンの開発秘話を紹介する。

「カロヤン」が登場したのは、日本が高度経済成長期を終え、安定成長期に入った1973年のこと。まさに、人々の関心がより良い生活、生活の質に向くようになった時代だった。
そうした中、次々と発売されるようになったのが、「育毛・発毛促進剤」や「養毛剤」といわれる生活改善商品だ。当時、生活も豊かになり、髪の毛のことまで気配りできる余裕が出てきたのである。
研究開発部 開発第一グループ
主査 開発啓之
「1960年代後半から70年代前半には、20種類近くの育毛・発毛促進剤や養毛剤が発売され、まさに育毛剤ブームが起こっていました。けれども、そうした商品のほとんどは、効果に関するしっかりとした臨床研究データなどはあまりありませんでした。そこで、研究に基づいた、きちんとした根拠(エビデンス)のある商品を開発したいとの思いから生まれたのが、カロヤンだったのです」と第一三共ヘルスケア研究開発部の開発啓之氏は振り返る。
実は、カロヤンの前身は、円形脱毛症や壮年性脱毛症などの治療薬として1968年に承認された「医療用医薬品」フロジン。その有効成分であるカルプロニウム塩化物を「一般用医薬品」として開発したのがカロヤンだ。
有効成分の濃度でせめぎ合い
医療用医薬品としてフロジンが開発される一方で、一般用医薬品の商品開発も同時に進められていた。
有効成分「カルプロニウム塩化物」は、強力な血管拡張作用が持続するため、毛根に栄養を行き渡らせることができ、脱毛予防や育毛効果を発揮する。「この効果は、カルプロニウム塩化物の濃度が高いほど大きくなる一方で、局所の発汗など求めていない副次的な作用が出る頻度も高くなります。そのため、医師の指導の下で使用するわけではない一般用医薬品であるカロヤンの開発に際しては、常にカルプロニウム塩化物の濃度をどこに設定するかが論点になります。これまでのカロヤンの歩みを、カルプロニウム塩化物の濃度設定と切り離して説明することはできません」と開発氏。
「医療用医薬品」フロジンのカルプロニウム塩化物の濃度は5%。初代カロヤンとして、一般用医薬品を作る上では、カルプロニウム塩化物濃度を抑え、0.5%と1%の用量で検討する方針が立てられた。その際には、カルプロニウム塩化物を低濃度にしても有効性を担保できるよう、皮膚の代謝を促すパントテニールエチルエーテルや、頭皮の角質を柔らかくするサリチル酸などが加えられた。
そして、実際この用量で効果があるか、安全性が確保できるかを見極めるために、臨床試験が実施された。「臨床試験は、北海道から九州までの41の医療機関で、849人に対して行われました。当時、育毛剤でこれだけ大規模な臨床試験をしっかり行ったものはありませんでした」と開発氏は胸を張る。
結果、カルプロニウム塩化物0.5%の臨床試験での有効率は75%、副作用が出た人の割合は2.5%であり、重篤なものはなく、発赤等の軽度なものが大半であった。臨床試験で安全性と有効性が裏付けられたことを受け、73年カルプロニウム塩化物0.5%の商品「カロヤン」と、1%の商品「カロヤンハイ」が誕生したのである。
地道な研究開発で、しっかりとした商品を作ったという礎があるからこそ、その後カロヤンは飛躍的に売上げが伸び、40年たった今でも人々から愛されるロングラン商品となった。
さらなる効果を求めて
こうして、消費者から絶大な支持を受けていた「カロヤン」だが、それにあぐらをかいていたわけではない。さらに効果を高めるため、当時の研究者は「生薬成分」に注目した。
「中国の本草綱目(ほんぞうこうもく)という本草学の研究書から、育毛に効果があると考えられる生薬を15種類ほど選び出しました。その後検討を重ね、最終的に“カシュウ”と“チクセツニンジン”に絞りこみ、基礎試験を行うことで、2つの生薬を配合したカロヤンに、それまでの製品以上の発毛促進効果が得られるであろうと予見するに至りました。この配合成分を用いて臨床試験を行ったところ有効率は83.2%と高く、これを踏まえて生薬配合の商品『カロヤンアポジカ』を発売しました」と開発氏は説明する。
2000年頃になると、海外からも様々な育毛剤が入ってきた。そのため、次なるカロヤンの進化として選択したのが、カルプロニウム塩化物の増量だった。
「濃度が高い方が効果も高まることはわかっていました。それをどこまで上げるかが研究の課題でした。カルプロニウム塩化物を2%にまで上げた処方で、安全性と有効性を検討し、その有用性が確認できたため、カルプロニウム塩化物2%の商品を発売しました。それが、『カロヤンガッシュ』です」と開発氏。
その際、より安全性を高めるために工夫したのが容器だった。1回に使用するカルプロニウム塩化物の量を一定に保つため、使用時に定量の薬液を塗ることができる容器の開発に取り組んだ。「最終的には、容器の先端部に計量部と特殊なノズルを付け、1回当たりちょうど2mlの薬液が出る仕組みにしました。この容器ができるまでには5年の歳月がかかりました」と開発氏は語る。
さらにこの容器は、発売3年後に顧客のニーズに沿って改良を行っている。当初、頭皮に当たるノズル部分が硬質のポリプロピレン製だったものを柔らかいシリコンゴム製に変更したという。「簡単な操作でしっかりと定量塗布できる容器であるため、パーツとパーツの組合せが非常に繊細な設計でした。そこに、柔らかいシリコンゴムを組み込むというのは実は大きな冒険でした」と開発氏は振り返る。
時代の変化とともに進化を続ける「カロヤン」。今後もその動向から目が離せない。