
日立製作所とJLLが提携しIoTで働き方改革を提案
代表取締役社長
河西 利信
TOSHINOBU KASAI
JLL日本法人代表取締役社長 一橋大学卒。1985年大和証券株式会社に入社。 1999年ゴールドマン・サックス証券会社にて投資運 用に従事。2012年よりJLL日本法人の代表取締役 社長に就任
福島 今、働き方改革がクローズアップされています。長時間労働の是正だけではなく、少子化時代に入り、人材不足が深刻になっていることや、また、かねてより日本企業の課題と言われてきた労働生産性の低さをどう改善するかという観点からも働き方改革の重要性が指摘されています。
こうした環境の中、日立製作所の持っている最先端のIoTの技術と、JLLのグローバル不動産サービスを融合させてJLLがアジア・太平洋地域に向けて提供する不動産サービスを向上していくために事業提携をされました。どういう狙いがあるのでしょうか
河西 従来の不動産は、たとえばオフィスであれば、いわば人を収容する箱として考えられてきました。そこでは画一的に机を並べて、何名が収容できるのかという観点からしか見ていなかったのです。
ところが最近では、不動産が企業の生産性や価値を向上させるための、大切な経営資源の一つであるという見方に変わりつつあります。従業員が生産性を高く、創造性を発揮して働くためにはオフィスはどうあるべきか、さらに、近年注目されている働き方改革を実現していくためにはどうすべきか。今までの不動産の枠を超えた次世代のサービスの提供が求められる時代に変わってきました。
そういったお客様のニーズに応えていくためにはIoTなど最新のテクノロジーの活用が不可欠です。そこで、この分野で最先端のノウハウ、テクノロジーを持っている日立製作所(以下、日立)の力を借りながら、お客様によりよいサービスを提供させていただきたいというのが事業提携の背景です。すでに、シンガポールで実証実験も開始しています。小林 日立は今、「IoT時代のイノベーションパートナー」となるべく、お客さまの経営課題を発見し、協創により迅速に解決するためのIoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」を開発しました。
JLLとの実証実験においても、このLumadaを活用しています。具体的には、JLLと日立、日立アジアの3社で、シンガポールにある日立アジア本社ビル内のオフィススペースにセンサーを設置して、これまで人手に頼っていたデスクや会議室、そのほかのオフィススペースの利用状況など、さまざまなデータを収集するとともに、AI(人工知能)を利用して、オフィス利用最適化の分析を実施しました。
働き方の変化は従業員の幸福度や業績の向上にも貢献
福島 IoTを不動産分野に応用するのは前例が少ないように思います。さらにAIの利用なども含め、これらのテクノロジーがサービス提供の向上や働き方改革とどう結びつくのかイメージしづらいところです。
執行役常務 アーバンソリューション ビジネスユニット CEO
小林 圭三
KEIZO KOBAYASHI
慶應義塾大学卒。1983年に日立製作所に入社。 重電部門の機器営業に従事。2002年より日立ア メリカ社(NY)に勤務。帰国後、産業インフラ部門の 営業を管掌。2016年4月から現職。
河西 JLLはグローバルで展開するトップレベルの不動産サービスプロバイダーとして、世界のリーディング企業をはじめ、全世界の事業法人および不動産投資家向けに不動産サービスを提供してきた実績があります。JLLがグローバルで受託している管理面積は2016年時点で4億900万平方メートルです。これは東京駅前に位置するオフィスビル、丸ビル3000棟分相当にあたり、この管理受託規模は世界トップレベルです。
もちろん、これまでもこれらの豊富な実績に基づく不動産情報のデータベース化などには力を入れてきました。ただし、従来は蓄積したデータの活用がどうしても経験則になりがちでした。今回の提携により、今後は、客観的なデータとその解析に基づいて「このようなレイアウトがより効率的である」「これぐらいのオフィススペースが必要である」といったデータに基づく提案が可能になると考えています。
小林 JLLではこれまで、例えば、働き方改革の支援において、オフィス内のデータを得る際は、担当者が目視などで計測されていたそうですが、最新のセンサー・テクノロジーを活用すると、文字どおりのビッグデータが短時間かつ効果的に収集できます。
実際、シンガポールでの実証実験では、机や椅子、扉などに小型センサーを取り付けて、オフィスフロアや会議室の利用状況、人の動きなどのデータを収集しました。今後、名札型ウエアラブルセンサーとAIを活用し、働いてる方々の組織の活性度(幸福度)を計測・分析し、社員同士のコミュニケーションを考慮して、生産性を高めるオフィススペースの検討を行う予定です。

福島 オフィススペースによって、働いている方の幸福度まで変わるのですね。しかも、それを測定できるというのも驚きです。
河西 コストの追求だけではなく、従業員の満足度、幸福度を上げたいというお話をよく聞きます。ただ、言葉だけでは抽象的になりがちです。具体的に、満足度、幸福度というのは何なのか、名札型ウエラブルセンサーをつけて、実際の業務や会話をしていただくことによって計測したデータから、交流が増えるとこういった効果があったというデータを示すことができれば理解しやすいでしょう。逆に、連携が必要なこの部署とこの部署はたくさん交流していると思ったらあまり交流していなかったといったものが数値として出てきます。それによって、「両部署は同じフロアに置いたほうがいいのではないか」といったことを感覚ではなくデータを用いて提案することができます。
小林 日立社内でウエアラブルセンサーを活用した実証実験を行ってAIで分析した結果、社員の幸福感をデータ化できるだけでなく、その幸福感と業績に相関性があることが確認できました。つまり「真の働き方改革」とは、単にモノやスペース、労働時間の改革のみならず、従業員の職場でのコミュニケーションや体験(エクスペリエンス)をいかに豊かにするかが大切なのです。それが企業の業績・価値向上に変革をもたらす重要な要素であると私たちも考えています。
IoTと不動産サービスが融合した攻めのCRE戦略の提案へ
福島 敦子
ATSUKO FUKUSHIMA
津田塾大学卒。NHK、TBSで報道番組を担当。テ レビ東京の経済番組や、日本経済新聞、経済誌な ど、これまでに700人を超える経営者を取材。経済・ 経営をはじめ、環境、コミュニケーション、農業・食など をテーマにした講演やフォーラムでも活躍
福島 不動産の使い方が働き方改革に、さらには企業の業績・価値向上に変革をもたらすとなると、経営者にとっても企業不動産(CRE)は重要なテーマであると言えそうです。
河西 そのとおりです。企業が所有したり賃貸する不動産を効率化するCREマネジメントはコスト削減の為に極めて重要です。最近は一歩進んで、売上を伸ばす企業価値向上にとっても戦略的な重要性が一層増しています。
こうした中、当社は今年6月、働き方の変化が不動産戦略に与える影響を分析した「FutureofWork」レポートを発刊しました。このレポートは、従業員の働く形の変化について、ある意味では不動産を超えたソフトの部分まで踏み込んで分析したものです。
Future of Work」レポートでは、劇的に変化する未来の働き方への対応方法として五つの要素を提案しています。それは、「デジタル・ドライブ」「継続的なイノベーション」「オペレーショナル・エクセレンス」「財務パフォーマンス」「ヒューマン・エクスペリエンス」です。
今回の日立とのIoTを活用した取り組みは、まさにこの「デジタル・ドライブ」の側面から人と企業のパフォーマンスを向上させるためのデジタル化にほかなりません。また、レポートでは「ヒューマン・エクスペリエンス」において、従業員のエンゲージメント・幸福度が生産性向上に大きく寄与していることを示していますが、第2弾の実証実験はこの結果を裏付けるものになりそうです。
小林 日立が実証実験で得た結果と、JLLの「ヒューマン・エクスペリエンス」の分析が共鳴していることを感じます。
おそらくこの先5年、劇的にオフィス、そして働き方が変わるでしょう。年齢や性別、働く国や地域などに関わらず多様な人たちがつながって、テレワークやサテライトオフイスで仕事をする。もちろん会議の仕方も変わるでしょう。
この先を見越してJLLは、企業経営にさらに貢献する最適な提案をされることでしょう。一方で日立の強みは、現場の多様なデータを収集、分析、つなぐことで価値を見出し、さまざまな課題の解決に貢献することです。JLLの取り組みにも、協創とLumadaで応えていきたいと考えています。
福島 まさに、IoTと不動産サービスが融合した攻めのCRE戦略が真の働き方改革、そして企業の価値向上につながっていきそうで、未来のオフィスのあり様が今から楽しみです。
河西 IoTは様々な分野で革新を起こしています。それが今不動産に起きようとしています。不動産は二つの面で非常に大きなアセットクラスです。一つは資産規模です。世界中の不動産の資産規模というのは大変な金額になります。もう一つは時間の概念です。私たちは家庭にいるよりオフィスにいる時間が長いわけです。大げさでなく、人生の中で最も滞在する時間が長いオフィスという分野においてIoTが働き方や資産内容のあり方を変革するのは大変画期的なことだと思います。
そこで日立さんと一緒に新しい働き方、資産のあり方をお客様に提案できるというのは大変幸せなことだと思います。ぜひご期待いただきたいと願っています。