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1割の異才をリーダーに育て
Brutalなグローバル競争を勝ち残る

四半世紀近く外資系に身を置き、今は世界的リーディングカンパニーの日本法人社長としてその手腕を発揮する三谷宏幸氏。グローバル企業と日本企業の違い、世界で戦う上で日本人トップが身に付けなければいけないリーダーシップについて話を聞いた。

インタビュアー:松下 芳生(デロイト トーマツ コンサルティング 取締役 パートナー)
三谷 宏幸(みたに・ひろゆき)
ノバルティス ファーマ代表取締役社長
1953年兵庫県生まれ。77年東京大学工学部機械工学科卒業。同年川崎製鉄(現JFEスチール)入社。83年カリフォルニア大学バークレー校大学院工学修士号取得。84年スタンフォード大学大学院経営工学修士号取得。88年ボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。92年日本ゼネラル・エレクトリック(GE)入社。98年GE航空機エンジン北アジア地域社長。2002年GE横河メディカルシステム代表取締役社長。07年より現職。著書に『世界で通用するリーダーシップ』(東洋経済新報社)がある。
【企業情報】
ノバルティス ファーマ株式会社
1997年4月1日設立。本社東京都港区。社員:4410名(2012年6月30日現在)。世界140カ国に製品を提供するヘルスケアの世界的リーディングカンパニー、ノバルティス社(スイス)の医薬品部門の日本法人。循環器・ガン・呼吸器・中枢神経領域など、幅広い領域で革新的な医薬品を提供している。

グローバルで戦うためにはグローバルを経験する必要がある

松下芳生(以下、松下) 三谷社長のご著書である『世界で通用するリーダーシップ』を書こうと思われたのは、どういうきっかけだったのですか。

三谷宏幸(以下、三谷) 私の経験を伝えることで、少しでも日本を強くしたいという思いからです。私はBCG、GE、そして今と、もう25年くらい外資系企業に勤める生活をしていますが、やはり欧米の人たちと日本人とは考え方が違うと思いました。もちろん違うことが悪いとは限らないのですが、日本が劣っている場面もよく見るので、私の経験を何らかの参考にしてほしいという気持ちがありました。

今、グローバル競争は英語でいうとBrutal(すごく激しい)な状態です。ものすごいスピードで変化している。ところが日本の若い人たちには、「何とか守ればいい」みたいなところがあるのが気になります。野球でいえば、初めからバントの形で構えているような。このBrutalな世界では、普通に手堅いことだけやっていたら勝てません。

松下 三谷社長があの本で特に言いたかったことはそこでしょうか。

三谷 グローバル競争の中身を少しでもわかってもらいたいのです。たとえば海外の経営者たちは、ともすればいつも高邁な素晴らしい判断ばかりしているように思われがちです。しかし、彼らとずっと付き合ってきてわかったことは、彼らも意外に、お客さんに会う前には、リラックスしたり冗談を言っていたりするのです。ただし私が少し説明して、その後お客さんと会うと、たちどころに全体的なことを理解する。情報を組み立てるのが猛烈に速い。そんな素晴らしい経営者たちと身近に接することで、私自身も大いに刺激されました。若い人たちには、「今日あなたが経験することが、明日を変えるんですよ。今日変えないと、結局明日も明後日も変わりませんよ」ということを伝えたいですね。急に英語が話せるようになるわけじゃないし、急にグローバルの経営ができるようになるわけではない。みんな一歩一歩積み重ねて高い所へたどり着くのです。

松下 三谷社長がその一歩を最初に積み重ねられたのはいつですか。

三谷 初めての外資系企業への転職だったのですが、BCGでの経験が大きかったです。日本の企業では、何か問題が発生すれば、「どこどこの責任者をよく知っている」とか「どこそこのオイルを使えば製品の表面にツヤが出る」というように、何でも固有名詞が出てきます。でも、そこにずっといると固有名詞の経験しか増えないから、ほかでも通じる一般的なものの考え方がわからないままです。それではいけないと思ってBCGに転職したのですが、案の定、固有名詞に頼らない経営の枠組みを持っている多くの人たちに出会うことができました。経営の理論と現実をどうつなげていくかを学び始めたのはBCGに転職してからです。

松下 その後GEに行かれたのは、BCGで学んだことを実践しようと。

三谷 そうですね。コンサルタントの方の前で言うのも何ですが、分析ばかりするより現場を動かし始めたほうがいいと思ったのです。GEという大きな舞台でいろいろな仕事をやらせてもらえたおかげで、経験を積むスピードがずいぶん加速したと思います。

日本企業はなぜグローバル化が遅れているのか

米国・ケンブリッジにあるノバルティス バイオメディカル研究所

松下 よく外国人から、日本企業に勤めても、キャリアがグローバル化しないと言われます。場所によって仕事のやり方が違うし、見る数字も違う。要するに日本の企業は業務の標準化ができていない。ここを変えない限りグローバル人材を確保したり育成したりするのは難しい気がします。そこはどう取り組めばいいのでしょうか。

三谷 いよいよ本題ですね。まず日本では海外の支社で働く人たちにどういう目的やターゲットを与えて、どういう点で評価するのかが必ずしも明確になっていないのではないでしょうか。つまり日本は標準化が非常に弱いのです。でも私はどこの国でも経営というものは80%は同じだと思っています。もちろん国によって違う部分もある。でもそれは20%くらいです。ところが日本では、その20%を70%くらいに捉えてしまい、すぐに「ジャパン・イズ・ディファレント」と言ってしまう。そうするとグローバルのマネジャーたちが話を聞かなくなる。大事なのは同じ80%をどう納得させて運用できるプロセスに落とすか。たとえば経営の指標とか人材育成とかを言葉や数字にしてわかりやすく説明し、「これだけ守りなさい」というお互いの基準をスペルアウトすればいいのですが、それができない。それがグローバルな経営ができないいちばんの理由ですね。

松下 そういう意味では今経営をされている方々、役員クラスなのか、事業部長クラスなのかわかりませんが、そういう方にはグローバルな経験が少ない方が多い。自分がやったことも見たこともないものは実践できないのでしょうか。頭ではわかっていても体が動かないというように。

三谷 そういう人もいますが、そうでない人もいると思います。たとえば松下幸之助さんは英語をどれだけしゃべったか知りませんが……。

松下 ほとんどしゃべれなかったみたいですね。

三谷 あんな経営の神様でも、海外に行って直接の意思の疎通はできなかったということです。それでもあの人の考え方はグローバルスタンダードになりうるものが多かった。だから海外経験と思考能力は違うのではないかと思います。逆に、中途半端に海外に行ったからといって海外で通用するわけでもありません。昔は「外資ゴロ」と呼ばれる人たちがいました。英語がしゃべれるというだけで主張に一貫性がなく、ボスの言うことなら何でも賛成するような人々です。当然、グローバルパートナーからは、外資ゴロの本当の「顔」は見えません。本当のリーダーならそういう意味での一貫した「顔」が見えるはずです。それがリーダーシップではないかと思います。

1割の異才・異能を育てる

松下 そういったリーダーシップを持った人材はどうやって育成すればいいのでしょう。

三谷 それは自分でもよく考えますが、難しいですね。私は2週か3週に1度「ラウンドテーブル」と称して社員と討論する機会を持つようにしています。これをはじめとして、人材育成のプログラムというのはいくつか作っています。ただ、問題はそれで、本当に人材が育つかどうかですね。たとえば「お医者さんの前では薬の説明はこんなふうにしなさい」というような知識系のことを教えるのは簡単です。難しいのは知能系のことをいかに教えるかということです。

松下 知能系ですか。

三谷 矛盾するようですが、チームの6割は上司の言うことをよく聞く標準的な人間が欲しいけれど、1割はやっぱり異才というか、周りと違う人材が欲しい。今の学校教育はその6割を育てるのは比較的うまいけれど、残りの1割を育てるのはうまくない。でも異才を育てていかないと、このBrutalな現代の状況は乗り切れません。過去の経験がまったく利かない場面が出てきたときに普通の人が思いつかないような方法で状況を突破する、思考能力のある異才が1割は欲しいですね。

松下 三谷社長はどうやって、1割の絶滅危惧種を保護されているのでしょうか(笑)。評価を厳密にしてスクリーニングの回数を多くすると、異才がはじかれてしまうような気がします。 

三谷 手厚く保護しているんです(笑)。私はいつもこれはと思う人は、ハンドピックするようにしています。そうすると必ず、「不公平じゃないですか、三谷さん。ほかの人たちは三谷さんと会ってないんだから」と言われます。でも何もしないよりは何かすることのほうが意味がある。何もしないと、異才たちは「結局、この会社は毎回同じことをしっかりする人だけが大事なんだ」としか思わない。

松下 なるほど。ただし異才と異分子はちょっと違うと思うのですが、そのあたりの見極めはどうしていらっしゃるのですか。

三谷 時々私自身も間違えます(笑)。みんな最初は異才に見えるんですよ。でもなかには異分子もいます。

松下 異分子の定義は何でしょうか。価値観が会社と合わないとか?

三谷 難しい質問ですね。ちょっと話がずれるかもしれませんが、私は昔、川崎製鉄にいたとき、課長に「三谷、俺は今度の人事でどこに行くんだ」と聞かれたことがあるんです。私は人事の人たちと仲が良かったから知っているだろうと思われた。「知りませんよ」「そんなことを言わずに教えてくれよ」という問答があったんですが、その人が面白いことを言った。「三谷、1年後の人事なんかわかっても全然価値がないんだよ。1週間後の発表を事前に知っていることがいちばん意味があるんだ」。異才と異分子の違いもそれと似たところがあって、10年後にようやく花が開いても困るのです。だから私の定義としては、異才とは、刺激することで2~3年後に新しい変化をもたらしてくれる人たちです。仮に10年後にiPadが作れる人だとしても、それは私にとっては異分子ですね。

松下 それでは自分は異才でありたいと思う若い人は何から始めれば。

三谷 うちの会社の例でいいますと、ABC3つの製品があって、それぞれの売り上げ目標があり、合計の売り上げ目標があるとします。バランスの取れた人間は、ABCのそれぞれの製品をプラス5%売る。結果的に売り上げ全体もプラス5%になるのですが、私はそれを異才だとは思わない。異才というのは全体の売り上げを10%プラスにする。でも内訳を見ると、C製品がまったく売れていない。AとBが60%余計に売れるという売れ方をしている。まったく違うアプローチをしているからそんなとんでもない売れ方をする。だから異才なのです。でも本当に人と違う人間でいようと思うなら、当然リスクも冒さないといけない。失敗すれば追い詰められます。皆さんに申し上げたいのは、本当にそれだけの自信や覚悟があるかどうか、自分に尋ねた上で異才という存在にチャレンジしなければならないということです。チャレンジとは、100の売り上げに対して5%プラスすることではないんですよ。1つの製品だけ60%プラスするようなことであって、それは、相当な背伸びをすることなんです。でもそれが実は新しい自分の発見につながるのです。何とか状況を乗り越えていくうちに、自分のキャパを広げることができるのです。私は異才というのはそういうことができる人だと思います。

松下 ありがとうございます。最後に、グローバル経営戦略というのは大きなテーマです。特に2013年から2~3年先を見越したときに、どういった潮流があるでしょうか。

三谷 グローバル競争が製薬業界に限らず、一般的にどこでも起きるようになってきたのは確かですね。かつては日本の一部の産業だけがグローバル競争にさらされていましたが、今は大半がさらされています。さらにそれが加速化していくのは間違いない。業界全体のビジネスモデルを変えるような動きがあちこちで起こってきているのは確かです。この2~3年、さらに次の2~3年と、どんどん変化のペースが加速するわけですから、そういう状況に太刀打ちできるような経営をしていかないと駄目ですね。「5年前に決めたことだから」といってそれを今年も金科玉条のように守る経営は経営じゃない。でも私は悲観しているわけじゃなくて、トヨタもホンダもしっかりグローバル化に成功していますよね。そういう会社はそれなりの勝ちパターンを持っている。ですから日本人がグローバル経営をできないわけじゃないと思います。

(10月11日、港区の西麻布三井ビルにてインタビュー)