経営トップにこそ
GCMに取り組む意義を知ってほしい

　企業の経営資源として非常に重要かつ最強のマネジメントアイテムである資金。ビジネスをグローバルに展開させるには、グループ全体でいかに資金を機動的に活用できるかがカギとなる。
　デロイト トーマツ コンサルティングでディレクターを務める伊藤薫氏は、日本と欧米のキャッシュ・マネジメントの違いについて次のように語る。「欧米のグローバル企業は『お金の所有者は株主』という意識が強く、ガバナンスの観点からも、資金は本社のコーポレート部門で管理するのが一般的です。一方、多くの日本企業では、子会社であっても『お金の所有者は自分』という意識がまだまだ強く、会社ごとに資金の管理が独立しており、グループ全体での資金の流れが見えにくい傾向にあります」
　ビジネスがグローバルに展開すればするほど、資金や為替の潜在的なリスクは大きくなる。例えばリーマン・ショックや欧州通貨危機などの非常事態の際、GCMが不十分な企業は、異変が起きたときに初めて資金の流れを確認することになるため、経営判断を下すべきタイミングを逸し、結果的に大きな損害につながる可能性もある。
　「GCMの重要性は、ほとんどのCFO（最高財務責任者）は気づいているのですが、CEO（最高経営責任者）の意識がまだ追いついていないように見えます。GCMはリスクマネジメントやガバナンスの強化にも有効であることを、企業のトップにこそ知ってほしいと思います」（伊藤氏）

グローバル共通のプラットフォームで
資金の動きを一元管理

GCMに最適化された体制を新たに築くためには、さまざまなチャレンジが必要だ。

① 銀行政策

　まずは金融機関の選択。ビジネスが拡大しているなか、世界中のどの拠点もまんべんなくサポートできる銀行があれば理想である。しかし、現実的には複数の銀行と取引を行わざるを得ない。その結果、複数の銀行に資金が散在することになり、管理しにくくなる。
　シニアマネジャーの日置圭介氏は、金融機関との向き合い方について次のように語る。「日本企業では融資を含む総合的な取引観点から、メインバンク第一主義の考え方がまだ根強いと言えます。もちろん、良い面もあると思いますが、効果的なGCMを実現するためには、サービスレベルやコストを比較し、サービス毎に最適な金融機関を選択するというスタンスが重要です。とはいえ、金融機関との付き合い方を変えていくのは非常に難しいことです。財務部門だけで決めることは到底できないので、経営トップが判断する必要があります」

② プラットフォーム

　日本企業にとってGCMを実現するための最も難しいチャレンジは、グローバルで共通のプラットフォームを構築することかもしれない。まず、国内外のグループ企業における銀行口座の一元管理、次に資金管理や為替管理などのプロセスの一元化という順序で進める。
　「グローバルに展開する企業全体の資金情報が共通のシステムで管理され、さらに、グループで統一されたプロセスが整備されて遠隔管理が可能な状態であれば、オペレーションは効率的になり、また、BCP（事業継続計画）にも対応しやすくなります。一方、共通プラットフォームの構築には時間と労力がかかるため、本当にコストに見合った効果が得られるのか疑問に思う人もいると思います。しかし、10年、20年先を見据えた場合、現状をしっかりと把握し、費用対効果を検証しつつも、どこかで覚悟を決めて、共通プラットフォームの構築を検討すべきです。昨今では銀行のシステムにも、使い勝手のよいものが出てきているので、それらを活用することも選択肢のひとつとなるでしょう」（日置氏）

③ 制度対応

　各国の制度の違いや変化にきちんと対応していくことも重要なチャレンジだ。国境を越えて資金を移動する場合、各国の規制や税制を事前に確認することが絶対条件であるし、為替・金利等のヘッジ取引を行う場合には、会計基準に準拠した適切な処理を行うことが求められる。

④ 人材

　これらのチャレンジを成し遂げるために欠かせないのが人材の確保である。銀行との付き合い方やキャッシュ・マネジメントの仕様を適切に見直し、各国の制度に対応していくためには、優れた人材が求められる。経営者がGCMへの取り組みを重視し、その構築にふさわしい人員を配置できるかどうかが、実現の要といえるだろう。