5歳児を衰弱死させた父親の絶望的な「孤立」 「助けを求めることを知らない」親たち
2014年5月、神奈川県厚木市のアパートで幼い男の子の白骨化した遺体が発見された。亡くなったR君は当時5歳。人が多く住む住宅地の中、ゴミであふれかえった一室に、遺体は7年も放置され、誰も気づかなかった。当時、新聞をはじめ多くのメディアがその事件をセンセーショナルに報じた。
R君はトラック運転手であるSと2人で暮らしていた。母親が家出した後、電気、ガス、水道が止まった。その部屋の扉に粘着テープを貼り、R君を閉じ込めた状態で、Sは日々仕事に出掛けた。
2人の生活が2年を過ぎた頃、R君はひっそりと亡くなった。メディアはSがいかに「残虐な父」であるかを競うように強調して書いた。前回記事でも書いたとおり、検察もそのストーリーに沿って裁判を進めようとした。
R君の失われた命は戻らない。しかし筆者は1審、2審の裁判を傍聴し、拘置所で父親のSとの面会、手紙のやり取りを続けるなかで、「残虐な父」というストーリーだけでこの事件を語れるのかと、違和感を持った。そして社会にSOSを出せない家族が、ここまでの孤立を抱え込むのかということを感じた。
「大阪二児置き去り死事件」との相違
この事件と少々似た事件がある。2010年の夏、大阪市西区で23歳の風俗店に勤務する母親が3歳の女の子と1歳半の子を50日間、風俗店の寮である単身者向けマンションに置き去りにし、亡くした。この事件を筆者は『ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件』にまとめている。
この母親も、子どもを部屋に閉じ込めて、外側から粘着テープで扉を留めた。寮に戻らなかった50日間、男性の家を転々とした。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら