日本の「夫婦別姓禁止」は、いつまで続くのか 最高裁の判示に打たれた布石を読み解く

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それは、「憲法違反ではない」と述べる多数意見ですら、国会の立法裁量について、一定の縛りをかけようとしていることが判決文から読み取れることだ。

多数意見は、憲法24条2項が、国会が婚姻制度を定めるにあたって、「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」に立脚することを要請していることを強調。そのため、法律を作るにあたっては、氏の変更により被る不利益や、妻が本当に自由な意思で夫の氏を選択しているのかなどについて、国会はきちんと考慮しなければならないとクギを刺している。

また、「憲法24条に違反しない」と判断した後に、わざわざ「この判断は、選択的夫婦別氏制を禁止するものでない」と言及し、国会での議論を期待するようなことを述べている。こうした内容は、選択的夫婦別氏制に対する大きな配慮を感じるものだったと言えるのではないだろうか。

「おそらく、多数意見は、選択的夫婦別氏制度を認めないまま国会が放置した場合に備えて、将来的に『憲法違反』と判断するための布石を打っている」と伊藤弁護士は分析する。今後、どのような事情があれば、結論が変わることになるのだろうか。

通称が広まれば、結局「違憲」に傾く可能性

「例えば、通称の使用が今よりも広く認められるようになれば、家族を表示し、識別をするという多数意見の指摘する氏の機能も失われる。反対に、通称の使用が広まらなければ、夫婦同氏が認められないことを理由に法律婚を断念する人々が増え、婚姻に対する事実上の制約であると評価されるかもしれない。将来、国会が選択的夫婦別氏制を認めない状況が続けば、いずれのシナリオでも、最高裁が『憲法違反』と判断する可能性は十分ある」(同)

あくまで導入が求められているのは、「選択的」夫婦別氏であり、国民全員が夫婦別氏を強要されるわけではないから、同氏を望む人の利益が害されることは何もないだろう。「個人の尊重」を最重要と考えるのであれば、家族の一体感をどのような形で作っていくかについては、国が決めるものではなく、国民それぞれが自分で決めるべきだという結論になるのは当然だ。

今回の判決は、「夫婦別氏を認めないことが憲法に違反するとまでは言えない」と判断したにすぎず、「夫婦同氏こそあるべき姿だ」などとは一言も言っていない。結論はともかく、判決文全体から発せられたメッセージは、選択的夫婦別氏を求める人たちにとって勇気づけられる内容を含んだものだったと言えるだろう。
 

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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