新型山手線は「東京のアイコン」になれるのか 大都市には「象徴」となりうる乗り物が必要だ

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白っぽかった既存車と比べ、ウグイス色の印象が強い前面(撮影:風間仁一郎)

そして、話題の前面。

鉄道車両は、床に当たる台枠、屋根、左右の側面、前後の妻面の6つのパーツに分けて製造され、組み立てられる。それゆえ、車両のイメージを大きく左右する先頭車の前面は、前面だけで製作する。

E235系では、この前面のパーツが後に続く車体の断面と比べて大きく、上に飛び出している。フルカラー式LEDの大型行先表示器を運転台上に収めるためと思われるが、この大きさの違いと、色により「お面」をかぶっているような風貌となる。新幹線電車を端的な例とした、前面と車体が連続していることが当然である、既存の車両を見慣れた向きには違和感を与えるようだ。

けれども、強い印象を与えるデザインという見方をすれば、これはこれで成立していると感じる。多少の違和感を与えた方が、人間の心にさざ波を立て、印象を深くするものだ。きれいに整えるばかりが美ではない。

古田織部のように、器を一度、わざと割って再び金継ぎして、その趣を愛でた茶人もいる。東洲斎写楽のように、「首絵」といってわざわざ人物の顔の特徴をデフォルメして印象を強め、後世にまで残る人気を博した浮世絵師もいる。そういった極端な意匠とはいわないものの、E235系にも茶道の「破調の美」と通じる趣があるのではないか。

そして、この前面をウグイス色と黒だけで構成し、境目にはやはりグラデーションを入れて色の強い断絶は避けた感じがした。ウグイス色の帯が入っているものの白っぽい顔立ちだったE231系500番代と比べると大きな転換で、実見してみて、緑の山手線に回帰したなと感慨深いものがあった。

山手線は他線と違う「顔」で

まだ、試作的な要素を持つ量産先行車が1本完成しているだけで、約500両の製造が予定される量産車では、どのような改良が加えられるかは定かではない。ただ、東京の「アイコン」となりうる、緑の山手線を印象づけるようなデザインになってほしいと願う。日本人や外国人を問わず、E235系を見て、「これが東京を象徴する電車」だと感じてもらえれば、楽しい。

ウグイス色はもっと強調されてもいいだろう。特に側面においては、まだ銀色の印象がある。現在では、外観の意匠は耐候性フィルムに印刷し、張り付ける「ラッピング」の手法で行われるものが主で、E235系も例外ではない。いちいちペンキを塗っていた103系の時代とは異なり、変更は容易だ。

また、山手線への投入が終わった後、他の線区へもE235系が投入されるのかどうかも定かではない。もし他の線区でも走るのなら、同じ系列の電車であっても、前面デザインなどは、形も含めて山手線と変えてくれればとも思う。

あくまで、山手線が東京の象徴になってほしいという願いからである。
 

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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