島猫3000匹の「不妊化」は、人間のエゴなのか

ペット界の新王者「猫」を取り巻く光と影<中>

どうぶつ基金の佐上邦久理事長は「ここのノウハウや技術は世界最先端だ」と胸を張る。獣医師は国内外での手術経験が豊富な同基金顧問の山口武雄氏に、その教え子2人を加えた3人。各町の職員やパートからなる現地スタッフと連携して、この日1日だけで108匹を手術した。

時には「急患」も入ってくる。毒蛇のハブに腹部を噛まれた子猫が運び込まれ、40針を縫う大手術によって一命を取り留めた。泉重千代さんにちなみ、長生きを願って「しげちゃん」と名付けられていた。

「無料」の神通力で1976匹を手術

第5次手術が完了した8日までに手術が済んだ猫は計1976匹。申告による内訳は飼い猫481匹、野良猫1495匹だ。これだけの数が集まったのは、すべて無料だからだ。猫に付けられた整理用タグには、毛並みが美しいのに「飼い猫」ではなく「ノラ猫」だとされたものが大半だった。各町の条例に基づき徴収される飼い猫登録料500円を惜しむ人が多いためだという。

6月に開業した島内初の動物病院では、オスの手術に1万9440円、メスでは2万7000円かかる。ワクチン代などは別だ。この基準を適用すると、どうぶつ基金が2000匹弱に実施した医療行為の額は約6480万円となる。

佐上氏は成功した起業家で、犬や猫のTNR活動に古くから携わってきた。2006年に、ボランティア仲間で同基金の会長だった山口氏に乞われ理事長に就任。北は青森から南は石垣島まで不妊・去勢の出張手術を行い、行政による殺処分減にも寄与してきた。

手術の翌日、米田氏に放されるさくらねこ

手術後の猫を放しに行く軽トラに乗せてもらった。ハンドルを握る徳之島町住民生活課の米田博久・課長補佐によると、島の猫は「基本的に放し飼いで、不妊手術する意識も無かった」。ネズミを退治して豚の感染症を媒介する小鳥を食べるため畜産農家などで重宝はされるものの、「そこらへんにいる存在」に過ぎなかった。

米田氏は一斉TNR実現の理由を「希少種のアマミノクロウサギを守りたいという住民の意識が強かった」と語る。

9日に天城町役場で行われた感謝状贈呈式でも、大久幸助町長が「クロウサギ保護の効果が出てきた。(TNRが)全て完了すれば世界遺産登録に向けた大きなヤマを越える」と、今後も協力を続ける意向を示した。
 

佐上理事長は「3000匹の一斉TNRは世界でも初の試みだが、猫の繁殖力は異様に強い。ここで手を緩めれば数年後には元の木阿弥だ」と力説した。2016年度末までに手術を3回続け、残りの約1000匹をさくらねこにする計画だ。

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