《ミドルのための実践的戦略思考》クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』で読み解く 法人向け英会話スクールの営業担当・安田の悩み

《ミドルのための実践的戦略思考》クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』で読み解く 法人向け英会話スクールの営業担当・安田の悩み

■ストーリー概要:法人向け英会話スクールの営業担当・安田の場合

安田は法人向けにビジネス英会話を提供する企業「イングリッシュ・パートナー社(以下EP社)」に勤めていた。EP社は単に企業向けに外国人英会話講師を派遣するのではなく、企業側の状況を的確に把握し、その状況に即し、実践性の高い英会話力を養成するプログラムを提案するカスタマイズ力を売り物としており、昨今の日本企業のグローバル展開に合わせて、業績を確実に伸ばしていた。

安田はその中で、EP社の最大のクライアントであるメーカー、エレクトロニクス社のアカウントマネジャー(営業担当)をしていた。エレクトロニクス社とは長いつきあいであり、EP社の成長はエレクトロニクス社あってこそと言っても過言ではない。設立当初に経営者の知己を通じ一部署だけの接点から始まったビジネスがエレクトロニクス社内で口コミを呼び、全社的な展開となったのである。

エレクトロニクス社は、この10年間でグローバル展開を急激に始めた企業であり、社員が英語を使う場面や地域は多岐にわたる。現地の政府の要人と直接、タフな交渉をすることが求められる社員もいれば、E-mailのやりとりさえできれば何とか仕事はまわるという社員もいる。

非ネイティブのインド人のアクセントに対応できる英会話力を鍛えたいという人もいれば、ネイティブの英国人との電話会議でも確実に意見を表明したり、遜色ないプレゼンテーションができるようになりたいという人もいる。

一般的な英会話サービスであれば、それらをひっくるめて汎用的なレッスンを行うところ、EP社はエレクトロニクス社からの要望に基づき、その細かなニーズに確実に対応し、単なる会話だけでなく、その場での振る舞い方やマナー、はたまた現地ごとのカルチャーや陥りやすい落とし穴などをきめ細かく指導できる力を身につけてきた。

EP社のこうした細かなニーズへの対応力はエレクトロニクス社のみならず、大企業を中心に非常に高い評価を受けた。当然カスタマイズを行う分だけ他の英会話スクールと比較して費用は3割近く割高になるのだが、口コミで評判が広がり、EP社から営業をかけなくとも問い合わせが入ってくるようになっていた。やがて、ハイスペックのビジネス英会話であればEP社がNO.1というのが業界の認識となっていった。

安田はそのEP社の中でも大黒柱的な存在であった。アカウントマネジャーという立場であるが、EP社のマネジャーは、営業だけをするのではなく、サービスの開発にも携わる。安田の商品開発力は社内からも圧倒的な評価を受けていた。顧客からのニーズを正しく分析し、そこに合わせたトレーニングを設計することはなかなか出来るものではない。

社内も安田の商品開発力を見習うべく、「安田塾」という名前のトレーニングが週1回の頻度で行われていた。そのカスタマイズ力や設計力を持てるか否かがEP社における昇格の重要なポイントにもなっていた。

エレクトロニクス社も安田の手腕を高く評価しており、安田に対していろいろな相談を持ちかけていた。つい最近は、担当者が安田に「英会話に限定せず、異文化マネジメントも含めた海外でのコミュニケーション力を鍛えるサービスがあると嬉しいのだが」ということを伝えていた。これは全くの新しいサービスラインであり、EP社にとってもチャレンジであった。

しかし、もしそれがうまく行けば、今までのエレクトロニクス社との関係で考えると、既存サービスの3割近いプレミアムが見込めると安田は考えていた。そうなれば、今年の業績は大幅に予算を上回ることは間違いない。社内は色めき立ち、リーダー陣が一丸となって開発体制を組んだ。

だが、その一方で、順調であったEP社も、最近やや異変を感じるようになっていた。それは非常に安価なサービスを提供する企業の台頭である。中小企業はそれほど予算が取れないこともあり、英会話については、基本的に安価で最低限のサービスを提供する中小スクールを利用するのが普通であった。

EP社にも中小企業から声がかかることはたまにあったが、手間ばかりかかって売り上げ規模はほとんど見込めない。それよりも、大手企業のより高度なニーズに対応する方が業績は確実に上がるし、何よりもEP社の将来的な競争力強化につながると考えていた。

しかし、その大手顧客が徐々に安価なサービスに目を向け始めていた。営業現場でEP社のサービスを提示する時の典型的な顧客の反応は、「このサービスは素晴らしいですね」と賞賛を示す一方で、「英会話にここまでの金額は出せません」というものが多かった。そして、結果として極めて標準的なサービスラインしか持たない競合に仕事を奪われてしまうのだ。

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