新薬ビジネスで価値を提供する アステラス製薬
楠木 僕の専門の「戦略」は、他社との違いをどうつくるのかということです。御社は合併により、どのような違いを生み出そうとしたのですか。
桝田 合併以来、新薬ビジネスに経営資源を集中するとともに「アンメットニーズ(Unmet Needs)」と呼ばれる、治療満足度が低い疾患領域において革新的な医薬品を創出し、競争優位を確立する「グローバル・カテゴリー・リーダー(GCL)」というビジネスモデルを追求してきました。すでに、泌尿器疾患や移植の領域ではGCLを実現できたと自負しています。現在はがん領域を次のGCLにするために取り組んでいるところです。
楠木 製薬業界では大型の合併が相次ぎました。規模が大きくなり利用可能な資源が多くなると、普通なら戦略が緩くなりがちです。ところが御社では逆に、そこを絞ったのですね。
桝田 はい。特に当社の場合、特化の度合いが違います。一般用医薬品や後発医薬品を手掛けず新薬ビジネスに絞り、アンメットニーズのあるところで差別化できるイノベーションを起こし、新薬を患者さんに届けていく道を選びました。おかげさまで業績は順調に推移しています。
楠木 僕にすれば、製薬業界は「位置エネルギー」が高い。その業界に存在することが利益の源泉になっている。つまり戦略よりも規模の論理になるわけですが、御社は違うのですね。
桝田 各国において医薬品コストの抑制が進んでおり新薬ビジネスを取り巻く環境は安泰というわけではなく、ますます個々の企業の戦略が、重要になると考えています。
楠木 事業環境の変化スピードが速まると、規模や資本が大きいことが逆にマイナスに作用することもありますか?
桝田 そういうこともあるかと思います。そのため当社は研究開発力や技術力を磨き、単に規模を追うのではなく、イノベーションをアンメットニーズにぶつける戦略に基づいて持続的な成長を目指しております。
楠木 なるほど。
桝田 当社はこの5月、3カ年の経営計画を発表しました。ここでは「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える」という新しいビジョンのもと「製品価値の最大化」、「イノベーションの創出」、「Operational Excellenceの追求」の3つの戦略を推進し、中長期にわたる成長を掲げています。具体的な計数目標も示しており、株主資本利益率(ROE)は15%以上、R&D費は売上比17%以上、年平均の売上成長率は1桁台半ばとしています。