あすにかける 中央銀行の栄光と苦悩 ハワード・デイビス、デイビッド・グリーン著/井上哲也訳 ~コンセンサスなき新しい論点に挑戦

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本書の立場を要約すると、金融政策運営においては、資産価格を直接の目標にすべきではないとしても、物価安定だけを追求するのではなく、信用の膨張や集中にも配慮すべきであり、個別金融機関の監督については金融監督当局に委ねる一方、中央銀行はシステミックリスクの把握能力を向上させ、その成果を海外の中央銀行や国内外の金融監督当局、国際機関と迅速かつ適切に共有すべき、としている。いずれも新しい論点であり、いまだコンセンサスが得られていないものもあるが、基本的な方向性は評者も賛成である。

類書と異なり、総裁や政策委員に必要な資質、委員会制による意思決定のメリットなど、中央銀行の組織形態についてもさまざまな観点から論じており、大変興味深い。

金融危機への対応策として、日本を始め先進各国の中央銀行は大量の国債を購入し、否応なしに国債管理政策に組み込まれている。政策の手仕舞いが必要となる時、金融システムの安定と物価安定に大きな矛盾が生じるリスクがあるが、この潜在的な危機については論じられていない。日本が最初に直面することになるのではないか、大変懸念される。

Howard Davies
英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス前学長。監査委員会、英国産業連盟、イングランド銀行副総裁、金融サービス機構(FSA)初代理事長などを経る。

David Green
英財務報告審議会(FRC)国際部会アドバイザー。イングランド銀行、金融サービス機構国際政策部門長など経る。金融サービスのE
U単一市場発足に尽力。

金融財政事情研究会 4200円 414ページ

  

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