原田泳幸・日本マクドナルドホールディングスCEO--爆走するエネルギー、米国へのあこがれと反発

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「IT業界はグローバル・ワンマーケット、かつワンビジネスモデルの時代になる。日本法人社長のバリューは今後なくなっていくと思う」

原田はアップル本社の幹部にこう打ち明けたという。ITは商品だ。アイポッドやアイフォーンがあれば、今やビジネスモデルはどうでもいい。米国でアイパッドが値下げされれば、即、日本で買い控えが起こるというように、グローバル・ワンマーケットなのである。

ジョブズから多くを学んだ。絶対に妥協しない姿勢、難しいことを簡単にコミュニケーションする力。だが、到底まねできないのは、天才の商品に懸ける情熱とこだわりだ。

「私は商品じゃない。ビジネスモデル。普通の商品でも一生懸命考えれば、お客さんに伝わるんですよ」。ジョブズから遠く離れたところ、ビジネスモデルで勝負できる分野とは何か。ヒントは少年の日にあった。

原田の父は一時、食堂を経営していた。「目の前が工場団地。昼にサイレンが鳴ると工員たちが押し寄せる。それを最初の30分でさばいていく」。あのダイナミズム、人間くささ。体験がよみがえった。「IT業界は商品力がなければダメ。レストラン業界は商品よりもビジネスモデルです」。日本コカ・コーラ会長の魚谷雅彦が言う。「彼はチェンジエージェント(改革推進者)としての使命に燃えまくっていた。絶対に日本マクドナルドを変えてやる、自分ならできる、と」。あえていえば、ジョブズへの敗北感=屈辱が火をつけたのかもしれない。原田のエネルギーが爆発した。

しかし、マクドナルド社長の原田は、アップルで理を尽くして説いた原田ではない。このバスに乗るのか乗らないのか。乗らないやつは置いていく。究極のトップダウン。そしてグローバル化=米国化一直線。内なる二つの極の一方を捨てたのである。

失敗も「失敗でない」 今、フェンスの内側で

正月にお年玉ボーナスを出すというたぐいの、藤田時代の巨大な負の遺産があった。これを変えるには、日本的なるものを全否定するしかない。だが、全否定は一つの極に振り切った自分を絶対化することでもある。

爆走する原田にとっては、失敗も失敗ではない。07年8月、華々しく首都圏中心に15店開いたカフェ専門店「マックカフェ」は、翌年縮小した。原田によれば「失敗することを前提としたプロジェクト」となる。専門店は好立地でないと成立しないことが判明した。ならば、専門店路線はやめ、既存店のコーヒーの品質を高める方向に転換しよう。「それで今のマックのコーヒーがある。点で見たら失敗でも、ある成功に導くためのプロセスなんです」──。

07年11月の賞味期限偽装事件。フランチャイズ(FC)の1社が、サラダの調理日時を印字した、ラベルを意図的に張り替えた事件である。

当時、原田は経営効率を高めるために、直営店からFCへの転換を強力に推し進めていた。「オーナー意識を持ったFCのほうがQSCも向上する」というのがうたい文句だから、事件は原田にとっても大打撃のはずだった。マスコミは大きく報道し、原田は連日、記者会見に応じた。

かといって、“降参”したわけではない。「企業ぐるみと個人、故意と過失は区別しなければならない。マックの会社ぐるみではないし、FCの会社ぐるみでもない。一店長かアシスタントが半分意図的、半分過失で行ったという微妙な状況。マスコミは一緒くたに偽装と書く」。

そう言いながら、当該FCの契約は直ちに打ち切り、事件を逆手にFC選別に拍車をかけた。「オーナーの中に、ブランドを傷つけることを外に向かって行う人がいる。目をつぶってきたが、時機が到来した。そういう方にはいよいよ撤退してもらいます」。

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