東京電力の抵抗で進まない原発事故賠償 「兵糧攻め」に苦しむ被災者たち

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東京電力の抵抗で進まない原発事故賠償、「兵糧攻め」に苦しむ被災者たち

「仕事と家を失っただけでなく、母の葬式もまともに出せなかった。原発事故で生活の基盤のすべてが奪われてしまった」

茨城県つくば市で避難生活を送る小野田長尚さん(68)は悔しさをにじませる。小野田さんは東京電力福島第一原発の立地する福島県双葉町に20代の頃に移り住み、近隣の富岡町の自動車学校で働いてきた。

震災当日も路上教習中で、「目の前の道路が歪むような揺れ」を体感。その晩、取る物も取りあえずいわき市の長男のアパートへと避難した。その後、東京都大田区の被災者支援制度に応募し移転。妻と二男、その妻の4人で、新生活を始めた。

昨年9月には、妻と2人でつくば市へと居を移した。福島県内の病院で寝たきり状態の母(86)に、少しでも近いほうが見舞いやすく安心だと考えたためだ。母は昨年末に亡くなったが、葬儀は家族5人でひっそりと済ませた。

 「関係者はバラバラに避難しているし、みな自分の生活で精いっぱい。とても声などかけられない」(小野田さん)。双葉町にある小野田家の菩提寺は、警戒区域で立ち入りが禁止されている。仕方なく、遺骨は別の寺に一時的に安置してもらっているという。

失職したのは小野田さん本人だけではない。長男は原発事故のショックで体調を崩し、仕事を辞め目下療養中。二男の勤務先は避難区域外だったが、避難先の東京から通うこともできず、退職を余儀なくされた。

小野田さんは東電に対して土地や収入減の賠償、慰謝料など計4800万円の支払いを求めて、同社との交渉を仲介する公的機関「原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)」に申し立てを行った。

代理人の高梨滋雄弁護士は、「従来の損害賠償理論では事故による被害者の財産の減少を賠償すれば足りるとされてきたが、今回の事故だとそれだけでは被害者の生活再建につながらない。新たな土地での生活の立ち上げコストも賠償額として算定されるべきで、別途求めていく」と語る。

 

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