アジアに舵を切ったオバマ政権の狙い--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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95年以来、米戦略の指針となってきた米国防総省の「東アジア戦略概観」は、通商や交流プログラムを通して国際システムに合流することを中国に提案した。米国はこれと同時に日本との同盟を強化することでリスクヘッジしたが、これは封じ込めには相当しない。

結局、中国首脳部にも自分たちの後継者の意向を予知することはできない。米国は中国が平和であることに賭けているが、誰にもわかりはしない。リスクヘッジは、敵意ではなく警戒感の表れである。95年に私が米議会で、関与政策よりも封じ込め政策を望んでいた人々に向けて行った証言──「中国だけが中国を封じ込めることができる」──は今でも間違っていないと思う。

もし中国が脅威を与える国となれば、アジアの周辺諸国は米国と手を組んで中国に立ち向かうだろう。実際、中国の近隣諸国の多くは、中国が自己主張を強めた08年以降、米国との関係を強化してきた。しかし、米国が最も望まないことはアジアにおける第2次冷戦である。

米中両国の競争上の位置づけがどうであれ、通商、金融の安定、エネルギー安全保障、気候変動、世界的な流行病などの問題で米中が協力すれば、米中もアジアのほかの国々も利益を得る。オバマ政権がアジアに向けて舵を切ったのは、この地域の大きな潜在性を認識したことを示すものであって、封じ込めを声高に呼びかけるものではない。

Joseph S. Nye, Jr.
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

(週刊東洋経済2012年1月14日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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