先進国の成長率低下、人口動態だけではなくアニマルスピリットに問題

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だが、この点について、ニッセイ基礎研究所の櫨浩一・研究理事は、「GDPに占める設備投資の割合が、米国は10%であるのに対し、日本は15%と高く、そもそもムダな資本ストックが積み上がった結果だ」と指摘する。

そして、GDPに海外からの所得の受け取りを加えたものから、純間接税と固定資本減耗を除いたものが国民所得なので、「固定資本減耗が大きいことが、GDPが大きいにもかかわらず、国民所得が増えない原因」だというのである。つまり、投資を続けてGDPは増えても、固定資本減耗に吸い込まれて、国民所得は増えない。

国民所得の増加、国内消費の増加を引き出すような事業にシフトができるか、ということが問題になる。それによって緩やかではあっても安定した成長が志向できる。

やはり、カギの一つは高齢化社会への対応だろう。たとえば、団塊世代は好むと好まざるとにかかわらず、生産と消費の主体だったが、すでに定年を迎えている。

医療、介護といった政府が独占して非効率になっている分野に市場機能を導入するという提案はよくいわれるところだ。だが、団塊世代は、まだ体力・気力ともあり、むしろ、人生を楽しむための商品やサービスの提供がまず考えられるのではないだろうか。

また、日本では高付加価値のサービス業の発展の遅れも指摘されている。民間がもっとアニマルスピリットを発揮して、新たな分野を開拓する必要がある。政府にできることは、そのための規制緩和などの環境整備と民間への資金移動を可能にするための財政再建である。

(シニアライター:大崎明子 =週刊東洋経済2012年1月7日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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