開発者が明かす山手線「最新車両」導入の狙い いよいよ登場する新たな東京の「顔」

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車内設備の大きな変化には、車内広告のほかに、今回初めて各号車に導入された「フリースペース」がある。「フリースペース」は、優先席に隣接した座席がない空間で、現在の山手線の先頭と最後尾の車両(1,11号車)にある「車いすスペース」と構造が似ている。ただし、床面に車いすとベビーカーのマークがあり、昨年3月に国土交通省が発表したベビーカー利用のガイドラインに準じている。窓側の上下2段の手すりは、車いすの人がつかまりやすく、ベビーカーなどを持つ人が軽く腰掛けられる。

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各車両に設けられたフリースペースは、車いすやベビーカーだけでなく、大きな荷物を持つ人にも便利

ただし、「フリースペース」という名のとおり、利用は限定されておらず、車いすやベビーカーのほかにスーツケースなどの大きな荷物も置くこともできる。出張やレジャーで空港などに向かう人にとっても便利そうだ。

「フリースペース」が各号車にあると、それを必要とする人にとっては、「どの車両にもある」という安心感がある。ただし、座席がない空間が増え、列車1本あたりの座席数は減る。その点では、思い切った仕様変更だ。

なお、利用者からは見えない部分にも新しい技術的な試みが盛り込まれた。それらで電車の故障による遅延や運休が減れば、利用者にもメリットがある。

通勤電車なのにネットは大きく反応

今回の量産先行車は、新しい試みを複数盛り込んだ、JR東日本の意欲作とも言えるだろう。東京の「顔」である山手線の新車とあって、一般の注目度も高く、プレス発表の情報がネットで一気に拡散した。日常的に利用する通勤電車がこれほど注目されることも珍しく、水谷氏を含む関係者は、その反応の大きさに驚いたという。

ただし、電車の「顔」、つまり先頭部分の独特なデザインには賛否両論がある。この状況を、一般に受け入れがたい人がいるととらえるか、山手線の電車に対する期待の高さととらえるか、判断が分かれるところだ。

新型電車のデザインコンセプトは、「お客さま、社会とコミュニケーションする車両」だ。この言葉の通り、鉄道事業者が利用者や社会と対話し、意見を反映させることで、今後より利用しやすく、親しみやすい通勤電車が増えることを期待したい。

川辺 謙一 交通技術ライター

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かわべ・けんいち / Kenichi Kawabe

1970年生まれ。三重県出身。茨城県南部在住。東北大学工学部卒、東北大学大学院工学研究科修了。化学メーカーの工場・研究所(筑波)勤務後、独立。技術系出身の経歴と、絵や図を描く技能を生かし、高度化した技術を一般向けにわかりやすく翻訳・解説。鉄道以外のテーマにも活動範囲を拡大中。著書に『図解まるわかり 電気自動車のしくみ』(翔泳社)等多数。

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