
従来とは異なる「グローバル化の波」
製造業が「グローバル化」への対応を本格的に求められるようになったのは1980年代のこと。国内市場が飽和状態に達する中で、海外市場を開拓すべく従来国内市場だけを対象としていた企業も積極的に輸出に取り組んだ。
90年代になると、今度はコスト削減を目的とした現地生産のブームが訪れる。円高という背景もあり、日本で製品をつくって輸出するよりも現地で生産・販売した方が効率的な状況が生まれたのだ。
このように日本企業はグローバル化への対応を迫られてきたが、最近の日本の製造業を取り巻く状況は従来と異なっている。こう指摘するのが、アクセンチュア製造・流通本部の相馬修吾マネジング・ディレクターだ。
相馬氏は、「日本の製造業は『マーケット』『技術』『人材』の3つの視点において、従来と異なるグローバル化への要請にさらされています」と指摘する。
具体的にはこうだ。まずマーケットを見るとこれまで主戦場だった国内市場がすでに縮小する傾向にあり、新興国のような新たな市場で売れる製品の開発が求められてきている。技術面ではオープンイノベーションにより国内外問わず従来のものづくりとITやネットワーク技術を融合させる流れができつつある。さらには人材面では人口減少に伴う国内エンジニアの減少や新興国における技術人材の増加が生じている。こうした新しい流れは、従来のグローバル化への対応では対応しきれないと相馬氏は指摘する。
相馬氏がキーワードとして挙げるのが、「設計開発部門のグローバル化」だ。従来でも設計開発部門を海外に立ち上げ、現地市場に対応した製品を開発するという流れは存在した。しかしこれから求められるのは、国内・海外の区別なく、設計開発部門をグローバルに最適配置することだ。たとえば、高度な技術を求められる業務は技術者のスキルが高い地域に集約するといったように、国際的な分業体制を構築することが求められるのだ。
設計開発の「聖域化」が技術者を不利な状況に
すでに一部の企業では積極的に設計開発部門のグローバル化を進め、成功している企業も存在する。しかし「設計開発部門については、グローバル化が進まない独特の要因があります」と相馬氏は指摘する。
アクセンチュア製造・流通本部
マネジング・ディレクター
相馬氏の説明によると、設計開発部門では、拠点に技術者を集約し、「すり合わせ」によって価値を生むというビジネスモデルが展開されてきた。技術者の自由な発想が必要だという理由から、現場主導で物事が決定する、ある意味ガバナンスの効かない「聖域化」された状態にあったという。しかしこれでは技術者の持つ情報が属人化され、共通言語がないために他の技術者に伝承されないという問題が発生する。そのため、設計開発部門をグローバル化しようとしても、現地で採用した技術者に開発業務を教え込むことに時間がかかり、その後マーケットが変化してもそれに対応することができず、結果的に身動きのとれない状況が生じてしまうことになりかねない。
そもそも、設計開発には、基礎技術の研究開発や次世代製品開発といった高度な技術が求められる業務から、量産開発や派生開発の一部など、技術的に容易な作業を多く含む業務までさまざまな業務が存在する。その中で日本の技術者は既存設計の軽微な修正やそのテスト業務といった、量産開発や派生開発の中でも技術難易度が低く業務量の多い仕事に多くのエネルギーを費やしている。「この状況が続くと、将来的には日本の技術者は海外技術者との競争に迫られ、コストが高い分日本人技術者は不利になります」と、相馬氏は危惧する。

こうした状況を打開するには、設計開発部門のグローバル分業を推進し、技術難易度が高く、付加価値も高い研究開発や次世代製品開発に、日本の技術者の業務をシフトさせる必要がある。しかし、相馬氏も指摘するように、日本の設計開発部門は「属人化」「非言語化」「自由で無秩序な状態」にあり、付加価値の低い仕事であっても切り離すことが難しい。そのため、まず日本の製造業に求められるのは、現在エンジニアが持っている技術を「可視化」「共通言語化」「ガバナンスの効いた状態」にすることになる。それにより、設計開発における「聖域」が解体され、グローバル化が進むのだ。
「具体的には、量産開発や派生開発を『工業化』することが必要です」と、相馬氏は語る。つまり、製造工程を工業化し、人件費の安い工場で効率的に量産してきたように、設計開発においても、工業化できるものについては工業化を進め、効果的に設計開発業務を行えるようにする必要があるというのだ。作業フローを明確化し、詳細な手順リストを作成することなどにより、明確な作業指示項目やマニュアルができれば、従来共通言語化できなかった技術が可視化され、グローバル化も進めやすくなる。

専門家の力を利用して「可視化」を進めることも
しかし日本の製造業が自らこのような変革を進めていくのは難しいのではないだろうか。それに対し相馬氏は、「プロセスの可視化を進めるには、外部の力を借りるという手もあります」とアドバイスする。実際アクセンチュアでは、設計開発のプロセスを可視化し、日本に残さなければならないものが何かを見極める、言わば「プロセスの整流化」とも呼ぶべきサービスを提供している。またアクセンチュアがフィリピンやインドに持つ海外拠点を利用して、実際に設計開発部門をグローバル化するサポートも行っており、すでに何社もの実施事例があるという。
相馬氏によれば、設計開発部門のグローバル化は、海外からのニーズもあるという。「今は日本の技術者にニーズがあっても、現在持っている技術はやがてコモディティ化し、価値を生まなくなる可能性があります。そうなる前にグローバル化の波という『外圧』を利用して、より付加価値の高い業務へと日本の技術者をシフトさせていくことが重要です。そのためにはマネジメント層が率先して変革を進めていくとともに、中堅の技術者が自らが現在行っている開発業務にどのような価値があるのかをつねに考え、行動していくことが必要でしょう。外資系製造業がASEAN市場向けの製品開発の拠点を日本に置くなど、世界的にも日本の技術者のポテンシャルへのニーズは高く、うまく競争力を高めていくことによって、日本の技術者が高い付加価値を生み出していくことは大いに期待できます」。