超円高襲来! 空洞化の瀬戸際、日本車が消える

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三重県鈴鹿市にあるホンダ鈴鹿製作所。従業員は今、“超”のつく忙しさだ。9月から、2本ある生産ラインで2交代勤務を開始、1日当たりの生産台数は2000とフル生産の状況にある。

フル生産に戻るのは実に2年ぶり。鈴鹿ではその間、期間工の採用を控えていたが、今回約750人を確保し、今後の増産に備える。

鈴鹿だけではない。全国の自動車工場で、「かつて経験したことのない大増産が始まっている」(志賀俊之・日本自動車工業会会長)。東日本大震災による減産分を取り返すための挽回生産だ。

震災でサプライチェーン(部品の供給網)が寸断され、大きな痛手を被った自動車業界。その復旧は、想定をはるかに超える早さだった。トヨタ自動車は当初年内としていた全車種での生産正常化を9月にほぼ実現した。豊田章男社長は「日本のモノ作りの底力、現場力をあらためて実感した」と語る。

大増産を実施して、震災で落とした世界シェアを取り戻す--。追撃態勢が整ったかに見えた矢先に、大きな難題が降りかかった。歴史的な超円高だ。8月には1ドル=75・95円と過去最高値を記録。この水準では輸出すればするほど赤字になる。

これまでの減産で在庫が枯渇していることもあり、自動車の増産基調は年明けまでは続きそうだ。だが、その先に見えるのは、ニッポン空洞化だ。すでに小型車マーチをタイから逆輸入している日産自動車は、子会社の日産自動車九州で行っているSUV(多目的スポーツ車)のローグや高級車ティアナの生産を、米国へ移管することを決定した。

自動車メーカーにとって海外シフトは、円高対策のためだけではない。世界市場の中心が先進国から新興国へ急速にシフトする中で、現地コストに見合った車を現地で造らなければ勝負にならなくなった。いわば時代の必然だ。

現在、世界の主要市場では、独フォルクスワーゲンなど欧州勢や、韓国・現代自動車がシェアを高めている。その背景には、開発、部品調達から最終組み立てまでを日本で完結させる「日本車」が、競争力を失っているという現実がある。

現時点で自動車メーカー各社は国内の生産能力を維持する構えを崩していない。部品メーカーを含めた生産現場では、血のにじむようなカイゼン活動に取り組んでいる。だが、仮に完成車工場は残っても、輸入部品の拡大などによって、サプライチェーンの空洞化は避けられない。このままでは、「日本車が消える」日が、確実にやってくる。
 
 『週刊東洋経済』2011年9月24日号(9月20日発売)では、ニッポン自動車産業の現状を総力取材した。
 (週刊東洋経済編集部 写真:大塚一仁)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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