「オキシコドン」は、"警戒"するべき薬だった アメリカ人医師に聞く処方現場の実態

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私の母も末期がんで死期が迫っていても「中毒になりたくないから」とオキシコドンの使用を断った。「大丈夫。ドクターの指示通りに服用すれば、依存はしても、中毒にはならないよ。これ以上苦しんで欲しくないから飲んでみたら」と薦めても母はノーと言い続けた。家族としては、壮絶な痛みを少しでも和らげて欲しかったが、死期が迫っていても、中毒になって、意識が朦朧としてしまうのではないか、まともに頭が働かなくなるのではないか、と恐れて拒否するがん患者はかなり多い。

オキシコドンには「逃避効果」がある

――副作用について伺います。オキシコドンを服用すると「多幸感」を感じられるのでしょうか。

多幸感と言うよりも、本人が直面しているトラブルや心配事から一時解放されて、逃れることができる「逃避効果」が強い気がする。逃避のためにアルコールを飲んで酔っ払うのと基本的には似たような感じだ。通常、中毒になりやすい人の場合は、単に依存的傾向があるだけでなく、鬱的状況にあるケースが目立ち、現実から逃避したい願望がある場合が多い。

――米国ではマリファナ(大麻)が薬用、そして娯楽用としても合法だとする州が増えていますが、コロラド州では、マリファナ使用は合法であっても、勤務先の企業で抜き打ちドラッグ検査で引っかかった場合は、企業側は解雇しても良い、という州最高裁の判決が出ました。

勤務中ではなく自宅で合法的に薬用マリファナを吸うにしても、ドラッグテストで成分が検出されてしまった場合は、職種によってはやはりアウトだろうと思う。ドライバー、機械を操作する人などは安全性第一の仕事に従事しているわけだから細心の注意が必要だ。

例えオキシコドン中毒だとしても、それだけでは犯罪ではないし、単に個人の問題というだけ。ただ、オキシコドンを服用した際には車を運転しないようにと医師から注意されるはずだから、ハイになったまま、運転していて、事故を起こした場合などは、問題となるだろうと思う。

――そもそも、米国では入社に際してドラッグテストを実施するケースが多いように思います。

米国では、輸送会社で車を運転するドライバー、工場の生産ラインで働く人などにはドラッグテストを定期的に実施するのが普通だ。特に運転中や、機械を作動している時に薬でハイになっていたら事故を起こす可能性もあるし、危険なためだ。

ただ、役員クラスの社員にドラッグテストを実施するというのは米国では聞いたことがない。私個人の意見としては、平社員や工場勤務の社員が尿検査などのドラッグテストを受けなければならないのなら、エグゼクティブ社員も受けるべきだとは思う。みんな平等であるべきだ。

オキシコドンの場合は、服用をやめれば数日で身体のシステムから成分が消えるが、マリファナ(大麻)はそうはいかない。比較的長期間、身体のシステムに残る。企業が行うドラッグテストで引っかかる率は、オキシコドン中毒者より、マリファナ常習者の方が高いだろう。

――ハンプ容疑者の場合、GMやペプシコなどで出世し、トヨタでも役員という高い地位について注目されたわけですが、上級エグゼクティブがオキシコドン中毒になってしまうケースは多いのでしょうか。

社会的地位、職業、学歴、知性、知識の量などと、その個人がドラッグ中毒になるかならないかには、全く関係がない。どんなに頭のいい人でも中毒になり得る可能性がある。どんなに知性の高い人でもたばこがやめられないケースと同じだ。私のクリニックにも、有名な大学教授や優秀なエンジニアで、鎮痛剤中毒やドラッグ中毒で悩んでいる人が来たこともある。

オキシコドンがヘロインやマリファナなど他のドラッグの入り口になる場合もあるし、そうでない場合もある。ただ、彼女の場合、自分が日本で注目される地位についていることを十分認識していたはず。にもかかわらず、57錠の薬を隠すようにして送ってしまうような行動を取ったのだとしたら、ちょっと疑問に感じる。

長野 美穂 ジャーナリスト

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ながの みほ / Miho Nagano

米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙記者として5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社に勤務した経験もある。

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