東郷町長「ハラスメント辞任」激しい呆れの根源 「お前らの脳みそは鳩の脳みそより小さい」

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その後、町議会で不信任決議案が審議されたが、賛成10、反対6となり、可決に必要な4分の3に満たなかったことから、否決された。そして12月、3人の弁護士からなる第三者委員会が設置され、今回の報告書提出に至った。

報告書にある一連のハラスメント言動を見て、筆者は井俣氏には「2つの履き違え」があるように感じた。それは「リーダーシップ」と「冗談」だ。政治家を見ていると、リーダーシップをとることを、ときに「権威を振りかざすこと」だと勘違いしている人がいる。そうした感覚が、井俣氏にもあったのではないか。今回の騒動を見ていると、どうしてもそう見えてしまう。

リーダーシップは、形から入るものではない。職員へ圧をかけることで、相対的に自らの立場を高めようとしても、いつかボロが出る。「この人を怒らせると居場所がなくなるから」と消極的に従わせるのではなく、「この人についていこう」と前向きに思わせることが重要なのだ。

もう1つが「冗談」を履き違えていること。井俣氏は11月時点で、発言の真意を問われて「冗談のつもりだった」と主張していたが、ジョークだと言えば、なんでも許されるわけではない。たとえ相手が笑っていても、忖度かもしれないし、報復を恐れての保身行動とも考えられる。

実際に調査報告書でも、第三者委員会が「組織のトップからの発言であり、優越的な関係から、職員は黙って耐えるか、笑って誤魔化して対応するしか、すべがなかった」と背景を推察している。

こうした政治家による舌禍事件で思い出したのが、先日の静岡県・川勝平太知事による発言だ。春の新入職員向けの訓示で、職業差別ととられる発言を行い、こちらも「擁護する余地がない」などと批判が相次ぎ、辞意表明を余儀なくされた。

筆者は、東洋経済オンラインで「川勝知事『知性の高い』発言がマズいこれ程の理由」と題したコラムを書き、それまでの川勝氏の発言を振り返りつつ、問題点として「にじみ出る『上から目線』」「根拠のない『臆測による対比』」「自説にとらわれ、世論を認識できていない」の3つを挙げた。

農業や畜産業に関わる人たちと対比しながら、新入県庁職員に対して「皆様方は頭脳、知性の高い人たちです」と述べたとされる川勝氏と、町の職員に対して「お前らの脳みそは鳩の脳みそより小さい」と述べたとされる井俣氏。目の前の相手に言ったか、第三者に言ったかの違いはあるが、不思議と通底するものがある。

ネット時代は、アップデートできない人に対して厳しい 

政治家の発言は、ときに「失言」とされて、イメージダウンにつながる。今年の頭には、大分県別府市の長野恭紘市長が、大谷翔平選手からの寄贈グローブを「私が見るだけではもったいない!という事で、市役所正面入口に当面飾ります!」とSNS投稿したことで、子どもたち向けのプレゼントを「私物化している」と大きなバッシングを呼んだ。

筆者は当時、「大谷グローブ飾った市長は結局何がマズかったか」と題したコラムで、「市区町村長といった首長は、権力の象徴と位置づけられている。そもそも、首長も議員も、国政も地方政治も問わず、政治家は常に権力監視にさらされている」と書いていた。

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