人類の将来に影響、プラスチック汚染条約の焦点 生産制限、問題プラの禁止めぐり交渉が山場

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まず初めにプラスチックごみ問題の現状について見てみたい。

経済協力開発機構(OECD)が2022年2月に発表した報告書によれば、2019年の全世界でのプラスチックごみの発生量は約3億5300万トンと、約20年前の2倍以上に増大している。これに対して、プラスチック廃棄物のうちリサイクルされているものはわずか9%にとどまっている。

全体の約50%が埋め立て処分に回され、約19%が焼却される一方、残る約22%は適切に管理されていないごみ捨て場に持ち込まれたり、環境中に直接漏れ出したりしているという。

このOECD報告書によれば、2019年には約780万トンが川や海などに流出したと推定。約3000万トンのプラスチックごみが海の中に存在し、約1億0900万トンが河川に蓄積されているという。

また、同報告書によれば、不適切なプラスチックごみ処理量については、OECD諸国では排出量全体の約6%であるのに対して、開発途上国など非OECD諸国においては39%に達している。開発途上国ではごみ収集の仕組みが整っておらず、適切な処理システムが構築できていないことに原因がある。

途上国に負荷が集中する理由

ただし、その責任のすべてを途上国に帰すことはできない。

国際環境NGO(非政府組織)のWWFが2023年11月に発表した報告書によれば、低所得者の多い開発途上国の国民は、先進国の国民と比べて、プラスチックがもたらす負の影響を金額換算で10倍以上も受けている(下図)。

「途上国で消費されるプラスチック製品の多くは先進国の企業が設計・生産したものだ。さらに途上国は多くのプラスチック廃棄物を先進国から輸入している。こちらは途上国で適正に処理できる能力を大幅に超えている。つまり、途上国の国民は、プラスチックの使用や廃棄に伴い莫大な社会的な費用を負う一方、先進国のメーカーなどはコスト負担をしないという構図になっている」(WWFジャパンの三沢行弘プラスチック政策マネージャー)

また、太平洋の小さな島国のように、莫大な量の海洋プラスチックごみが漂着し、被害を受けている国もある。

ブータンの首都ティンプー郊外にあるごみ埋立地。ティンプーで発生したごみの大部分が捨てられている(C)James Morgan / WWF-US 

プラスチック汚染は今後、さらなる深刻化が予想されている。前出のエレン・マッカーサー財団の報告書によれば、2050年のプラスチック生産量は11億2400万トンと、2014年の2.6倍にも増大する。それに伴い、海中のプラスチックごみは魚の重量を上回ってしまうという。プラスチック生産で発生した二酸化炭素(CO2)は地球温暖化の主要因にもなる。

WWFは、プラスチック生産の総量削減にとどまらず、問題のあるプラスチックの禁止または段階的な禁止も主張している。具体的には、製品の特徴に応じてプラスチックをいくつかのカテゴリーに分類し、ほかに代替の可能な使い捨てプラスチックなどについては即時に使用禁止するといった規制を世界レベルで設けるべきだとしている。

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