銀行が苦悩「上げられない住宅ローンの変動金利」 客離れ懸念、融資手数料の「負の側面」が顕在化

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前述のSBI新生銀行の場合、最優遇で0.29%の低金利を享受するには、住宅ローン契約時に借入額の2.2%を一括で支払う必要がある。5000万円のローンなら手数料は110万円だ。赤字覚悟で金利を下げる代わりに、住宅ローンの申し込み件数を増やして融資手数料を稼ぐもくろみが透ける。

融資手数料への過度な依存は諸刃の剣でもある。手数料型の採用に消極的なある銀行の首脳は「手数料型は『麻薬』だ。一度導入したら最後、収益を維持するためにローンの実行件数を追い求めないといけなくなる」と話す。

金利を引き上げた結果申し込みが減れば、手数料が目減りしかねない。こうした事情も、銀行が変動金利の引き上げをためらう一因となっている。

短プラを引き上げた住信SBIの勝算

金利水準の我慢比べの様相さえ呈する住宅ローン市場。住信SBIネット銀行の円山法昭社長は「今の住宅ローン金利の決まり方は合理的ではない。マーケットは相当ゆがんでいる」と喝破する。「マーケットを適正な金利水準に誘導したい。ユーザーの利便性を改善させて、金利競争によらずに住宅ローンを獲得する」(円山社長)。

その言葉通り、同行は5月1日から短プラを0.1%引き上げる。基準金利の判定日である10月1日時点で短プラが引き上がったままなら、2025年1月からは住宅ローンの返済額が増える可能性が高い。

先陣を切って短プラを引き上げた同行に勝算はあるのか。

同行が秘策と位置づけるのは、5月下旬から投入する邦銀初のデジタルプラットフォーム「かんたん住宅ローン」だ。住宅ローンを利用したい個人と不動産業者、銀行をオンラインでつなぎ、必要書類の受け渡しや連絡、進捗の確認をすべてプラットフォーム上で行う。従来の申し込み手続きと比較して審査スピードは2倍、コストは半分に抑えられる見通しだ。

同行は利便性が高ければ、他行より金利が高くても顧客からの支持を得られると踏む。狙いは個人だけでなく不動産業者にも及ぶ。住宅ローン業務の負担軽減につながると分かれば、提携業者が同行の住宅ローン商品を積極的に紹介する動機づけとなるためだ。

多くの銀行は10月に基準金利の見直しを行う。住信SBIネット銀に追随して利上げに踏み切るか、あるいは低金利を維持して利上げを嫌う顧客の受け皿となるのか。銀行ごとの対応が焦点となりそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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