銀行が苦悩「上げられない住宅ローンの変動金利」 客離れ懸念、融資手数料の「負の側面」が顕在化

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市場金利を基準金利の参照先とする銀行では、市場金利の上昇に追随しない事態がすでに現実となっている。

楽天銀行と山陰合同銀行の住宅ローンの基準金利は、代表的な短期金融市場の金利指標である6カ月物の日本円TIBOR(東京銀行間取引金利)を参照している。TIBORはマイナス金利解除の観測が浮上した3月上旬から上昇しているが、楽天銀行が4月の基準金利を引き上げたのとは対照的に、山陰合同銀行は引き上げを見送った。

変動金利が動きづらい要因には、住宅ローンの収益源が金利収入だけではなくなりつつある点も挙げられる。

一例がauじぶん銀行だ。4月時点の最優遇変動金利は0.319%。加えて、電話回線や新電力などKDDIグループのサービスを利用すれば優遇幅はさらに拡大し、金利は0.169%まで下がる。会社側は公表していないが、引き下げに伴う金利収入の減少分は、これらのサービスを提供するグループ会社が事実上負担する戦略のようだ。

住宅ローン企画推進部の吉永圭吾マネージャーは「グループシナジーを活用して、使いやすい金利を提供したい」と話す。実際、KDDIグループのサービスを利用し、優遇後の金利が0.3%を切る利用者は少なくないという。同行にとって住宅ローンは、金利収入を得るというよりも、むしろグループの「経済圏」に取り込むための呼び水となっている。

引き返せない融資手数料の罠

加えて、銀行が融資手数料に傾倒することで、金利の上昇圧力が弱まっている状況も見て取れる。

「このタイミングで引き下げに来たか」。ある銀行の住宅ローン担当者は虚を突かれた。日銀がマイナス金利解除を発表した翌営業日に当たる3月21日、SBI新生銀行は住宅ローンの変動金利の優遇キャンペーンを打ち出した。4月以降の新規申し込みや借り換えを対象に、最優遇金利を従来の0.42%から0.29%まで引き下げた。

一方で、同行は預金金利を3月下旬から引き上げている。資金調達費用がかさむ中で住宅ローン金利を引き下げれば、利ザヤの縮小は不可避だ。それでも同行が最安値水準の金利を提示した背景にあるのは「融資手数料」だ。

かつての住宅ローンは、利用者が保証会社に保証料を支払う方式が主流だった。近年は保証料を取らない代わりに、銀行に数十万から百万円程度の手数料を支払う融資手数料型が普及。手っ取り早く収益を上げられるとあって、今ではほとんどの銀行が保証料型から手数料型へと軸足を移している。「手数料型を導入した途端に、不採算だった住宅ローンの収益性が改善した」(地方銀行幹部)。

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